第716話 陸地が見えた

「ん? 揺れが大きいな。嵐か?」


 海の旅を続けてもう十三日 。多少の揺れには感じなくなったが、今回のはさすがに気づくレベルの揺れであった。


 まあ、前世の最新鋭空母であるから沈没することもねーだろうと、四日前から続けている作業を再開した。


 と言うか、十三日って長くね? 


 なんて疑問に思うようではファンタジーな世界でスローライフは送れねーぜ。


 時間に囚われず、あるがままに時間を過ごす。どんな時でも、どんな場所でもゆっくりまったりできたらスローライフ検定一級を与えようではないか。


 どこでもらえんだよ! ってな天啓突っ込みがないので作業を続けます。


「なにしてるの?」


 と、なんか久しぶりに頭の上の住人さんが横に現れた。


 共存ってなんだろう? なんて思ってたのも今は昔。もう空気扱いだわ。


 ……空気すぎていることも忘れるのはご愛嬌だよね……。


「聖金が使えるか実験してんだよ」


 聖銀と同じで、土魔法ではどうにもできず、辛うじて熱で溶かして錬金できる程度だった。


 熱を高くしたり、他の金属を足したり、圧力をかけたりするんだが、固まったのも束の間、時間とともに崩れて砂状となるのだ。


 聖銀はその工程で形は保ったものの、強度的には銅にも劣ったが、聖金は形にもなってくれねーよ。


「やっぱ、精神力でやるしかねーのかな?」


 机に置いたナイフに目を向けた。


 それは聖金で作ったナイフだ。


 精神感応金属。嘆きの王の時代の言葉では、精神の金。マグナフェリアと呼ばれている。だから、精神で加工できるんじゃね? とやってみたらあらできた。


 だったらそうしろと突っ込みを受けるところだが、この二十センチくらいのナイフを作るのに丸二日は精神を注いでいた。


 我ながらその集中力にびっくりだが、終わった後の疲労感は凄まじいものだった。復活するのに丸二日かかったものだ。


 で、やっと復活して結界炉で熱し、叩いたり圧力をかけたりしてみたんだが、結果はご覧の通り。失敗だ。


「聖銀も同じならなんで鍛冶でできるんだ?」


 謎の金属だけあって謎が多いぜ。


「まっ、方向性は見えたし、また今度にするか」


 精神で鍛える。なら、オレでなくても大丈夫ってことだ。あとは、精神力(根気か?)の強いヤツを見つけて任せればイイ。小さいものなら一日あれば作れるんだからよ。


「ほら、プリッつあん。これやるよ」


 小さいな指輪をプリッつあんに渡した。たぶん、プリッつあんの指のどれかには嵌まるはずだ。


「プロポーズ?」


「ちげーよ! つーか、プロポーズなんて言葉、どこで覚えてくんだよ!」


 この時代にプロポーズなんて言葉はねーし、指輪を贈る文化もねー。それともメルヘン界ではそうなのか?


「カイナーズホームの店長さんよ。材料が足りないからカイナーズホームに注文したら店長さんが持ってきてくれたの。たぶん、まだいるんじゃないかな? カイナーズホームの支店を出すって言ってたから」


 あ、あの、はっちゃけ店長か。ほんと、碌な事しねーヤツだな、こん畜生が!


「まあ、イイ。いらねーなら返せ。ドレミにでもやるからよ」


 それでも六時間はかかったので、一つしか作ってねーのだ。


「いるわよ! これ、願いを叶える指輪なんでしょう?」


「ん~。そう言われてはいるが、本当かどうかはわからんぞ」


 あくまでも物語の中の話だ。実際、そうなのかは誰も検証はしてねーしよ。


「別に不都合はないんでしょう、これ?」


「いやある。それにはどんな魔法も魔術も、プリッつあんの伸縮能力も効かねー。だからそれをしたままデカくなると指が捻り切られるからな、注意しろよ」


 試してはいねーし、能力が阻害されたりはしねーが、聖金には効果が現れない。それだけわかれば想像するのは容易だわ。


「わかった。力を使うときは外すわ」


 なにが嬉しいのか、指輪を掲げながら空中で踊っている。まあ、喜んでくれるのなら幸いだよ、被験体さん。


「さて。次は飛空船造りでもするか」


 機関部は博士ドクターに任せてはあるが、内装や船体はオレが創る。


 ヴィアンサプレシア号は、サプルの趣味に合わせて造ったが、今度のはオレの船。ヴィベルファクフィニー号はオレの趣味に染めるのだ。


 ふふ。どんな形にしようかな~? アーカム隊を載せるから飛行甲板はつけるとして、何機載せようかな? あんまり多いと他の部屋がなくなるし、コーレンやゼロシリーズも載せたい。あ、轟牙も載せたいな。なら砲塔とかもつけたいかも。ビーム発射! とかもやってみたい。


「ん~、悩むな~」


 やりたいこといっぱいで悩むぜ。


「……つーか、船、揺れすぎじゃね?」


 この時期に嵐なんかねーんだがな? 天変地異か?


「あ、そうそう。陸地が見えたからベーを呼びに来たんだった」


 目的を忘れんじゃねーよ。とは言いたいが、目的を忘れる常習犯は黙ってるのが吉。余計なことはお口にチャックです。


「そっか。なら我が故郷に迎えてもらいますか」


 結界があれば嵐などモーマンタイ。借りた部屋から出て甲板に向かった。

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