第793話 大発見
物々交換が大盛況です。
「つーか、竜人じゃないものまで混ざってね?」
いや、竜人は竜人なのだが、鱗のある竜人が何十人か混ざっている。
昨日の竜人は、恐竜人間っぽく、背中と大事なところに毛が生えていた。まあ、鱗の鎧はしてたけどね。
「山岳に住むザルバドラン族ですね。狩りで生活する一族です」
と、浮遊する辞書さんが教えてくれました。
よく見れば長い投げ槍っぽいものを持っていた。弓ではねーんだ。
「ザルバドラン族は強化魔法に特化した者たちなので、投げた方が威力があるんです。陸亀の甲羅すら砕きます」
へー。魔大陸の生き物、マジスゲーな。陸亀がどんなもんかは知らんけど。
「あの槍投げ竜人さんも魔石で物物交換してんのか?」
「いえ、ザルバドラン族は、木の実ですね。ベー様のところで言うと、イモに当たります。それほど美味しいとは聞いたことはありませんが」
「美味しくはないですね。ただ、腹持ちはよろしいですが」
と、ミタさんが会話に入ってきた。ダークエルフが住むところにもあったのかい?
「この地では一般的な食べものですが、最近ではバムも採れなくなりました」
その木の実、バムって言うんだ。ちょっと気になってきたな。一つ、もらってきてよと、ミタさんにお願いした。
どんな交渉か物物交換したのか謎だが、大量にバムを持ってきた。
「……これがバムか。椰子の実みてーだな……」
あれほどは大きくないが、形は椰子の実に似ていた。つーか、どう食べんの、これ?
なんつーか、斧でもないと割れねーんじゃねーの?
「これは熟成前で、熟成したら皮は柔らかくなります。まあ、今でも食べられないことはないですが、食べてみますか? 味は熟成しても変わりませんから」
んじゃ、食べてみる。興味あるし。
ミタさんが鋭そうなナイフを取り出し、サクッとバムを真っ二つ。え、硬いんじゃなかったの!?
「コツがあるんです」
そ、そうですか。まあ、ミタさんだし、そんなもんなんだろうと納得しておこう。うん。
「中は白いんだ」
見た目も椰子の実っぽかったが、中身も椰子の実っぽいな。まあ、乾燥してるけど。
「これをどう食うんだ?」
「だいたいはこのままですね」
と、裂けるチーズのように剥がして口に放り込んだ。結構、野性的な食べ方ですね……。
「味は?」
「微かに甘さはありますが、小麦と比べたらないも同然ですね」
まったくの無味って訳ではねーんだな。では、オレも試食させていただきます。
「……確かに、旨いってもんじゃねーな……」
ただ、飢饉野菜よりはマシかな? 飢饉野菜は基本、苦いし、食うまでに手間がかかるから。
「これじゃ人魚には受けんな」
人魚は苦味を好む生き物。イモとか根菜類は人気がねーのだ。
「人魚、食べさせる気だったのですか?」
「ああ。人が滅多に食べないものを好むから、これもいけんじゃねーかなと思ってよ」
熟成前のものなら海の中にでも何日かは保つだろうし、海水が混ざっても食べられると思ったんだがな。そう上手くはいかんか。
そう都合よくいかないかと、意識を切り替えようとしたところで、オレの考えるな、感じろが待ったをかけた。
捨てるのはもったいなくね? と……。
もう一度、バムに目と意識を向けた。
繊維質で乾燥したもので、口の中の水分を奪われるものだ。じゃあ、水分を足したらどうなるよ?
「……膨らむだけか……」
ただ、水分を含んだだけ。味もまったく変わってねー。失敗か。いや、そうでもねーか。
水分を含むってことは吸収率がイイってこと。それって、結構利点じゃね?
中身を剥がして、結界で包み込む。で、粉砕。粉とする。
結界を振り、粉の感じを見る。小麦粉と区別はつかんくらいになったな。
まあ、わかる人にはわかるかも知れんが、オレには区別はつかんかった。
「ミタさん。鉄板用意して。ドレミは、これに水を入れて溶いてくれ」
そう二人に指示を出す。オレより手際イイんでな。
キャンプ用のコンロに鉄板を載せ火を点け、その間にバムを溶いたものを鉄板に丸く垂らした。
「匂いはそんなに悪くねーな」
まあ、イイとも言えんけど。
「プリッつあん、試食してくれ」
「わたしに毒見させないでベーが食べなさいよ」
チッ。余計な知恵をつけやがって。
「オレはオレのために作ってくれたものは旨いと感じる舌なんだよ。公平な味の審判をしてくれ」
と、テキトーなことを言ってプリッつあんに試食させた。どう?
「……味がないパンって感じ……」
オレもいただき試食する。確かに味のないパンだな。
ミタさんにも食べてもらったが、同じ感想だった。
「でも、パン以上には膨らみますよね」
言われてみれば確かに。小麦粉で焼けば手のひらサイズなのに、バムは二倍くらいは膨らんでいた。
「じゃあ、小麦粉とバムを混ぜたらどうだ?」
と、やってみたら二倍くらい膨らんだ。そして、小麦の味がした。
「なにか、バムを混ぜた方が美味しくない?」
プリッつあんが首を傾げながら呟いた。
「はい、美味しいですね」
オレもミタさんに一票です。
「……これは、アレだ。つまり、なんだ。上手く言葉になんねーな……」
たぶん、大発見、的なものだ。
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