第895話 領都へ
領都に買い物に出かける日の朝、少し遅めの朝食をいただき、コーヒーブレイクをしていると、マイシスターとカレット嬢が爽やかな汗を流して現れた。
「あんちゃん、今日、ブレオラスにいくんでしょう?」
オレを見つけるなりそんなことを口にしたマイシスター。なんだい、ブレオラスって?
「バイブラストの領都ですよ」
と、背後の幽霊が教えてくれました。
……この幽霊、存在を消してるときなにしてんだろう……?
寝てるかと思えば、そうではないらしく、なんか秘密なことをしているらしい。はっきり答えないので、なにしてるかは知らんけどよ。
「あ、ああ。領都な。ってか、今さらだが、バイブラストじゃなかったんだ」
完全無欠にバイブラストって名前だと思い込んでたから忘れてたわ。
「バイブラスト領なのに、領都まで同じくしたら紛らわしいじゃない」
レディカレットからの当然のような指摘に、そりゃそうだわなと素直に納得した。異論もねーしな。
「あんちゃん、いくんでしょう?」
「ああ。コーヒーを飲んだら出発するよ。それがどうかしたのか?」
どこにいくの? なんて滅多に訊かねーのに珍しいこと。
「あたしもいってイイ?」
さらに珍しいこと。どうしたんだよ?
「カレットが遊びにいこうって言うから」
さらにさらに珍しいこと。オレがどんなに誘ってもバリアルの街や王都に行こうとしなかったのに。
「……ま、まあ、それなら構わんが、そんなキレイなところじゃねーぞ」
いや、領都を歩いたことはねーが、バリアルの街や王都とそれほど変わりはないはずだ。結構汚いし、クセーはずだ。
「大丈夫。いろんなところに行って慣れたから」
まあ、それも確かに、だな。普通のヤツだったら精神がおかしくなっても不思議じゃねーところばっかりだからよ。
……あれで精神が鍛えられるサプルの精神もどうかと思うがな……。
「好きにしな。ってか、お前が興味を持つようなんてものが領都にあるのか?」
デカい街とは言え、サプルが興味を持つようなんてものがあるとは思えねーんだがな。
「ブレオラスにガラス工房街があるんだって」
ほぉ~。そりゃスゲーな。
うちでは当然のようにガラスを作ったり使ったりしてるが、この時代ではまだ最新技術。一つの都市にガラス工房が三つもあればイイ方だろう。
それが街とつくくらいあるなんて初めて聞いたぜ。
「べーたちが使ってるガラスほど質はよくないし、窓ガラスを作ってるところかほとんどだけど、何件かガラス細工やグラスを作っているところがあるの」
ほーほー。それは益々スゲーな。時代を考えたら革新的じゃねーか。
「オレも時間があったら寄ってみるか」
それほどガラスに興味はねーが、そんな革新的なことしているなら見たいもんだぜ。
「べー様。城の受け入れが整いました。いつでも出発できます」
いないと思ったら領都にいってたのね。できるメイドさんで助かります。
「あ、お風呂に入って来るからいかないでね!」
ゆっくり入ってこい。そう急ぐ買い物じゃねーしよ。っな意味を込めてコーヒーカップを掲げた。
「カレット、さっぱりしよう」
「ええ」
なにやらすっかり仲良くなっちゃって。そんなに馬があったのか?
まあ、どちらも好きなこと、興味があることには活動的なタイプだから打ち解けるのも早いとはおかしくが、育った環境は丸っきり違うのに、あそこまで仲良くなるとは思わなかったぜ。
「べーの妹ってのだけはあるわよね」
なにやら高そうなカメラを磨くメルヘンさん。君の趣味がよくわかりませんぜ……。
「はい。べー様の妹様ですもの」
ミタさんが自分のことのように胸を張って口にした。なんでやねん。
「そう言えば、公爵どのには伝えたのかい?」
今日も今日とてレースをしているようだが。
「はい。伝えております。無茶はしないでくれよとのことです」
買い物でどう無茶すんだよ?
「調子に乗って買い占めとかするじゃない、べーは」
そんなことはねー! と言えないところが辛いです。だが、買えるなら買わしてもらいますがね!
「そう言や、バイブラストの主生産農作物ってなんなんだ?」
小麦は多少は作っているとは以前、聞いたことはあるが、主生産農作物は聞いたことねーな。あんのか?
「ガルネと言う根菜だと聞いてます。これです」
と、ミタさんが赤カブっぽいものを出した。
「食卓に出たことねーよな?」
せっかく帝国に来たから帝国の食材で食事を頼んでいたが、これが出た……はずだ。いや、そこまで気にして食ってなかったがよ。
「これは家畜の餌だそうです。みのりは速いそうなのですが、味がほぼないんです」
一応、食べれますと言うので、一つもらって噛ってみた。うん、微かに辛味? が感じられる程度だった。
「馬も食べるとかで、バイブラストの主生産物になってるそうです」
なるほどね~。うちの馬たちや毛長牛とかも食うかな? 売ってるところがあったら買ってみるか。
コーヒーの香りを楽しみながら買い物リストを考えていたら、サプルたちが風呂から上がって来た。町娘が着そうな服に着替えて。
「そんな服、持ってたんだな」
お忍びで町に出てんのか? レディ・カレットは。
「まーね」
持っていることは素直に認めるが、お忍びで出てるかは答える気はなさそうだ。まあ、持っている時点で出てると答えているようなもんだがよ。
残りを飲み干し、コーヒーカップテーブルに置いた。
「んじゃ、いくか」
それぞれ転移バッチを発動。領都へと転移した。
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