第880話 水輝館(みずきかん)
オレの前に道はなし。オレの後に道ができるのだ。
なんて有名な一節を真似てみたが、道路工事してる人が言っても「はぁ? なに言ってんだ、お前? 仕事しろ、仕事!」って怒られるだけ。
今のオレはそんな感じ。土魔法と結界を使って道を切り開いている。
「……なんか飽きて来た……」
公爵どのの要望で、湖を一周できるように道を造っているのだが、木を引っこ抜いて無限鞄に詰め込み、土魔法で大地を均し、結界で道を舗装する。
やっていることは単純だが、二つの能力を使い分けながらは結構疲れるもの。飽きないように休み休みやってはいるが、さすがに八日も同じことをしていると飽きて来たぜ。
前世じゃ単純労働を十二時間やって来て、なんにも思わないで何年も続けられたのに、今生のオレは十日と保たねー。もう苦痛でしかねーよ。
「まあ、湖は一周させて、二コース造ったからこれでイイだろう」
うん。それでオッケー。ミッションコンプリート!
「ピータ、ビーダ、歩道とサイクリングロードはそのくらいでイイぞ」
さすがに歩道まで面倒見れないので左右をピータとビーダに任せていたのだ。
なんで歩道やサイクリングロードまで造るんよ? と疑問に思う方もいるだろう。本来は造る予定はなかったのだが、最初に造ったコースをレディ・カレットがジョギングコースとしてしまったのだ。
走るなんて楽しさを理解できないサプルは、レディ・カレットを不思議そうに眺めていたが、つまらなさそうにしてたのでカイナーズホームで自転車ロードタイプを買ってやり、乗り方(三十秒で乗り熟しました)を教えたらハマってしまったらしく、自転車を走れる道も造ってと駄々をこねて来たのだ。
まったく、我が妹ながらなにが好みかよーわからんわ。
「あんちゃーん!」
飽きることを知らないサプルが今日何度目かの追い越しをして行った。
片手を挙げてサプルの呼びかけに応えた。
「べー!」
少し遅れてレディ・カレットがやって来た。
朝はジョギングだが、昼間はサイクリングで汗を流している公爵令嬢さま。あなた、ほんと動くのが好きだよね……。
手を振って来るレディ・カレットにも手を挙げて応えた。
見えなくなるまで見送り、別荘へと戻った。
「お帰りなさいませ、べー様」
帰るのを知っていたかのようにミタさんが玄関前で迎えてくれた。
「ただいま。風呂空いてるかい?」
サプルがいるところ、必ず二十四時間風呂あり。ただ、別荘の風呂は一つなので、必ず確認しなくてはならないのだ。
「はい。今は誰も入っておりません」
誰って、いつものメンバー以外誰かいんの? と察しのよい方に先んじてお答えしよう。
ここの別荘──いや、帝国でのゼルフィング商会の仮拠点、水輝館みずきかんなので、帝国で活動する人員が日々、集結しているのだ。
「ただいま」
と、陣頭指揮を執っている婦人が帰って来たので、感謝を込めて敬礼して迎えた。
「……なにかしら……?」
「気にしなくていいわよ。ミタレッティー。お風呂入れる?」
陣頭指揮を執る婦人と一緒にオシャレ部門を仕切るプリッつあんにも敬礼する。でも、軽く流されました。クソ……。
「申し訳ありません。今から──」
おっと。その先は言っちゃダメだよ、ミタさんと、結界でお口をチャックした。
「空いてるから入りな」
がんばっている人優先です。ささ、どうぞどうぞ。と、ミタさんを操って婦人とプリッつあんを風呂場へと連れていった。
見えなくなるまで笑顔を保ち、十秒待ってからホールにあるソファーへと倒れ込んだ。
……こっちもガンバってんだよ……。
と、心の中でグチを吐いた。
いや、口で言えよとはノーサンキュー。それは丸投げ道に叛するんだよ。
「あ、お疲れさまです」
ソファーでぐったりしていると、ビジネススーツを着た十五、六の黒髪のねーちゃんが入って来た。
「……誰?」
なんかどっかで見たような気がしないでもないが、婦人が連れて来た中にはいなかったよね?
「リューコですよ」
リューコ? 誰や……って、ドラゴンガールぅっ!?
「……お前の成長、どうなってんのよ……?」
確かに成長速度が速かったが、婦人に預けて一月も過ぎてねーだろうが! 竜ってそう言うもんなのか!?
「わたしにもさっぱりです。ですが、この姿で止まったから、あとはゆっくり成長するんじゃないですかね?」
自分のことだろうに、完全に他人事として見ていやがる。イイのか、それで……?
「別に構いません。フィアラさんのもとで楽しく仕事してますんで」
それには心底楽しそうな笑顔を見せた。
「生活に問題はねーかい?」
「はい。前世より快適です。欲しいものはカイナーズホームで買えますし、館の食事も最高です。まあ、贅沢を言えば前世で読んでいた小説の続きが読みたいですね」
それはさすがになんともなんねーな。
「──お話中申し訳ありません。創造主より連絡が入りました」
と、控えていたメイド型ドレミがらしくもなく割り込んで来た。
エリナが口を挟んでイイことはなかったが、オレに関係ないのなら無関心を貫くまでだ。
「リューコ様。カイナーズホームの二階にあるとらにいくと、お求めになっている小説があるかもしれませんとのことです」
「とら? って、あのとらですか?」
なんかスゴく突っ込みたいが、こんなときこそスルー拳。三十倍だ!
「はい。そのとらです」
「ふふ。それは嬉しい情報です。今度の休みにいってみます」
さーて。オレには関係ねーし、風呂に入りたい。しょうがねーから館に戻ろうっと。
転移バッチ発動! 久しぶりの我が家へ、ゴー!
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