第839話 約束は順番に

 イイ買い物をさせてもらったが、さて、どうすっぺ?


「ナイスガイの領地って、公爵どのの領地と近いのかい?」


 まあ、聞いといてなんだが、そんなに帝国の土地に詳しくないがよ。


「いや、近くはない。簡単に言うと帝都を挟んで両端にいる感じだ」


 帝国の広さから言って軽く七、八百キロ離れてる感じか?


「ってことは帝都まではその半分ってことだ」


「まあ、大雑把に言えばな」


 なら三百キロちょっとか。それなら隊商を組めば来れない距離ではねーな。


「……まだ計画段階だが、近いうちに帝都に店を出す。名はゼルフィング商会だ。そっちもいきなり運び込むのも大変だろうから来年を目標に準備を進めようや」


 いきなりじゃ婦人に申し訳ねーからな。丸投げにも優しさがないと拒否されちゃうしよ。


「そうだな。さすがに今年からは無理か。だが、今年も処分しなければならないのは悲しいものだ。せっかくよくできたのに……」


 食い物を粗末にしたくないその精神は好感が持てるぜ。


「ちなみに、どのくらい処分するんだい?」


「正確な量は計ったことはないが、収穫の半分は処分するそうだ」


「よくそれでも作ってるな」


 半分もダメにしてたらやる気もなくなるだろうに。


「上質なものを選んで出荷してるからな、なんとかやれている」


 辛うじて質で生き残ってる感じか?


「もったいねーな」


 こんだけ旨いものを捨てるとか、飢饉と戦う者からしたら許せねーことである。捨てるなんてもってのほかだ。


「アロミーってプレミー以外に食べ方あんのかい?」


「もちろんだ。一般的なのはジャムだな。熟したものを煮詰めるとほどよく甘くなる。足りないときは蜂蜜などを入れたりする。他に乾燥させてバラミーや蜂蜜漬けもある。料理に混ぜたり油で揚げたりもするな」


 いろいろ教えてもらったが、料理の知識がないオレには二割しか想像できねーが、いろんな食べ方があるのはわかった。


「やっぱ、ジャムにするのと酒にするのが無難か」


 日保ちがして、運びやすくするには。


「規模としては領主導でやってんのかい?」


「酒は領主導でやっているが、ジャムは各個人でやっているな。器にする瓶が足りてないのだ」


 さすがに帝国には瓶があるか。まあ、一般的にはなってないようだが。


「……瓶か……」


 ん? 瓶? ってか、あるじゃねーか、瓶!


「あ、いや、ダメか。いろんな瓶が混ざっている」


 時間をかければリサイクルもできなくはないが、そんな時間も手間もかけていられない。やはりここはカイナーズホームを頼るか。


「ドレミ。カイナーズホームにいってジャムに適した瓶を大量に買ってきてくれ。それと、砂糖もだ」


「はい。カイナーズホームにはレモンがいますのですぐに買わせます」


 レモン? 誰だ、それ?


「本当は黄色でしたが、カイナーズホームの方々にレモンと呼ばれるので改名しました」


 あ、うん、そう。イイんじゃないかな~と流しておこう。うん。


「瓶と砂糖はこちらで用意するから大量にジャムを作っておいてくれ」


「……そ、それは構わないが、ジャムはそんなに保存できんぞ」


 あ、そうだった。添加剤や冷凍庫がない時代だもんな。いや、待て。やり方によれば一年は大丈夫だろう。煮沸消毒とかそんな技術があるのを記憶に残っている。


「つっても知らなきゃダメか。やはり、一度はナイスガイの領地にいかないとならんか……」


 行くのは簡単だが、やはり時間は取られるよな。倉庫を造ったりとかで。う~ん。時間がかからず手間の少ない方法はないもんかね……。


「……いや、倉庫は造らなくても代用できるものがあるな……」


 あれならオレの結界とプリッつあんの力で一回いくだけで済む。


「ドレミ。追加だ。コンテナを四十くらい買ってくれ。用意できたらオレがもらいにいくからよ」


 コンテナに結界を施せば長期保存ができる上に溜まってから取りにいけばイイ。苦労はそんなにねーばずだ。


「畏まりました。準備が整い次第ご連絡致します」


 おう、頼むわ。


「ナイスガイ。急で悪いが、あんたの領地にいっても大丈夫かい?」


「……ここから早馬を使っても八日はかかるが……」


「なに、距離は問題じゃねーさ。ただ、ナイスガイが少しばかり大変なだけでな」


 まあ、大変で済むかはナイスガイ次第。オレにはどうにもできませぬ。


「なにか、嫌な予感がしないではないが、領地の未来がかかっていれば致し方あるまい」


 それでこそ領主。ナイスガイだ。


「ただ、公爵どのの約束を果たしてからなんで、とりあえず、いつでも帰れるようにしててくれや」


 さすがにこれ以上遅らせるのは公爵どのにワリーからな。パッパッと片付けましょう、だ。

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