第759話 ソフトクリーム

「おっ、リテンちゃんじゃねーか。久しぶりだな。元気にしてたかい?」


 見た目はデフォルトな幼女だが、中身は立派な幼女。ダルマ族──ではなくノーム族の代表みてーなもんだ。


 ……つーか、ノーム族の女ってリテンちゃんしかいねーのか……?


 ボンネットバスに乗ってるのはダルマっちゃんがほとんどで、女はリテンちゃんしかいないのだ。


「はい! 食べ物も水も足りてるので太っちゃいました!」


 田舎だと肥える=幸せってところもあるが、ノーム族もそんな考えがあるよーだ。


「そっか。それはなにより。今日は休みかい?」


 ダルマっちゃんらの手にドリルがねーようだが。


「はい。カイナーズホームに買い出しです!」


 なにやら嬉しそうに言うリテンちゃん。ノーム族はゼルフィングスーパーに来てねーのか? ってか、クレインの町とかジオ・フロントで働いているヤツらって食料とかどうしてんだ?


「ジオフロント建設に関わる者はカイナーズホームが利用できるんですよ」


 リテンちゃんに尋ねたらそんな答えが返って来た。


「バスが発車しまーす。お客さまは席におつきくださいませ」


 おっと。席に座らんとな、とリテンちゃんの横に座った。ちょっとお話ししたいからな。


 ちなみにダルマっちゃんらは二人の用座席に一人で座ってます。ってか、よくそこに入れたな。ちゃんと出れんだろうな?


「なにを買いにいくんだ?」


 まあ、入ったんだから出れんだろうと軽く流し、リテンちゃんに話しかけた。


「食料です。あたしたち、いっぱい食べるんで四日に一度は買い出ししないとならないんで」


 確かにその体格なら食べるだろうが、こんな大人数で買い出しにいかなくちゃならんのか? しかも男と幼女だけで……。


「ノーム族の女は家を守るのが仕事で、集落からはなかなか出ようとしないんです。外はおもしろいのに」


 どうやらリテンちゃんはアクティブな女らしい。幼女だけど。


「そうだな。外はおもしろいな」


「はい! 外の世界がこんなに驚きに満ちてるなんて、脅えて暮らしているときは夢にも思いませんでした!」


「驚きに満ちてるのはここだけだと思うんですが」


「そうですね。未だに驚くことに事欠きませんしね」


 オレもダークエルフだ、幽霊だと毎日が驚きで満ちてるよ。


「ベーさまもカイナーズホームに買い出しですか?」


「ああ。友達に送るものを買おうと思ってよ。まあ、なににするかはまだ決めてねーがな」


「カイナーズホーム、いっぱいありすぎて迷っちゃいますよね!」


「アハハ。リテンちゃんも女の子だな。買い物好きなんてよ」


 ノーム族が買い物とか夢も笑いもねーが、生きてりゃ食べもすれば出しもする。変な夢は持つなだ。うちの頭の上のメルヘンも……いや、止めておこう。夢を見ている者にワリーしな。


「はい! 買い物大好きです! とくにフードコートでスイーツを食べるのが最大の楽しみです!」


 そこら辺も女の子だな。見た目はアレだけど。


「なんかソフトクリーム食べたくなってきたな」


 あそこで食べるソフトクリームや観光地で食べるソフトクリームって、なんか何倍も旨く感じるから不思議だぜ。


「ソフトクリームですか?」


「ん? なんだ、食ったことねーのか?」


 確かに前にフードコートで食ったとき、ソフトクリームのイミテーションや看板があったし、フードコートの華と言ったらソフトクリームだろう。


「どんなものなんですか?」


 こう言うもんだよと、結界で創ってみせた。


「……あれがソフトクリームだったんですか……」


 ノーム族的には食べものには見えず、なにかのキノコかと思ってたそーだ。


 まあ、確かにファンタジーの住人的にはキノコにも見えなくはないか。似たようなのあるしよ。


「ソフトクリームっていくらですか?」


 はて、いくらだったっけ? なんか安いなと思った記憶はあるんだが……。


「ソフトクリームでしたら百円ですよ」


 と、ミタさんが教えてくれた。よく知ってるな?


「カイナーズホームにいったときは必ず買いますから」


 すぐいって直ぐ帰って来る記憶しかねーんだが、まあ、ミタさんだし、買うと言うからには買ってんだろうよ。この超万能メイドも甘いもの好きだしよ。


「……百円ですか~。高いんですね……」


 え、高いの? と驚いたが、よくよく考えたら百円をこの周辺の貨幣に換金したら銅貨二枚になるかどうかだ。


 リテンちゃんが何才だかは知らんが、幼女が金を持つなんてまずねー。いや、ノーム族の内情なんて知らんけど、この表情と落胆からして百円は大金なのはわかった。


「幾ら持ってんだ?」


「八十円です」


 と、スカートのポケットから十円玉八枚を取り出してオレに見せてくれた。


 ……十円玉、久しぶりに見たわ……。


「──って、十円玉って銅だよな? しかも、こちらの銅貨よりデカいし。価値、間違ってね?」


 十円玉集めて潰したら一儲けできんじゃねーの? いや、メンドクセーからしないけどさ。


「つーか、八十円でなに買えんのよ? そっちが気になるわ」


 そんな安いスイーツなんてあったか? ソフトクリームより高そうなパフェくらいしか思い出せんのだけれど。


「ドーナツが買えます。一個二十円だから四個も買えるんです」


 まあ~、小さいのに計算ができるのね~──じゃねーよ! いくらなんでも安すぎんだろう! 原価幾らだよ! 


「あ、ミセスドーナツですね。確かにあの値段であの美味しさは神ですよね」


 なんだよ、ミセスドーナツって? いや、ミスターが作るよりミセスが作った方がしっくりくるけどさ~──じゃなくて、それ、イイの? ミセスにしたら文句はこねーの? わけわかんねーな、こん畜生がっ!


「あたし、ポンポコリングが大好きです!」


 なんかまたミタさんが入って来た。スイーツトークがしたいのか?


 ……つーか、ちょっと名前を変えたら許されると思ってんのか、あのアホは……?


「あたしは、デビルイタリアンが好きです」


 それに乗るリテンちゃん。もう、二人で話しなよと、ミタさんに席を譲った。


「……なんか、世知辛いよね……」


 窓の外を眺めながらぽつりと漏れてしまった。

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