第937話 最凶

 ヴィベルファクフィニー物語、ここに完!


 に、なってもなんら後悔のねーこの状況。イイ人生でした。さようなら~。


 ………………。


 …………。


 ……。


 って終わらせてくれないのが我が人生。この運命が憎い……。


「ベー。また溺れたの」


「バカね」


 ルンタの尻尾で水の中から取り上げられた。


 リビング島に放り投げられ、飲み込んでしまった水を結界で吐き出した。おぇ~!


 臭い対策しかしておらず、茫然自失で失敗を活かせなかった。ここは落ち着いてクールになろうぜ、オレ。


 ってか、そもそもオレはなにしに来たんだっけ?


 いやまあ、ほとんど自業自得なんだが、この下水道を調べるために来ようとはしていた。


 牙ネズミとタコの調査。あと、不安要素(骸骨嬢とは斜め上をいったがよ)の確認。できたら排除と考えていた。


 今現在の情報では、生態ピラミッドができており、バランスのよい生態系となっている。


 不確定要素は、骸骨嬢とオレンジ色のタコと判明。見た目や存在はアレだが、領都の住人に害を与える存在ではない。


 ……いや、オレには害しか与えない存在だけどよ……。


 落ち着いて、クールに考えたら、このままがイイんじゃね? って結論になる。


 ゼルフィング商会としては下水道の掃除や補修をやってればイイ。骸骨嬢がいる場所は見なかったことにして、極力避ける。うん。イイね。それで行こう。


「ってことで帰るか」


 よっこらしょと立ち上がり、空飛ぶ結界を生み出した。


「はぁ~。帰ったら風呂に入らなくちゃな」


 結界で水分や汚れを取ったとは言え、気分的に汚れたてる感じだ。身より心をさっぱりさせてーよ。


「ルンタどの、ヴィどのをこちらに」


「わかった~」


 スルッとルンタの尻尾がオレの体に巻かれ、元の席に戻されてしまった。さりげなく退散、失敗でござる……。


「……なんだよ? もうオレいらないじゃん。お前らでやれよ……」


 同類同士、一般人を巻き込むなや。


「いや、ヴィどのの知恵をお貸しくだされ。拙者には無理でごさる」


「オレは無理。以上!」


 バッサリと切る。オレにお前らをどうこうするなんてできねーわ! 邪神にでも頼れ!


「そこをなんとか頼むでごさるよ~。ヴィどの以外頼れる者がいないでごさるよ~」


 なぜか足にすがりついて来る汚物嬢。鬱陶しいわ!


「お前らでなんとかすればイイだろうが! なんとでもできる力があんだからよ!」


 つーか、なにをオレに頼んでんだよ? いや、これっぽっちも知りたくねーけどよ!


「それができないからヴィどのを頼っているでごさるよ~」


「お前にできねーもん、オレにできるわけねーだろうが!」


 オレの三つの能力じゃテメーらをまっとうになんてできねーわ。クソ! こんなことになるなら聖魔法を願うんだったぜ。


「いや、ヴィどのしかできないでござるよ。キャロの居場所を守って欲しいでござる~」 


 いつの間にキャロなんて呼ぶまで親しくなってんだよ? ってか、話がまったく見えねーよ! レイコさん、要約して!


「えーと、ですね。キャロリーヌさんは、ここから離れられないので、公爵様にお願いしてここにいられるようにしてください、とのことです」


「さすがヴィどのに憑く幽霊どのでごさる!」


 アハハ。レイコさん、エリナの中で変人扱いされてるよ。


「いや、大元のベー様が貶められてますから」


 ナヌー! オレはまともだわ! 変人じゃねーわ!


「ヴィどの、公爵様に頼んでくだされ~」


「別にお前の配下にしたらイイじゃねーかよ! 同類なんだからよ」


「同類ではないでござる! 同志でござる! やっと現れた対等な立場になってくれる友達でごさる!」


 知らねーよ。つーか、お前に友達と付き合えるコミュニケーション能力なんてねーだろうが!


「無茶言うな! どう考えても公爵どのが許すわけねーだろう!」


 自分の住むところの下にリッチ級の骸骨や災害級のタコがいる。それで「おう、イイよ」なんて言ったら友達付き合い止めるわ!


「そこをなんとかしてもらいたいでござるよ!」


 なんともなんねーよ。オレをなんだと思ってんだよ。S級村人でも限界があるわ。


 と、そこで終わるならオレの人生どんなに楽か。そんなときに限って変な案が出て来るから嫌になるぜ……。


「その顔は名案が出たでござるな!」


「……名案ってほど名案じゃねーよ。どっちかと言えば邪道な案だわ……」


 前々から思ってたが、オレは裏で暗躍させたら最悪な野郎だよな。


「それでこそ最凶の村人でござる!」


 なんだろう。最強が最凶に聞こえたのは気のせいか?

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