第932話 はぁ?

「……お前はヤーサンか……?」


「品行方正にして公明正大。最強村人とはオレのことよ。たまにダークになるのはご愛敬」


 ニカッと笑いながらサムズアップする。が、なんとも冷たい目を見せる茶猫さん。理解されなくともオレはオレを貫くもん!


「んなことはどうでもイイんだよ。まったく、どーすっかな~」


 こんなときはマンダ○タイムと、先ほどの場所に戻ってコーヒーをいただいた。


「もー! 先にいかないでよ!」


 と、プンプン丸なプリッつあんと樽を抱えたミタさんがやって来た。あ、酒を頼んだった。すっかり忘れったわ。


「ワリーワリー。考えごとしてたら忘れてたわ。ご苦労さんな」


 ここは、素直に謝っておこう。下手な言いわけして拗れるのもメンドクセーしよ。


「で、酒は買えたのかい?」


「はい。鉄貨三枚で一樽分買えました」


 ドンと抱えていた樽を地面に置くミタさん。あなた、力持ち……って、そう言や、強化服的なメイド服でしたね。変装してるから忘れったわ。


「鉄貨?」


「これです。銅貨一枚で鉄貨五枚になりました」


 一円玉より一回り小さく、歪なものだった。これに価値を持たせようとか、スゲーことやってんな。


「換金もしてくれんだ。なんかスラムを隠れ蓑にして国でも作ってんのか?」


 行き当たりばったりでやってる感じじゃねー。そこはかとなく計画性を感じるぜ。


「まあ、イイ。そんで、味見はしたのか?」


 ミタさんではなくプリッつあんに尋ねた。意外かも知れんが、ミタさんも酒には弱く、葡萄酒一杯でダウンするんだってよ。


「うん。一杯飲んでみたわよ」


 スラムの住人が飲んでるから毒ではないんだろうが、原材料がなんなのかもわかんねーのによく飲めるよな。


「あまり強くはないけど、なかなか美味しかったわ」


 度数は高くないが、味はよし、か。ビール的な飲み物か?


「炭酸は効いてるのか?」


「炭酸はないけど、ちょっと独特な味ね。でも炭酸で割ると美味しいかも」


 炭酸で割ると旨いとなると、リキュールか? 香りが嗅げたらわかるんだがな。


 香りだけでも気分が悪くなるのでやらないが、まあ、酒好きの証言を信じるしかねーか。


「宿で出したら好まれるか?」


「んー。一般受けはしないと思うな。ちょっと独特だし、強くもないからね」


 酒好きによる風変わりな酒か。まだ発展途上な酒のようだな。


「他の酒好きに意見を聞いてから公爵どのに話すか。あ、ミタさん。タバコもいくつか買って来てくれや。確か、チャンターさんのところにタバコを吸っていたヤツがいたから試してもらうからよ」


 まあ、チャンターさんがどこにいるか知らんけどねっ。


「はい。ここから動かないでくださいね。プリッシュ様、お願いします」


「任せなさい。動いたら後ろから蹴りを入れるから」


 ヤダ。メルヘンさんが狂暴です。


 メルヘンの蹴りなど余裕で交わせるが、今はメルヘンと和気藹々する気分ではねーので、大人しくコーヒーを楽しんだ。


「あ、リリー。なんかいるよ!」


「本当だ。なにかしらね?」


 川を覗き込むルンタとカバ子。今さらだが、やけに大人しいよな。もっと大暴れするかと思ってたんだがよ。


「魚じゃないわね?」


「虫でもないね?」


 そんな平和な二人を眺めていたら、突然、ルンタが人化を解いて白妖蛇に戻った。


「あれ、美味しいヤツだ!」


 と、川に飛び込んだ。はぁ?


「もー! 意地汚いんだから!」


 と、不思議な国のお嬢さん型になっていたカバ子も元に戻って川へと飛び込んだ。はぁ?


「──ちょ、ベー!」


 そして、オレも川に飛び込んだ。はぁ?

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