第776話 神々に感謝を

「ふわ~。眠っ」


 やっぱ慣れた時間に起きんと調子狂うな。二度寝したのも悪かったかもしれん。


「珍しいな、お前が眠そうにしてるなんて?」


 朝食の席であくびしてたら親父殿が不思議そうな顔をしていた。


「朝早くからサプルに起こされたんだよ」


「サプルに? そう言えばいないな。どうしたんだ?」


 オレの部屋は三階続けて取ってあるが、基本の出入り口は二階であり、親父殿たちの部屋とは離れている。よほどのことがなければ聞こえんか。戦闘機が飛んでれば関係ないけど。


「うるさいから魔大陸に置いて来たよ」


 そう言うと、なんか微妙な顔を見せた。なによ?


「……いや、非常識を常識に変える非常識だものな、お前は……」


 はぁ? なにわけのわからんこと言ってんだ、親父殿は?


「うちにこれだけ魔族がいて、飛空船があって、魔大陸にいけないと考える方がおかしいか。ハハ……」


 遠い目をして意味のわからんことを呟く。疲れでも溜まってんのか?


「開墾忙しいのか?」


 忙しいなら休めよ、そんな急ぎの仕事じゃねーんだからよ。


「忙しくはないし、楽しくやってるよ。だからこっちくんな」


 なんだよ、その拒否は? オレは人の仕事はとらねー主義だし、メンドクセー仕事は他人に丸投げする男だぜ。


「いかねーよ。つーか、楽しいのかよ? 地味で根気のいる作業だろう、開墾なんて?」


 秘密の牧場を造るのにオレも開墾したが、そう楽しいもんではなかったぞ。いや、土魔法で簡単に造っちゃいましたけどね。


「楽しいよ。これならもっと早く村人になってればよかったぜ」


 おっ。親父殿も村人のよさがわかって来たようだ。よきかなよきかな。


 イイ気分で朝食をいただいていると、オレに客だとメイドさんが告げに来た。誰よ?


「公爵様です」


「公爵どのか。上がってもらえや」


 つーか、公爵どのは公爵として認識されてんだ。あ、公爵どのの名前なんて言ったか忘れてきたな。そろそろ名前を確認しておくか。たまに聞かんと完全に忘れるからよ。


 メイドさんが下がり、しばらくして公爵どのがやって来た。


「朝食は?」


「まだだ。なんかあるか?」


「うちから料理がなくなることはねーよ」


 モコモコガールもタケルもいない。いや、いたからってなくなるわけじゃねーが、うちの料理はもはや無限にあると言っても過言ではあるまい。オレの無限鞄の中にですら千人分はあんだからよ。


 メイドさんに朝食を頼み、出してもらう。


「で、なんか用か?」


「なんか用かじゃねーよ! 車いつ乗れるんだよ?」


 ここにも駄々っ子神がいたよ……。


「運転したきゃそこら辺を運転してろよ。車は道路がねーと走れねーものなんだからよ」


 それ故に結界カーを造ったのだ。飛ばなきゃどこにもいけねーからな、この時代はよ。


「なんとかしてくれるんじゃなかったのかよ?」


「そんな急になんとかできるか! オレは万能じゃねーんだからよ」


 S級村人でも、できることとできねーことあるわ!


「ったく。それでなくても村人らしいことしてねーなって神さまに突っ込まれてんだからよ」


 二度寝したら猫の神さまに苦言されたぜ。


「お前、神とか信じるヤツだったか?」


「最近信じるようになったよ。前々から神託と言う名の突っ込みが聞こえていたからな」


 なんかスルー拳を使っていたら、スルー神のご加護があるんじゃねーかと感じてきたぜ。


「なんだよ、突っ込む神って? 意味わかんねーよ」


「別にわからんでもイイよ。いろんな神さまがいるからな」


 オレには一万九千以上もの神々が見守ってくれている。そのうちの一部が神託(突っ込みや感想、間違いや苦言)を授けてくれる。誠にありがたいことである。感謝感激雨霰です。


「とにかく、運転したいんだよ、なんとかしてくれ!」


 ったく。メンドクセーな。


「村人に難題ふっかけんな。こっちは村人の仕事もあんだからよ」


「村人の仕事ってなんだよ?」


「木を伐ったり農作業したり、家畜の世話したり薬作ったりいろいろだよ」


 なに当たり前のこと聞いてんだよ。前にも言ったことあんだろうが。


「おれ、そんなことしてるお前より、冒険者より冒険者してて、大商人より大商人している非常識なお前しか知らねーんだけど」


「あ、あれ、仕事だったんだ。村人を名乗るための擬態かと思ってたわ」


 ヘイ、マイダディ。あなたに村人の仕事だって引き継いだよね? どこで記憶改変されたんだよ?


「まあ、村人らしいことしてない自称村人だからな、お前は」


「非常識でも村人じゃなくてもいいんだよ。とにかく運転したいんだ、なんとかしてくれ!」


 オレのアイデンティティ全否定。畜生ー! オレは誰がなんと言うと村人だもん!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る