第696話 まったくもってごもっとも

 聖金のことも大事だが、買い取りを中断するわけにはいかねー。気を失った人魚は、ミタさんに任せて買い取りを再開させた。


 買い取り客は結構いて、夜の八時までかかったが、聖金以上のものはなく、まあ、ピンクダイヤモンドを荷船四台にいっぱい積んだのはさすがに苦笑したがな。


「はぁ~。疲れた……」


 久しぶりに働いたって感じだぜ。


 まあ、趣味に没頭して八時くらいまで集中することは何度もあるが、やはり趣味と仕事はモチベーションの持ち方が違う。仕事だと思うと、疲れが重いぜ……。


 買い取り所の椅子に座り込み、ドレミが作ってくれた豚汁風ゴジル汁と焼きバモンを食した。


「料理、上手くなったなドレミ」


「ありがとうございます。黄色がサプル様につきっきりで学んでおりますから」


 分裂体が覚えたことはオリジナルにも反映されるってかい。超万能生命体はスゲーですね。


「あの人魚はどうした?」


「茶色の報告ではもう目覚めたようです。今は歌姫の海のコテージで過ごしております」


 人魚用の家は歌姫の海の中に造ってあり、来客用のコテージも何軒か造っておいたのだ。まあ、造ったのはフミさんたちだがよ。


「レイコさん。ワリーが、買い取りしたものの目録を作ってくれるか? ってか、書くことかできんの?」


 ポルターガイスト的な感じで書いたりとかできねーのか?


「できなくはないですが、これがあるから大丈夫ですよ」


 と、なんか紫色した水晶板を出現させた。なにそれ? ってか、どっから出したのさ?


「ご主人様が作ってくれたマトリカです。これに念を込めると文字や姿を写し出されるんです。人魚のマリューカを発展させたものです。ちなみに、これは召喚術で出しました」


 あなた、どんだけ万能なのよ? とか思いはするが、もう万能キャラがいっぱいいるので軽くスルーさせていただきます。


「そのマトリカとやら、ちょっと見せてもらってもイイかい?」


 貴重なもんなら諦めるがよ。


「はい、構いませんよ。あ、なら、べー様に何個かあげますね。沢山ありますんで遠慮なく」


 と言うのでマトリカとやらをいただいた。


「念を込めればイイのかい?」


「はい。まあ、魔力で書いたり写したりするので根を詰めると気分を悪くするのでご注意ください」


 どんな原理かはまったくわからねーが、まあ、使い方はノートと同じってことだろう。習うより慣れろ、だ。


 魔力を込めて文字を念じると、マトリカの面の右上に文字が写し出された。


 ならプリッつんを思い浮かべて念じると、まるで写真のようにマトリカに写し出された。


 ほ~ん。なかなか便利なもんじゃねーか。なら、位置を移動とかはどうなんだ? 


 と、悪い癖でマトリカに集中。気がついたら十時を過ぎていた。


「おっと。いかんいかん。こんなことしている場合じゃねーだろうが」


 このままベッドに飛び込んで夢の世界に旅立ちたいが、今寝たら確実に悪夢を見る。ここは、二日寝なくても動ける薬で乗り切ろう。ゴクゴク。ぷっはー!


「……べー様。あまり飲み過ぎると体調によろしくないですよ」


 マジな顔を見せるレイコさんに、肩を竦めて見せた。


「わかってるよ。これが終わったら体を休めるさ」


 先生印の怪しい薬だが、質は最高級で効能も安全。だが、なに事も飲み過ぎ食べ過ぎは病のもと。前世の知識があり、薬師として学んで来たんだ、充分理解してるよ。


「よし! やるべきことをさっさと済ますか」


 買い取り所を出て甲板に上がると、ミタさんがいたので素早くレイコさんを隠した。


「まだ休んでなかったのか。休んでイイぞ」


「そうはいきません。またなにか問題が出たのでしょう?」


「まーな。だけど、無理しなくてイイよ。レイコさんを連れていくんだからよ」


 姿を消したが、いると認識しているだけで顔色(なんか最近、ダークエルフの顔色がわかって来たよ)を悪くしている。たぶん、気分も悪いことだろうよ。


「わたしは、べー様のメイドです。主がいくならお供するのがわたしの役目です」


 別にそんなことしなくてもイイんだが、それはミタさんの自由であり、誇りでもある。オレがどうこう言う資格はねー。好きにしろ、だ。


 買い取り船をヴィアンサプレシア号へと格納し、歌姫の海へと向かう。


「お、あんちゃん。まだ働いてたか」


 格納庫から続く歌姫の海の出入り口にあんちゃんがいた。つーか、いつの間にかコーランの操縦を覚えたんだよ?


「ん? あ、べーか。仕事って言うか、コーレンの扱い方を練習してんだよ。寝るに寝れねーしな」


 たぶん、明日くらいには疲れがどっと来るぜ。とは黙っておこう。今言ったらメンドクセーことになりそうだし。


「勤勉だね、あんちゃんは」


「商人は皆勤勉だよ。なんちゃって商人と一緒にすんな」


 まったくもってごもっとも。なんちゃって商人は、お気楽極楽にやらしてもらいます。


「で、お前はなにしてんだ? もう寝てる時間だろうに」


「聞きたいんなら話すが、また五日ほど寝れなくなるぜ」


 オレは二日寝ない覚悟はしたぜ。


「……ほんと、お前の人生、急転直下だよな」


 まったくもってごもっとも。反論できねーぜ。


「おれはこれ以上働きたくない。誰がなんと言おうと寝る。飽きるくらい寝る。だから早くあっちいけ!」


 それが賢明ってもんだ。さすがにこれ以上働かせたらサラニラに恨まれるしな。


「はいはい。邪魔者は退散しますよ。またな、あんちゃん」


 言って歌姫の海へと飛び込んだ。


 さて。オレも飽きるくらい寝るためにガンバリますかね。

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