第808話 フラグメーカー

 なんて叫んでいる場合じゃねーか。


 現実を見る覚悟を決めたオレに、怖いものは……いっぱいありますけど、高々高所からの落下など物の数ではねーよ。


 ゼロワン改+キャンピングカーに纏わせている結界を操り、落下速度を殺しふんわりと地面に着地させた。


 ──ふげっ!


 自分に纏わせた結界を操るのを忘れてしまい、頭から地面に突っ込んでしまいました。


「ベー、ダサ~イ」


「──ダサ~イ、じゃねーわ! なにやっとんじゃ、ワレ!」


「運転してたらおっこっちゃった」


 そんなの状況を見ればわかるわ! なぜ運転してたのかを聞いてんじゃ、ボケがっ!


「ベーが起きてこないのが悪いんじゃない。わたしが運転しなかったら失格だったんだからね」


 まったくもってその通りだが、だからってプリッつあんがすることもねーだろうが! つーか、なぜそこで運転しようと思うんだよ! いや、レーシングスーツ着ている時点で全ての謎は解けてるけどさ……。


「……ハァ~。もうイイよ」


 起きてしまったことはしょうがねー。悔いることに時間を費やすより問題を解決することに時間を費やした方が精神的に楽だわ。


「つーか、ここどこだ? プリッつあん、ちゃんと道を走ってたんだろう?」


 ゼロワン改+キャンピングカーに結界を纏わせていたが、ドリルと土魔法はオレがその場でやっていた。運転しただけではぶつか……ってたね、終始……。


「走ってたわよ。でも、どんどん離されちゃって、気がついたら空中に飛び出してたの」


 ……その前に自分に運転の才能がないことに気がついて欲しかったよ……。


「今後、プリッつあんは運転するな。人でも轢いたらシャレにならんからな」


 あなたはオレの頭の上にだけ乗っててください。いや、他の人の頭の上に乗りたいと言うなら送迎会を開いて見送ってやるけどさ。


「どうなさいます、ベー様?」


「どうするって言ってもな~」


 上を見上げれば霧が濃くて視界もワリー。まあ、抜け出すのは簡単だが、上がったところで方向がわからん。なんかここ、磁気がワリーのかタケルからもらった腕時計型通信機の方位計が上手く働いてくれねーんだよ。


「ドレミ。空のメルヘン機とは連絡つけられるか?」


「それがGPSや航行系の不具合で近寄れないそうです」


 また摩訶不思議なところに落ちっちまったもんだ。


 しょうがねー。転移バッチで今日のスタート地点に戻るか。あそこまで戻れば方位はわかるだろうしな。


 と、転移バッチを発動──しません。なんでよ?!


「プリッつあんの転移バッチは発動させられるか?」


「ううん。ダメみたい。うんともすんとも言わないわ」


 なんでじゃ? カイナからもらったものだぞ。


「もしかすると、ここはトルディアの地界かもしれません」


 なんだい、そのトルディアの地界って?


「ご主人様にもわかってないのですが、トルディアの地界は、魔が乱れていて魔法魔術が使えないのです。しかも、生物の感覚も狂わせるとかで、一度踏み込んだら二度と帰れないと言われてます。わたしも話だけでしか知らないので定かではありませんが」


 さすが魔大陸。トワイライトゾーンがありましたよ。いやまあ、ファンタジーな世界でトワイライトゾーンもへったくれもねーけどさぁ~。


「魔法も魔術も、ね」


 結界術は超余裕で使えますし、プリッつあんの能力もまったく問題なし。つーか、幽霊には支障はないんですか?


「幽霊のわたしが言うのもなんですが、これまでにないくらい調子がいいです。今なら空でも飛べそうです!」


 いやあんた、常日頃から飛んでますから。と言うか浮遊してますから。例え方、間違ってますからね。


 指摘するのもメンドクセーので軽く流しておく。


「プリッつあん。運転しているときから霧は出てたのか?」


「ううん。落ちる少し前までは視界はよかったよ。それが突然、霧が出て来て、そしたらいつの間にか落下してたの。不思議よね?」


 オレはあなたの存在全てが不思議でたまんねーよ。


「まあ、自然には勝てんし、慌ててもしかたがねー。しばらく様子を見るか」


 結界術が使えるのだから最悪なことにはならんだろう。オレの考えるな、感じろも働いてないしな。


 こんなときはマン〇ムタイムに限ると、キャンピングカーに戻ろうとしたら、地面が微かに揺れた。今度こそ地震か?


「なんでしょうね? 地震にしては揺れ方が変でしたけど」


 幽霊に震度を感知する器官(能力か?)があることにびっくりだが、確かに地震の揺れとは違ったな。揺れが一瞬で、なんか力をまったく感じなかった。


 ……なんなんだ、今のは……?


 しばらく様子を見るが、揺れは起こらず、霧は濃いまま。嫌な気配もしない。いや、オレの考えるな、感じろが微かに働いている。なにかあると囁いていた。


「なにか、感じるヤツはいるか?」


 ざっぱにはなにかを感じているのだが、どうしてだかフワッとしているのだ。


「わたしはなにも感じないけど?」


 こんなときに謎の力を発揮しろや、役立たずのメルヘンが。


「わたしも感じません」


 超万能生命体でも感じんか。


「あ、あの、あそこに朽ち果てたようなお城が見えるのですが……」


 と、レイコさんがあらぬ方向を指差した。


「……オレには見えんが、誰か見える人?」


 いや、オレ以外人じゃないけどさ。


「わたしにも見えないわ」


「わたしもです」


 気のせいじゃね? いや、幽霊に気のせいがあるかは知らんけど。


「わ、わたしには見えるんです!」


 人でも人じゃないものには見えないが、幽霊には見えるものこの世にはあるらしい。


「なら、確かめてみるか」


 レイコさんが見えると言うのなら見えるのだろし、幽霊にしか見えないものにも興味がある。それに、オレが感じているのもそれなような気がする。ならば、確かめてやろうじゃないの。


「だ、大丈夫なの?」


「わからん。けど、そう危険はないと思う」


 まあ、危機ならさっさと逃げるまで。今は前進あるのみ、だ。


 見えるレイコさんを先頭に、朽ち果てたようなお城へと向かって歩き出した。


 さあ、鬼が出るか蛇が出……てますね。つーか、魔王は出るわ、勇者は出るわ、もう出てねーのはねーんじゃね? って今生だよ。


「……まあ、さすがに打ち止めだろうよ……」


「さすがフラグメーカー。フラグを立てるのが上手よね、ベーって」


「な、なんだよ、フラグメーカーって?」


 なんなの、その不吉な名称は?


「カイナのおじさまが言ってたわ。ベーはトラブルを引き寄せる旗だって」


 いろいろ文句はあるが、トラブルメーカーとは違うのか? 自分で言っててスゴく不本意だがよ……。


「ベー自体はトラブルは起こさないけど、まるでオレが解決してやるとばかりにトラブルに向けて旗を振って呼んでいるそうよ」


 なにそれ。メッチャ不本意で、納得できないんですけど。つーか、トラブルはこっちくんなって性格なんですけど。


「あ、わかります。ベー様、優しいですから」


 うっせいよ! トラブルがそこにあんならいかねーわ! と、回れ右したが遅かった。


 オレ、凄まじいまでの数の幽霊に囲まれていました!

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