第658話 考えることいっぱい

「スーパーロイヤルプリキィークゥゥゥッ!」


 ポフッと、なんか額に当たった。


 感覚的にまだ目覚める時間じゃねーので、まだお休みなさい。ぐぅ~。


「アリザ! スーパーロイヤルビームよ!」


 ――殺気!


 感じるとともに布団から逃げ出した――その直後、部屋の中が光で支配された。


 な、なにが起こった!?


 光と衝撃で視界どころか動くこともできねー。


 拘束用パジャマを着用中で、まともに動けねーとは言え、並みには動けるようにしている。なのに、まったく動けねーってなんだよいったい!?


 しばらくして視界が戻り、なぜかオレは部屋の隅に転がっていた。なぜに?


 これは夢かと自問自答していると、これまた突然、体が持ち上げられた。今度はなによ!?


「起きた?」


 なぜか目の前にアリザがいた。ってか、頭をわしづかみで持ち上げないで。せめて襟首にしてください。


「……起きた……」


 と言うか起こされた、だけどな。


 更にと言うか、なぜ轟牙タイプでいんの? 今から食われるのオレ? オレ、美味しくないよ。


「ようやく起きたわね」


 くるんと器用に回転させられると(わしづかみされてます)、激おこプンプン丸なプリッつあんがいた。どったの?


「最後になにか言うことがあるなら聞いてあげるわよ」


 やっぱりオレ、アリザに食われちゃうの? ってか、ここは最初にじゃなくて最初に言うところじゃね?


「おはようございます」


 朝起きて最初に言うことは『おはようございます』でしょ。まあ、最初に言ってんのはドレミだけど。


「アリザ。殺っちゃって☆」


 プリッつあんの笑顔が超眩しィ。


 わかったとアリザがじゃれてくるが、生憎とこの拘束用パジャマにはモコモコビームだろうがなんだろうがノープロブレム。なんも感じませ~ん。


 拘束用パジャマは、オレの五トンを持っても平気な体用にこさえたもの。寝返り打ったりして周りに被害を出さないために創ったものだ。だが、体を拘束して万が一襲われたら笑い話にもなんねー。超強力な結界を、これでもかと付着させちゃったらあら不思議。なんかよーわからん防御力を見せた。


 いろいろ試した結果、もうこれ伝説の鎧に勝ってんじゃね? ぐらいになっていた。


 伝説の鎧にも勝るパジャマってなによ? とか小一時間ばかり悩んだが、まあ、それを知ってるのはオレだけ。気にしなければただのパジャマ。それでイイじゃな~い、だ。


 なんて回想してるのも飽きたし、そろそろドロンしますかね。


 アリザに頭をガリゴリされるオレを残して部屋を出た。


 え? どーゆーこと!? とびっくりするあなたに説明しよう。


 拘束用パジャマの防御力は伝説の鎧にも優るが、攻撃力や武装はない。だが、我には結界術があり、なんか最近、身代わりの術を極めつつある。


 ヴィベルファクフィニー流、身代わりの術。他に伝授できないのが悲しいぜ……。


「あら、ベー。おはよう」


 と、婦人が部屋から出て来た。あと、二人のメイドさんも。 


 ちなみに部屋から出たのは三階から。婦人が住んでる階です。皆、覚えてた? オレはすっかり忘れてました~。


「おう、おはよーさん。早いんだな」


 アリザにじゃれつかれて早く目覚めてしまったため、まだ六時前だ。商会は八時就業なんだからまだ寝てればイイのに。


「ええ。朝のお風呂がわたくしのマイブームなので」


 そんな前世の言葉をどこで覚えてくるのかは謎だが、うちの風呂は二十四時間で、なんか知らん間にテーマパーク化していた。


 まあ、あんな大空間にできるヤツなんてカイナくらいしかいねーんだが、あの腐れ魔王はなにを目指してんだ? たんなる改造マニアなのか? 意味わからんわ!


「そうかい。まあ、楽しんでくれや」


 婦人と別れ、外へと向かった。


 久しぶりにオトンの墓を掃除して、二拍一礼。さて。今日も元気に生きますかと振り返ったら、シバダたちとバンたちのパーティーがやって来るのが見えた。


「おう。おはよーさん。どうしたい、バンたちまで来るなんて?」


 格好はいつもの冒険者スタイルだが、なぜか斧やら鉈やらを持参していた。


「お前んちの依頼だよ。牧場を広げたいからって」


 依頼? 牧場? なんのこったい?


「冒険者活動はイイのか?」


 なんかよーわからんが、気の利いた誰かさんに感謝の敬礼。でも、そんなことさせてイイのか? 雑用だぞ、それ。


 まあ、雑用も冒険者の仕事だし、給金もイイだろうが、魔物や害獣退治はイイのか? それがバンたちのメインだろうに。


「しょうがねーよ。最近、ゴブリンどころか灰色狼も出ねーし、野草類も誰かに採られてるし、仕事がねーんだよ」


 たぶんそれはオレのせいです、ハイ。


「そうか。まあ、うちの仕事とをやってくれんなら大歓迎さ。いろいろ商売始めて人手が足らねーんだよ。アハハ」


 給金弾むからがんばってよ。


「つーか、お前んち、どうなってんの? 館以外にいろんな店が建ってるし、なんかいろんな種族のヤツがいっぱいいるしよ」


「まーなんつーか、商売を始めたら人が増えた? 的な。まあ、村長には伝えてあるし、了承ももらってるから気にすんな」


「まあ、ザンバリー様は貴族だし、A級の冒険者だったしな。そーゆーもんなんだろう」


 そーゆーもんです。ご納得ありがとーでやんす。


「じゃあ、仕事を頼むわ。終わったらうちで朝食とってけや。用意すっからよ」


 うちの料理人、もはや何十人単位でいる。バンたちが増えたところで支障はねーだろうよ。


「いつも出してもらってるよ」


「あまりにもよすぎて宿の料理が食えねーよ」


「ベーのうちで雇われたいくらいだわ」


 雇われてくれるのなら雇いたいところだが、バンたちは村専属の冒険者。村人にとって村の掟は絶対。破るわけにはいかねーのだ。


 ……いろいろ破ってんじゃん、とかの突っ込みはノーサンキューだぜい……。


「まあ、仕事の依頼は出しておくから暇なときに受けてくれや。給金弾むからよ」


「ああ、頼むぜ。お前んちの仕事は美味しいからよ」


 仕事に入ったバンたちを見ながら思う。うちの、いや、ゼルフィング家のあり方、考え直したほうがイイかもな。


「……陽当たり山をゼルフィング家の私有地にするか……」


 たぶん、コネと財力を活かせば、ここいら一帯ゼルフィング家の私有地――領地になる。いや、いっそのこと親父殿を領主にするか? うちの領主、領地経営とか無理っぽいし。


 とりあえず、その場にてモーニングなコーヒーをいただきながら思考へと入った。

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