第931話 タバコ

 考えてもわからないときは行動あるのみと、口利き屋(仮称)へと突入した。


 チンピラが絡んで来るかと思ったが、それらしきヤツはいない。冒険者ギルドのようにカウンターがあり、受付が四人ばかりいた。


 字が読める者がいないのから、壁には依頼書は張り出されてはいない。が、番号が刻まれた木札が沢山かけてあった。なんぞや?


「ミタさんとプリッつあん。酒買って来てくれ。どんなものか知りたいからよ」


 オレは飲めないので飲める人の感想で判断します。


「畏まりました」


「任せて~」


 中からも食堂へいけるようで、なんの迷いもなく酒を買いにいった。


 オレが言うのも間違ってるが、マフィアの本拠地かも知れないところでまったく危機感を感じないとか、なんかいろいろ麻痺ってるよな。


「……お前ら、いったいどんな修羅場を潜り抜けて来たんだよ……」


「人生常に生き残り戦。十一年もやってたら嫌でも度胸がつくわ」


 ついでに逃げ足の速さもつくんだぜ! 世を生きるすべての者よ、覚えておきな!


 今は活動時間から外れているようで、口利き屋(仮称)の中は閑散としており、受付のおっさん(潤いのねー職場だ)たちもタバコ(あったんだ。初めて見たわ)を吸っていた。


「……バイブラストのことは公爵どのから聞いてたが、やっぱ、聞くと見るとは大違いだな……」


 どんだけ恵まれてんだよ、バイブラストは?


「なにそんなに驚いてんだよ?」


「タバコだよ。南や東の大陸ではあると聞いたことはあるが、この大陸でタバコがあるなんて聞いたことがなかった。それが馴染みのあるバイブラストで吸われているとか、これが驚かずにはいられるか」


 これが街の中ならそれほど驚きはなかっただろう。南も東の大陸もタバコは嗜好品で高級品だ。そう頻繁に吸えるものではない。


 それがスラムの住人が暇潰しで吸っている。これは安いことを証明しており、歴史があることを語っているのだ。


「……お前のワールドワイドな話は軽く流すとして、タバコなんて儲かるものじゃねーし、体にワリーだろうが……」


「アホか。世界と時代と状況を考えろ。タバコは嗜好品。ところによれば嗜みだ。一種のステータスにもなれば薬としても扱われる。禁煙分煙なんて概念が生まれるまでタバコは巨万の富を生むものなんだよ」


 前世じゃタバコで儲けたヤツはいくらでもいる。それを知っていて見逃すようでは商人……ではなくても村人なら生産しようかと思うものだ。


 ……まあ、できるかどうかはまだわからんけどよ……。


「参ったな。益々厄介になって来たぜ」


「なにが厄介なんだよ? 儲かるならいいじゃねーか」


「少しは頭を使え。儲かると言うことは、それを奪おうとする者が出て来るってことだ。タバコが儲かると知った貴族はどう思う? へーそうなんだ、とか思うか? スラムの住人に気を使うか?」


 欲しければ奪え。証拠は消せ。すべてを自分のものとしろ。なんてことを考える公爵どのではねーが、強欲な商人ならやるだろう。役人を抱き込めば公爵どのには届かない。それが封建社会なんだからよ(テキトー)。


「……クソだな……」


「それがまかり通る時代。嫌なら革命でも起こせ、だ」


 オレはメンドクセーから陰でコソコソやるけどな!


 なんかもうオレの手には負えないレベルになって来たような気がしないでもないが、引き受けた以上はやるべきことをやるしかねーか。ゼルフィング商会の儲けのために、よ。


 カウンターを見回し、ビビッと来たおっさんのところへ向かった。


「なんのようだ?」


 やる気ゼロで横柄な態度だが、こんな場所で親切丁寧な対応など害悪でしかねー。威圧してナンボだ。


「ここをシメてるヤツに会いたい。呼んでもらえるかい?」


「帰れ」


 と、にべもない。まあ、そんなもんだろう。用心棒的なものを呼ばないだけ対応は優しいほうだ。


 ズボンのポケットから金貨を一枚出してカウンターに置く。


「貴族のボンボンかよ」


 嘲るように笑い声、金貨をつかむが、それだけ。カウンターの下からタバコを出してわざとらしく吹かした。


「訂正が一つある。その金貨は弁償だ」


 殺戮阿を抜き放ち、カウンターへと振り下ろした。


 手加減したとは言え、木で作られたカウンター。想像以上に壊しちゃいました。メンゴ☆


「オレはベー! バイブラスト公爵より全権を与えられたものだ! 会話には会話で。力には力で相手してやる。好きなほうを選びな!」


 そう啖呵を切って口利き屋(仮称)を出た。

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