第844話 メルヘンは偉大

「そうだ。カーレってなんぼかもらえるか? サプルに持って帰りたいからよ」


 飛行機に夢中で料理をやっているかは謎だが、厨房に置いておけば誰かが工夫してくれんだろう。あ、ミタさんの分も忘れないでね。なんか欲しそうな顔してるから。


「サーレナ。回せる分だけ回してやってくれ。費用はおれの交際費から引いてくれ構わないから」


 へ~。交際費とかあるんだ。そりゃ、自由に使える金は必要になるわな。


「……主様、よろしいのですか?」


 第六夫人の顔からして、あまり褒められたことではないようだ。


「構わん。ベーには新しいバイブラストの名産を卸してもらうからな」


「新しい名産、ですか?」


「ベー。あの石を見せてやってくれ」


 と言うので涙型の太陽の石をいくつかテーブルに出した。


「わ-! 綺麗ぇ~!」


 レディ・カレットが身を乗り出して太陽の石を覗いていた。


「手に取って見てください」


 第六夫人にそう言い、一つを取ってレディ・カレットの手に乗せてやった。


「夫人。レディ・カレット。出会いを記念してお受けいただけると幸いです」


 第六夫人も太陽の石を知っておくのもバイブラストのためにはイイだろうよ。


「……よ、よろしいのですか? かなり高価なもののように見えますが……」


「遠慮するな。ベーにしたら金だろうがルビーだろうが、そこら辺に落ちている石と同じ。価値なんて求めちゃいない」


 まあ、概ねそんな感じだな。


「ただ、男の宝石と売り出すから女性には不向きかもしれませんが」


 その辺は公爵どのと話し合い、つけるつけないは個人の判断でしてください。


「まあ、バイブラストの特産となるならつけても構わんだろう。真珠のときもそうだったしな」


 そう言う宣伝もしてんのね。ご苦労さまです。


「……わかりました。ありがたくお受けします」


「ありがとう、ベー!」


 そんなので喜んでもらえるならなによりだ。


「マスター。お話中申し訳ありません。プリッシュ様より伝言です」


 プリッつあん? と頭に手を伸ばしたらいませんね。どこに置いてきたっけ?


「お前、いつかプリッシュに刺されるからな」


 蹴られたことは何度もありますが。それはノーカンですか?


「で、プリッつあん、なんだって?」


「──早く迎えにこいや、ボケーッ! だそうです」


 ほうほう。プリッつあんのクセに生意気なことおっしゃる。


「わかったわ、アホー! と伝えておいてくれや」


 気持ち、強めでね。


「わかりました」


「ワリー公爵どの。ちょっとうちのアホな子を連れてくるわ」


 まったく。手間のかかるメルヘンだぜ。


「って、プリッつあん、どこに置いてきたっけ?」


 朝いたのは……あれ? いたっけ? 今朝のことなのにまったく記憶にねーぜ。


「ったく。それで上手くいってるお前たちの関係が謎だよ」


 どちらかが堪えれば上手くいくものさ。ちなみにオレだからね。まあ、誰も賛同してくれないから口にはしないけどさ。


「プリッシュはおれが向かいにいくよ。約束したからな」


 公爵どのの色男! もうプリッつあんを嫁にしちゃいなよ。持参金、いっぱいつけちゃうよ! 


「ワリーな、うちのアホな子が面倒かけて」


「お前が一番面倒かけてるけどな」


 オレ、公爵どのに面倒かけたこと……ありますね。すんませんです。


「ちなみに、ベーとプリッシュ。どちらかにつかないときはプリッシュにつくからな」


 はぁ? なにいっちゃってくれてんのこの公爵さまは?


「いや、そこはオレにつけよ。意味わからんわ!」


 なんか裏切られた気分だよ。


「まず、お前を一番理解してるのはプリッシュだからな。あと、お前の面倒を一番見てるのもプリッシュだから」


 オレはプリッつあんを理解してないし、面倒みてもらっているつもりはないが?


 ……ってか、あのメルヘンを理解できるヤツがいるなら相談に乗ってもらいたいわ……。


「プリッシュの調整力は一種、神がかっている。お前の無茶振りをああまで捌けるなんてアバールやフィアラでも無理だからな。お前、プリッシュに見放されたらおれは一生軽蔑するぞ」


 な、なにやら公爵どのの中でプリッつあんが輝いています。まあ、オレの中では凶星のように輝いてはいるけどさ。


「いるいないはプリッつあんが決めたらイイさ」


 オレはオレのためにある。それが嫌だと言うなら寄生……じゃなく、共存を止めたらイイ。我慢してまでいることはないさ。


「ほんと、プリッシュは偉大だよ」


 なぜそれでプリッつあんが偉大になんだよ! 偉大はともかく、寛大だよ、オレ!


「まあ、お前たちの関係はお前たちが決めればいいか。プリッシュもベーの頭にいるだけあって器はデカいからな」


 それ、プリッつあんがオレを受け入れてるように聞こえるんですけど。最初、受け入れたのはオレだからねっ!


「サーレナ。ちょっとベーの相棒を連れてくるから、ベーを部屋に案内してくれ。あと、こいつは適当にさせておけば勝手に和んでいるから自由にさせていろ。ミタレッティー。ベーを自由にさせすぎてどこかへ行かせるなよ」


「はい。適度に自由にさせておきます」


 なんだろう、この四面楚歌状態は? オレは四方八方囲まれようが降参はしないからな! 


 ……まあ、そうならないように努力はしますけどね……。

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