第760話 あ、またベーが悪いこと考えてる!
「終点~。終点~。カイナーズホーム西側入口前で~す」
なんだよ、西側入口前ってっ!
と言う突っ込みが出かかったが、車掌に突っ込みしたところで「そう言われましても、カイナ様が決めたので」とか言われそうなので無理矢理飲み込んだ。
ボンネットバスの前の扉が開き、ダルマっちゃんらが立ち上がって降り始めた。
……肘掛けが上がる仕組みだったんだ。そこまで見てなかったわ……。
一つの謎が解けたと安堵してたら皆さん、下車しちゃってました。車掌さんの降りないのですかとの問いに慌てて降りますと叫んで下車した。
「……西側入口、ね……」
なにやら駅を思わせるそこは、開発中ではあるが街ができていた。
港側とこちら側が続いているかも、西を向いているかもわからんが、あのアホはここをどうしようとしてんだ?
まあ、丸投げしているオレにどうこう言うつもりはねーが、異次元化するのはマジカンベン。オレはこの世界でスローなライフを送りたいんだからさ……。
「ベー様、ではまた」
「あ、リテンちゃん、ちょっと待った」
いこうとするリテンちゃんたちを呼び止め、無限鞄から一万円札を二枚、取り出した。
「ほれ、これでダルマっ──じゃなくて、親父さんたちの酒代の足しにしてくれや」
二万円をリテンちゃんの手に無理矢理渡した。
「──こ、こんなにいただけませんよっ!」
大金に慌てふためくリテンちゃん。デフォな姿だけにコミカルやな~。
「リテンちゃんたちには助けられてるからな、その礼だ」
「れ、礼だなんて! お礼を言いたいのはこちらの方ですよ! 毎日美味しいものが食べられ、温かい寝床で休めるだけでもありがたいのに、お給金までもらえるんですから!」
給金? って、どっから出てんだ?
気にはなったものの、オレの知らないところでオレに苦労をかけないでやってくれてるのだ、このまま好きにやらせるのが丸投げした者の努め。イイようにガンバっておくんなまし。
「まっ、それはそれ。これはこれ。遠慮なくもらってくれ」
袖の下って訳じゃねーが、こう言う付け届けが許される時代であり、必要な行為だとオレは思う。
「……でも……」
「もらうのに抵抗があるなら仕事で返してくれたらイイさ。そのための金なんだからよ」
イイ気持ちでイイ仕事をしてもらったらオレの利益になる。なに一つ損はしてねーさ。
「……わ、わかりました。では、遠慮なくいただいておきます……」
うんうんと頷き、二万円を仕舞うのを確認し、無限鞄から小銭入れを出して中から二百円を出してリテンちゃんの手に握らせた。
「これはリテンちゃんにお小遣いだ。ソフトクリームでも食べな」
なにか言われる前にサッとその場を去った。
後ろでリテンちゃんが騒いでいるが、気にせずカイナーズホームへと入り、完全にリテンちゃんの目から逃れた。
「随分とあの子にご執心ですね?」
さて、どこから見ようかなと考えていたらレイコさんが前に出て来て聞いてきた。
……この幽霊の生態(いや、霊態か?)が未だにわからんな……。
「あれだけの賢さを見せられて無関心でいられる方がどうかしてるわ」
リテンちゃん以外の女子を見たことがねーが、あの賢さはノーム族でも逸脱したものだ。ならば他に取られる前に押さえておくなが賢い選択ってもんだろうが。
「オレには魔王ちゃんの横に立ってやるとかはできねー」
それは寿命的にも能力的にもな。まあ、メンドクセーからやりたくねーってのが本音だけどよ。
「でも、魔王ちゃんを王として支える人材を揃えてやることはできる。まあ、リテンちゃんの働きにも寄るが、いずれジオフロント計画の中心的立場になるだろう。その場所へ辿り着けるように導くのがオレの仕事さ」
甘やかすのではなく、特別扱いしないように、ポイントポイントで労り、重くならないていどの恩(と言う名の利益を)を与える。
ああ言う真っ直ぐな子は、恩を返そうとさらなる努力をし、望んだ場所へと到達してくれるのだ、と言うオレの持論だ。
「レイコさんに教授にならないかと誘ったのも同じだぜ。レイコさんの知識はこれからのヤオヨロズ国のためになる。そう思うからレイコさんに興味を持たせるように働いてんだからな」
この幽霊に足りないのは意志だ。いや、幽霊になにメチャクチャなこと言ってねん! とか突っ込まれそうだが、多分、レイコさんは精霊化すると思う。
付喪神って訳じゃねーが、この世界にも長く生きた植物や岩が精霊化するって話がある。この幽霊と同じにしてイイかは疑問だが、オレの勘はそうなるんじゃねーかと言っているのだ。
「オレの思惑にのるのものらねーのもレイコさん次第。強制はしねーよ」
これも多分だが、精霊化は先の先。オレが生きているうちになれば御の字。ならねーのならしょうがねーってくらいのもんだ。
「幽霊に言うことじゃねーし、オレの言葉に従うこともねー。レイコさんはレイコさんの好きなように生きればイイさ」
好きに生きてるオレに他人の生き方に口なんか出せねー。が、誘い出すことはさせていただきまっせ。
オレの人生はオレのもの。他人の人生もオレのもの。オレはオレが幸せになるためなら他人の人生を幾らでもひん曲げてやるぜ。ヌハハハッ!
と、エスパーメルヘンがいないので、おもいっきり心の中で笑いました。
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