第785話 化け物と呼ばれた幼女

 竜も『ゴー!』と言う音に気がついたようで、翼を大きく広げて急停止。それは悪手と言うものじゃよ。


「暴虐さん」


「しょせん竜は竜か──」


 オレが声をかけなくても判断は的確で、暴虐さんはなんの躊躇いも見せずに炎系の魔術を展開。なんともえげつないものを放った。


 普通の竜なら一発で灰になっただろうが、さすが魔大陸に住む竜である。鱗が少々焦げたていどだった。


「……全然効いてないわよ……」


 プリッつあんの驚愕に、オレは心の中で「だろうな」と返した。


 別に暴虐さんは倒すために放ったわけじゃない。竜の意識をこちらに戻したのだ。


「魔王ちゃん。あれが強者故の驕りだ。反撃されたことねーから次への行動に移れない。状況も見れない。ただ、イラつくばかり。そうやってどんどん自分を不利にしていくんだ」


 不確定要素があるならまずは退け。それは臆病者の思考だが、弱肉強食な世界で生き残るヤツは臆病者だ。ただの強者など弱者のエサでしかねーよ。


「クク。耳が痛いな。昔、よく言われたよ」


「そう言われても、こうして生きているから暴虐さんはスゲーんだよ。その不撓不屈の精神を魔王ちゃんに教えてやってくれや」


 オレは強者の攻め方を教えてやるんでよ。


「ベー! 竜がまたこっち向いたわよ!」


 うん、バカな竜だね。


 竜は口を開けてオレらを攻撃しようとした瞬間、四方から来るミサイルの直撃を受けた。


 なかなか凄まじい爆発です。結界がなければオレらが灰になってましたね。


「なんなのよ!?」


 ほんと、なんなんでしょうね。


 まあ、特に知りたいわけでもねーし、心穏やかでいたいので、あるがままを受け入れます。


 爆炎が消え、黒焦げな竜が現れた。


 あれだけミサイルを受けても死なないとは、ファンタジーの竜はスゴいね。まあ、それで死んでいたら苦しまないでいられたのにな……。 


 次々と襲い来るミサイル。そして、銃弾。いったい何機で襲ってんだ?


 爆炎が晴れないのと、結界で音を遮断しているのでわからないが、爆炎の咲き方からして最低でも十機はいるだろう。でなきゃ、こんなに連続攻撃はできねーよ。


「で、いったいなにが起こっているのだ?」


 安全とわかったのか、もう流れに身を任せたのかは知らんが、暴虐さんも魔王ちゃんも席について、ミタさんが出したお茶を口にしていた。


 ……プリッつあんは、未だパニック中です……。


「まあ、はっきりとは言えんが、たぶん、オレの妹が暴れてるんだろうと思う」


 うちの妹様は、なぜか知らないが、竜と戦うのが大好きと言う性格をしているのだ。


 まあ、だからと言って、無駄な殺しが好きな訳ではねーよ。ちゃんと手を出されてから反撃しろと教育してある。だがまあ、熱くなったら忘れてしまい、挑発して戦いに持っていくんだけどね……。


「……お前の妹だけはあるな……」


「オレは妹ほど過激ではねーよ」


 やられたらやり返すが、戦いに興奮したりはしねー。食料として美味しく狩るまでだ。


 ミサイルが尽きたのか、爆炎が消えた。が、竜はまだ空にいた。


「あれだけ攻撃されても落ちねーか」


 でも、満身創痍なのは確かなようだ。


「F-18とF-22がカイナーズだとしてF-4がサプル様でしょうか?」


 戦闘機にそれほど詳しくはねーが、F-4は知っているし、カラーリングが派手なことからしてサプルだろう。あの戦闘機だけGとか無視した動きしてるからな……。


「よくあんな古い機体で動けますよね」


 オレとしては戦闘機を知っているあなたに驚きたいが、まあ、がカイナーズの名誉部長(だっけ?)だけはあるってこと。深く考えるなだ。


「サプルだからな」


 もうそうとしか言いようがねー。サプルは好きなことには秒単位で成長していくからよ。


「弾切れのようですね」


 双眼鏡を覗きながら戦況を読むミタさん。もうカイナーズに就職したら?


「ミタさん。戦闘機って持ってるか?」


 今さらですが、ミタさんも無限鞄を持っています。カイナから流れてきたものを。


「持ってはいますが、カイナーズの戦闘機では太刀打ちできませんよ」


「ならメルヘン機は?」


「メルヘン機? あ、バルキリアアクティーですか?」


 たぶん、そんな名前の変形戦闘機だよ。


「サプル、操縦できたよな?」


 前につまらないとかなんとか言っていた記憶がある。ってことはつまり、操縦したってことだろう。


「はい。あまり興味を持たされませんでしたが」


「操縦できるなら出してくれ。あと、照明弾で教えてやれ」


 普段のサプルなら勝負に拘ったりしねーが、一旦火がついたら勝負師になる。勝つまでは止まらねーのだ。


「わかりました」


 無限鞄からバルなんとかを出し、照明弾を空に打ち上げた。


 それに気がついたF-4が竜へと特攻。直撃前に脱出。え、パラシュートは? と問いたくなるくらいの落下? いや、フライングか? なんかわかんねーが、こちらに向かって突っ込んで来る。


「……我が妹ながらメチャクチャだな……」


 地上五十メートルくらいでパラシュートを開き、いっきに速度を殺したと思ったら、ベルトを解除。たぶん、魔力を全開で放ち、地面へと着地した。


「……お前の妹、化け物か……?」


 違うと反論できねー兄を許してくれ、マイシスターよ。 


「あんちゃん、これを大きくして!」


 と、マイシスターがなにかを投げて来た。


「百花繚乱?」


 サプルのために作った包丁だった。


 どうすんだ、これ? と問う前にバルなんとかに乗り込んでしまった。


 まあ、よくわからんが、大きくすればイイんだなと、バルなんとかの手に合うくらいにデカくしてやり、結界術で持てるように柄を上にしてやる。


 バルなんとかが起動。飛行機型から人型にチェンジした。


 ……ほんと、アニメの乗り物ってふざけてるよな……。


 なんかいろいろと法則を無視した動きに呆れ果てるわ。


「あんちゃん、今度はあたしが捌くからね! 邪魔しないでね!」


 しねーよ。ってか、どうやったら邪魔できんだよ? さすがのオレでも死ぬわ!


 もう好きにしろと、ちょっと早めの昼食にすることにした。


「……もう、お前さんが教えた方が魔王の中の魔王にできんじゃね……?」


 メンドクセーから嫌だよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る