第879話 再び別荘へ

「ああ、任せなさい!」


 と、エルフたちに農業指導をオカンにお願いしたら、なんかやる気マックスで承諾してくれた。


 プリッつあん、どんな説明をしたのよ!?


「畑仕事をしたかったみたいよ」


 はぁ? いや、オカン、いつも畑仕事してるじゃん。


「うちに畑なんてないわよ」


 なに言ってんだ、このメルヘンさんは?


「館だけでうちの敷地内いっぱいなのに、いろんな人を受け入れるから増築に改造に空間拡張。畑や家畜小屋は山四つ離れたところに移動したのよ」


 え、そんなことがあったの?


「山四つなら大した距離でもあるまい。馬で一時間もかからんだろうが」


 オカンの性格なら一時間の距離などものともしないで通うだろう。


「うちに何人の魔族を雇い入れてると思うのよ。しかも、ママさんはベーの母親。強い者に従う魔族がママさんに仕事なんてさせるものですか。誰も彼も喜んで馬車馬のように働いているわ」


 それを知っているメルヘンがスゴいのか、なにも知らないオレが愚かなのか、我が家の事情は加速度的に変化しているようです……。


「ちなみに親父殿はなにしてんの?」


「魔族より馬車馬のように働いているわよ。まあ、楽しそうに働いているけどね」


 え、あ、うん。それはなによりです。


 なんかオレより村人してね? とか思いもするが、親父殿はまだD級村人。S級村人にはS級村人なりの仕事があるのです!


「ま、まあ、やってくれんなら助かる。つーか、オカンにも相当な人数がついてんだな」


 ダークエルフじゃなく、赤鬼族のねーちゃんら四人が護衛だかメイドだかでついていた。


「パパさんが安全のためにってつけたのよ。ママさんのやる気を止められないからって」


 まあ、愛する妻を魔大陸に行かせる夫とか、それこそ鬼だわな。


「強いのか、あの鬼のねーちゃんらは?」


「カイナーズホームの保安部で優秀な護衛官だって、カイナのおじさまが言ってたわ」


 カイナも間に入ってんのかい。あいつも家族にはマメさを見せる野郎だよ。


「まあ、オカンの身の安全が保障されてんなら問題はねー」


 オレもオカンには結界を施してある。並みの魔王では傷一つつけられねーだろうよ。


「通いはシュンパネか?」


「ううん。カイナのおじさまがうちとミタレッティーの村を魔法で繋いだみたいよ。おじいちゃまがベーにあげたのと同じやつ」


 おじいちゃま? オレにあげた? って、ご隠居さんのことか!? いつの間にそんな名を呼ぶような仲になってんのよ!?


「ベーが魔王ちゃんと家畜小屋で話し合っているときによ」


 あ、ああ。あのときか。つーか、このメルヘンのコミュニケーション能力の高さはなによ? ちょっと異常じゃね?


 メルヘンとの付き合い方を考えていたら、暴虐さんと魔王ちゃんがやって来た。どうしたい?


「そろそろ出発する」


「またな、師匠」


「おう。体に気をつけろよ、二人とも」


 そんなあっさりとした別れを告げ合うオレたち。どうせまたあっさり会うんだからこんなものさ。


「オレたちも別荘に戻るか」


 もうここでオレのやることはねー。あとは、ここで生きるヤツがやって行くことだ。


 いつもメンバーを見回して、ふとなにか足りない感じがした。


「あ、レディ・カレットか」


 存在の薄さにすぐにわからなかったわ。


 ……単体なら個性的な令嬢なんだけどな……。


 メルヘン、スライム×2、ダークエルフ、幽霊、地竜×2の中で存在を示されたら、それはそれでイヤだげどよ。


「レディ・カレットは?」


「サプルといるわよ」


 とのメルヘン情報を当てにサプルを捜すと、二人が楽しそうにお茶をしながらおしゃべりしてました。いつの間にそんな仲になったんだ?


「レディ・カレット。オレたち別荘に戻るが、どうする?」


 シュンパネをいくつか渡してあるし、レディ・カレットならどこでも生き抜ける性格と行動力を持っている。好きなようにして構わんぞ。


「戻るわ。母様や父様にいろいろ話したいこともあるし」


 そうかい。それならそれで構わんよ。


「あんちゃん、あたしもいってイイ?」


 は? なんでまた? チームはイイのかよ?


「うん。しばらく自由行動にしたから大丈夫」


 ほとんど自由行動のような気がしないではないが、我ら兄弟に言うだけ無駄。昔っから自由気儘に生きてますもん。


「そうか。好きにしな」


「ふふ。サプルともうちょっと一緒にいられるね」


「うん。カレットともっと話したいし」


 なにやらオレの見てないところで友情物語があったようで、なんか長年の親友同士のような間柄を見せていた。


 まあ、どちらも行動力のある幼女と少女だ。なんか通じるもんがあったんだろうよ。


「んじゃ、別荘にいくぞ」


 転移バッチがある者は各自に転移し、オレはドレミ、いろは、ピータとビーダ、そして、レイコさんとともに別荘へと転移した。


 理由? 全員につかまれたら鬱陶しいからだよ。つーかもう、一人一バッチにしろよ。どうせ転移に忌避も遠慮もねーんだからよ。

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