第840話 友情
「マスター。この鞄を収納できるようにお願いします」
と、ドレミがどこかからか肩掛け鞄をいくつか出現させた。なんだい、突然?
「これに瓶を詰めてもらいます」
よくわからんが、収納結界を施せばイイんだな。ほれ。
収納結界は何千回とやっているので、数個単位では一秒もかからない。百個単位でも一秒とかからねーぜ。
「そのタイプの鞄、まだあるのか?」
「はい。他にも何百種類とあるそうです」
鞄の数が少ないから収納結界化するのは諦めてたが、カイナーズホームで買えばイイんじゃねーか。なぜそこに気がつかなかった、オレよ?
「ドレミ。こんくらいのボックスコンテナも何百個と買ってくれ。さっきのコンテナの横に置いといてくれ」
三十センチ×四十センチくらいのが整理しやすくてイイんだよ。
「はい。畏まりました」
カウンターに置かれた鞄が一瞬にして消えた。
「どうなっているのだ?」
「深く考えたら負けだ。気にすんな」
オレはとっくに考えるのを放棄してるぜ。
「ナイスガイって、いつまでレヴィウブにいれんだい?」
「明日には帝都に帰る。いろいろ仕事があるんでな」
へ~仕事とかするんだ。と口から出そうなのを飲み込む。そりゃ失礼ってもんだしな。
「そうか。まあ、出会えるときに出会えるのがオレの出会い運。それまで仕事をガンバってくれや」
「……随分と適当だな……」
「テキトーで充分さ。こうして縁ができたんだからよ」
一度繋がってしまえば切れないのがオレの今生。なんも不安はねーさ。
しばらくして、その場で瞼を閉じていたドレミが瞼を開いた。
「申し訳ありません。カイナーズホームの方々が急いで用意してくれてるのですが、もうしばらくかかりそうです。それと店長様がナイブ伯爵様のところに運ぶことも可能ですとおっしゃってました」
宅配してくれるってことか。そのほうがイイな。
「なら頼むと伝えてくれ。ナイスガイには伝えておくからよ」
「畏まりました」
「ベー様。お酒の販売が終わりました」
はい、ご苦労さまです。売り上げはどんなもんです?
「六十万ラグほどになりました」
「随分と売れたな」
つーか、ボロ儲けだな。いや、ぼったくりか? まあ、片付けの手間賃だと思ってありがたくもらっておくけどさ。
「ベー殿、また売ってくれ」
「頼むぞ、ベー殿」
ホクホク顔の冒険クラブの面々。喜んでもらえたのならなによりだよ。
これにて顔合わせ……だったのかなんだったのかわからないものが終了したのか、冒険クラブの面々が部屋を出て行った。なんだったのよ、いったい?
ナイスガイも部屋を出て行き、部屋にはオレたちだけとなった。
ドレミからコーヒーをもらい、一息つく。
公爵どのも横に座り、ドレミが淹れたコーヒーを飲む。
しばしの沈黙が流れるが、オレから破るつもりはないので沈黙を続けた。
「ナブア伯爵とは仲良くなれたようだな」
「ああ。おもしろいナイスガイだったよ。イイ商売もできたし」
まあ、がんばるのはオレじゃないけど。
「そうか。他の者も仲良くなってくれ。いろいろ特産があるところの領主たちだからな」
「公爵どのの子飼い、ってわけじゃねーよな? ナイスガイは、遠いところの領主のようだし」
他の者も子飼いとは違う感じだったし、着ている服に違いがあった。帝国各地から集まった感じである。
「親交のある者たちさ」
その言い回しに首を傾げる。
「──あ、派閥のヤツらか」
よくよく考えればこの広い帝国。公爵も十二人はいて、公爵どのの領地は上位だがトップではない。権力争いには数が必要であり、繋ぎ止めておくには利を与えなくてらならない。そのためのものだったのか。
「……こうも簡単に見抜かれるとはな……」
呆れ果てる公爵どの。だが、それだけとも思えねー。公爵どのの地位を考えたら当然のことだが、友達としての仲なら絶対にしねーはずだ。
それをしたってことはオレのため、ってことだ。オレに利を、派閥のメンバーを味方につけるためにこんなことをし、ついでに派閥のメンバーに利を与えた、ってとこが真相だろう。
「さすが公爵なだけはある」
そう口にすると、公爵どのは苦笑いをする。
「帝国ではおれが後ろ盾だ。好きに動いていいし、最悪はおれが持つよ」
ありがとよ、とは口にせず、コーヒーカップを掲げる。
それを理解した公爵どのもコーヒーカップを掲げた。
どちらともなく乾杯をした。この友情に、な。
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