第814話 シュヴエル
「しっかし、本当によく食うヤツだな。もう半年分の薪は出したぞ」
バキボキと地竜の食欲は収まらない。一晩で大森林が消えたと言うのも納得だわ。この食欲は災害だぜ。
それでもデカくした薪を食わせていると、カイナが現れたところから違うブラックサウザンガーが現れた。
……つーか、その背にあるドラゴンの羽根のようなものはなんなのよ……?
なにと合体させたかは知らんけど、好きなことにはアホみたいな行動力を見せる男だよ、カイナは……。
「カイナ様。至急城へと起こしください。地竜を操ると思われる者が現れました」
そんなのいたっけか?
輪廻転生結界に包んでやったリッチは放置したが、それ以外の者なんて見なかったぞ。
「ベー、どうする?」
「いってみるか。エサやりも飽きたしな」
まだ腹いっぱいになった様子は見て取れないが、もう餓死しないくらいは食っただろう。残りはあとだ。
轟牙を纏うのもメンドクセーのでカイナに連れてってもらった。
城の前の広場には八体のブラックサウザンガーが四四に分かれて並んでいた。
「ブラックサウザンガーも部隊として使ってんだ」
まあ、なにに使っているかは知らんけどさ。
「まーね。土木作業には重宝してるよ」
平和的利用でなによりだよ。
ブラックサウザンガーの肩から下ろしてもらい、武装した兵隊さんに案内されながら城へと入った。
「なんか物々しいな?」
「なんでしょうね?」
と、背後からレイコさんの声がした。うぉっ、びっくりしたー!
「いきなり現れんなや。心臓止まるわ」
まったく、キャラを濃くするより存在を濃くしやがれ。全然気がつかんかったぜ。
「……なんでしょうね。リッチより驚かれるわたしって……」
珍しいって意味じゃ、リッチよりレイコさんの方が摩訶不思議で、びっくりする存在だからね。
まあ、自分のアイデンティティは自分でなんとかしてもらうとして、もう一つの摩訶不思議生命体はどうしたん? ドレミは轟牙にくっついてたが。
……なんかもう共存って意味がわかんなくなってきたぜ……。
ドーム型のホールに来ると、兵隊さんたちが壁となってライフル銃をなにか一点に向けていた。なによ?
「道を開けて」
と、遅れてやって来たカイナがそう言うと、ライフル銃を構えて兵隊さんたちがさっと左右にわかれた。お見事です。
視界に写ったのはドーム型ホールの中心にあった奇形岩──と、黄金色に輝く竜人だった。
「レイコさん、わかる?」
「いえ、初めて見る竜人です」
「カイナはわかるか?」
「全然。でも、強い魔力は感じるよ。多分、ご隠居さんに匹敵するかも」
またよくわかんないものが出て来たってことか。はぁ~。
黄金色に輝く竜人は瞼を閉じ、彫像のように微動だにしない。生きてるって感じはしないが、存在は強く感じ取れた。
……確かにご隠居さんのときと同じくらいの威圧を感じるぜ……。
だがまあ、敵意はないようで、オレの考えるな、感じろは警戒警報は鳴らしてない。
「見られてるね」
カイナの感覚ではそう感じるようだ。だが、オレ的には見極めているって感じかな? この場を仕切るのは誰か、交渉する相手は誰か、一挙手一投足に注意を払っているように感じる。
ここは、カイナに任せたいところだが、地竜に利点を見つけた今ではオレが行くしかねーか。
はぁ~と、ため息を吐いた瞬間、黄金色に輝く竜人の瞼が開かれ、オレを真っすぐ捕らえた。
……知性の塊みたいな目をしてやがんな……。
「我はアリュアーナの意思を司る者。名をシュヴエルと申す。言葉は届いているだろうか?」
自動翻訳の首輪をしてないのに、シュヴエルと名乗った者の言葉が耳に届いた。
「たぶん、この広間自体に翻訳魔法が仕掛けられていると思いまます。魔大陸には独自の言葉をしゃべる種族が多いですから」
と、レイコさんが教えてくれた。
それに黙って頷き、数歩前に出る。
「ああ、届いている。オレは、ヴィベルファクフィニー。あんたと会話する者だ」
この集団の代表者じゃねーし、そんな説明でイイだろう。言葉の端々や表情の変化をちゃんと捕らえている感じっぽいしよ。
「まず、封印を解いてくれたことに感謝を。そして、アリュアーナに食料を与えてくれたこと、誠に嬉しく思います。ヴィベルファクフィニーに百雷の高鳴りを」
レイコさん。説明よろ。
「最高級の感謝を示していると言うことです。千雷の地祭をと返してください。友好を意味する言葉にも使われますので」
「シュヴエルに千雷の地祭を」
まったく意味はわからんが、黄金竜さんが笑ったような気がした。感情はあるようだ。
「シュヴエル。オレは争いを好まない」
「我も争いは好まない」
「それはなにより。仲良くいこうじゃねーか」
ギブアンドテイク。一方的な得や損を与えるのではなく、双方、ハッピーになれる関係になろうじゃねーの。
「オレ、ヴィベルファクフィニーは、シュヴエルと友好を示す」
「我、シュヴエルも友好を示す」
種族に関係なく、話の通じる相手ってのは、ほんと助かるぜ。
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