第717話 指導者

 ん?


 目をゴシゴシ。


 ……ん?


 頬をバシンバシン。


 …………ん?


 鉄板にガンガン。額から血がぴゅー。バタンキュ~。


「……なにしてるの……?」


 甲板に倒れるオレにプリッつあんが訝しげに尋ねてくる。


 いや、それはオレの方が聞きたいよ。オレはいったいなにしてんのよ?


 雨風に去らされながらちょっと前のことを思い出す。


 部屋から出て甲板に出ると、外は激しい嵐 。キャサリーンと名付けたいくらいだった。


 まあ、結界でドームを創り、雨風を防いでいるのでなんら問題ねーと、艦首先の縁まで移動した。


 嵐で視界がワリーが、陸地は一キロもないようで、山並みはなんとなくわかった。


 ……ん? なんか、山が低くね……?


 海側から帰って来たらまず見えるのは壁のような山々だ。


 隣のカムラからうちの村までは、ちょっとしたリアス式的な海岸線となっている。なのに、目の前の陸地に山はねー。


 いや、低い山はあるが、四十メートルもねー高さだ。つーか、山じゃねーよ。なんか砦だよ、あれ!!


「え、ここどこよ!? オレはどこに連れて来たのよ!?」


 流れる血に構わず嵐に向かってあらん限りに叫んだ。


「神よ説明プリーズ! アテンションプリーズ!」


「なに言ってんの?」


 そんな蔑む目なんて求めちゃいねーんだよ。ほんと、誰か説明しろや!


「どうなされたんですか、ベー様は?」


「さあ? まあ、いつもの発作よ。気にしないで」


 自然に結界に入って来た(人は入れるように設定してます)司令官さんと、普通に対応するプリッつあん。軽く流すなや!


「ここどこよ! オレはどこにいんだよ!」


 もうイイ加減説明お願いしますだよ!


「魔大陸ですが?」


 はい? なんですって?


「しかし、魔大陸って陰気よね?」


「しかたがありません。気候が悪い上に大地が痩せ、常に戦いに明け暮れているところですから……」


 オレの存在を無視して語り始めちゃう司令官さん。なんか、入りずらいんですが……。 


「いつもこんな嵐なの?」


「いえ、今の時期だけです。普段は乾いた風が吹いて殺伐としています」


 魔大陸の正確の位置は知らんが、聞いた話や文献からよると、赤道より下だと思う。前世で言うならアルゼンチンかサウジアラビアのような環境かな? まあ、どっちもテレビで仕入れたふわっと知識だから当てるかはわからんがな。


「まだこの地域は恵まれてますね。フロムロント山脈があり、いくつもの川があるので開墾できますし、カイナ様の力で守られてますから」


 まあ、あの魔力やこの艦隊があれば並みの魔王なんて虫を潰すより簡単だろうよ。


「ただ 、この大陸に住む種族は戦いしか知りませんから開墾もままならない状況です」


 欲しいものは奪えな歴史を繰り返してたらそうなるわな。マシなダークエルフですら畑とも呼べねーものを少し耕し、ほとんどを狩りで生きてたそうだからな。


「だから移住が止まらないのね。でも、せっかく土地があるのにもったいないわよね」


 なにやらメルヘンな存在のクセに俗なこと言ってますわよ。


「わかってはいるのですが、善くも悪くも指導者がいないと動けないのが我々です。できればカイナ様に立ってもらいたいのですが、あの通り自由な方ですから……」


 本人も言ってたが、アレに指導者は無理だ。自由すぎて周りがついていけねー。誰か仕切る下でならその自由をイイ方向に発揮できるだろうがよ。


「誰かいないの? カイナじゃなくても強いのはいるじゃない。あ、レガノがやればいいじゃないのよ。この艦隊を任されてるんだからさ」


 この場合、強いより人を引っ張り、導く才能を求めてんだよ。力はカイナが受け持つんだからよ。


「わたしでは無理です。絶対的なカイナ様から命令されているからこそ司令官として立ってます。でなければ力が全ての鬼族やシープリット族を従えられませんよ」


 しょせん、メルヘンの浅知恵。世間知らずよ。


「面倒くさいわね、魔族って」


 生き物全てがメンドクセーんだよ。単純じゃこの弱肉強食な世界は生きられねーのさ。


「ベー。誰か魔族の指導者になる人いないの?」


 どうやらオレの存在を忘れていたわけじゃなかったようだが、そんな厄介事を振ってくんなや。


「プリッつあんがやれよ」


 無視した八つ当たりが八割だが、これまでのコミュニケーション力とカリスマ性を見てたらプリッつあんにもその資格はあるとオレは見ている。


 まあ、知識不足は否めないが、それは他に求めたらイイし、それこそカイナの力を利用したらイイ。ここで求められてるのは先頭に立つ者。未来に向けて歩ける者だ。


 ただ、強い意志なり思いがねーとダメだけどよ。


「無理よ。ベーの面倒みるだけで精一杯だから」


 カチンとくるが、メルヘンの戯れ言にいちいち付き合ってられるか。サラッとスルーだわ。


「全クルーに通達。これより順番に入港する。各自持ち場につけ」


 と、放送が響き渡った。


「では、わたしは艦橋に戻ります。ベー様たちも部屋にお戻りください。接岸したら案内を向かわせますので」


 司令官さんが敬礼し、艦橋へと走っていった。


 なぜ魔大陸に来たかの説明がなかったが、まあ、焦る人生でもねー。寄り道回り道大いに結構。せっかく来たのなら魔大陸を楽しめだ。


「さて。着くまで飛空船造りでもするかね。いくぞ、プリッつあん」


 魔大陸を眺めるプリッつあんを促し、艦内へと入った。


「……誰かいないかしらね……」


 なにをそんなに肩入れしてるのは謎だが、人の悩みを茶化すのも失礼だ。大いに悩んでください。


 ……まあ、もう一人(一匹か?)、いなくはねーがな……。


 アレ、名前なんだっけ? と考えながら部屋と戻った。

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