第635話 世界樹の種

 主導権は辛うじて守られたが、信頼は限りなく落ちてしまいました。


 ……視線が痛い……。


 頭の上の住人さん、背後に立つミタさん、メイドさんズと、まるで犯罪者を見るような目を向けてきます。


 ここで負けたらこれまでの努力が無駄になる。強い意志で跳ね返し、そんな目など気にしませんと言う態度を崩さない。


 こーゆーときは明鏡止水(現実逃避)か別のことを考えるのが吉。ならアリザのことでも考えますかね。


 と、その前にトイレにいきますかね。


「どこいくの?」


「トイレだよ」


 と席を立ち、食堂を出たらミタさんとメイドさんが二人ついてきた。なんでよ!?


「ご一緒します」


 嫌だよ! と言っても聞き入れてもらえなかったので、しょうがなくトイレと向かう。もう監視だよ!


 ヴィアンサプレシア号の男女別のトイレで完全防音の完全個室。サプル監修なのでゆったりまったり寛ぎ空間となっている。中に入れば外に何人いようと気にはならねー。


「――って、なんで一緒に入ってくんだよ! 出てろ!」


 頭の上のアホを強制脱着し、トイレの外に放り投げた。


 ったく。見られながらできるか! 


 すっきりさっぱり、一人を満喫していたらドアノブが吹き飛んだ。なにいったい!?


「ベー様!」


 と、開く方向外なのに、なぜか内側に開いて銃を構えたミタさんが飛び込んで来た。


「アホかっ!」


 結界で押し返し、ズボンを上げた。


 ちなみにヴィアンサプレシア号の全トイレは洋式。便座はサプルが作ったので全部そうなったんです。


 流して外に出ると、ロケットランチャーを構えるミタさんがいた。ヴィアンサプレシア号を落とす気か!?


「いい加減にしろよ! オレの行動はオレが決める。阻害するようならクビにすんぞ!」


 自分同様、他人の主義主張も大切にするが、優先するのはオレ自身の主義主張だ。引いてやるつもりはない。どちらか片方しか通らないなら、オレは全力で他人を蹴落とす。それで嫌われたり憎まれたりするなら甘んじて受け入れる。今生のオレは一歩たりとも引かねーぞ!


「……申し訳ありません。出過ぎました……」


 自分の立場とオレの主義主張を理解したのか、ミタさんが素直に謝った。


「わかればイイよ。あと、サプルのメイド隊はサプルについてろ。オレの心配は無用だ」


 ファンタジーな世界でイイ人生だったと死ぬと決めたときから死なない努力はしてきたし、備えはしている。なにより後悔しない人生を送って来た。それで死ぬなら本望。悔いはねー。


「ベー。わたしもトイレ」


 空気を読まないアホメルヘン。一人でいけや! いつも一人でいってんだろうがっ!


 結界で包んで女子トイレにナイスイン。一人ですっきりさっぱりしろや!


 ほんと、なんのこれ! と怒りながら食堂に戻った。


 暴食いするアリザの横に座り、意識を切り替えた。


 さて。アリザをどうするかだが、まあ、今は沢山食わして轟牙シリーズとモコモコビームの生産をする。


 我を忘れてビーム兵器を作ってわかったのだが、威力を小さくすれば結構汎用性があるのだ。


 試作で作った轟牙の主要武器、ガンアックス(どう言うものかは勝手に想像してください)。撃ってヨシ。斬ってヨシ。殴ってヨシの優れもの。あらゆる状況でご使用いただけますだ。


 それから派生させたビームバルカンやビームガン、ビームサーベルにビーム砲。まあ、封印はオレの結界術は使うが、設定さえ決めれば竜機にもつけられるし、飛空船の大砲にも使える。まず間違いなく世界最強の軍隊がつくれるだろうよ。


 このファンタジーな世界で力が全て――とは言わないが、力がなければ主義主張は語れないし、形にもできない。まず力を持つこと。最強と知らしめることだ。それができないようでは利用され、騙され、そして滅ぼさせられるのだ。


 まあ、モコモコエネルギーばかりに頼るつもりはねーが、あるのなら使わない手はねー。生きたエネルギー発生装置があるんだからよ。


「とは言え、量が問題なんだよな~」


 すっきりさっぱりしたメルヘンが頭にパ〇ルダーオンしたが、構わず思考を続ける。


 別に量に関してはなんら問題ねーし、料理人はたくさんいる。料理人育成にも役に立っているのでこのままでも構わねーのだが、より多くの轟牙シリーズを作ってもらうためには非効率だ。


 モコプリから三日は過ぎてるのにまだモコモコ獣にはなってねー。これでは計画倒れだぜ。


「なあ、アリザ。今の状態でモコモコ獣になれるか?」


「たぶん、なれる。でもお腹空くからならない」


 なれるのか。なら、やはり問題は食事の質か……。


 世界樹の種は芽が出るのは奇跡に近いが、種だけなら腐るほどある。頼めば幾らでももらえる。今も無限鞄には樽四つ分ほどあるから問題はねーと言えばねーんだが、非効率なのには変わりはねーんだよな……。

 世界樹の種を一握り出して空いた皿に入れる。


「これ味は薄いけど、お腹いっぱいになるから好き」


 食いはするが、モコモコ獣にはならなかった。やはり、容量が増えたのか?


「どうする?」


「でしたらまた大きくすればよろしいのでは?」


 と、ミタさん。だよね~。なんで思いつかなかったんだよ、オレ!?


 一粒取り出して三十センチくらいにして、アリザの目の前に放り投げた。


 手が見えないくらいの速さで世界樹の種をつかむと、バリボリボリと食い始めた。


「あ、光ってきました」


 光るのはモコモコ獣になる前兆らしく、世界樹の種を飲み込んだ瞬間、モコモコ獣へと変化。しばらくして背中から光が漏れ、アリザが脱皮した。


 メイドさんたちが素早くアリザにバスタオルをかける。なかなかの手際です。


「つーか、モコモコ獣になる度に服を駄目にするのかよ」


 大量生産できない時代に服をダメにさせられるのは地味に痛いな。


「ミタさん。カイナーズホームでアリザの服を大量に買って来てくれや。さすがに服がもったいねーよ」


 カイナーズホームのものはカイナの魔力で生まれたもの。なくなっても惜しくはねー。それに、カイナーズホームで働くヤツらへの還元にもなるしな。


「畏まりました」


 ミタさんに指示を出している間にアリザは食堂から連れ出されたが、まあ、着替えたら戻って来る。


 その間に世界樹の種をデカくしますか。


「あ、サプル。これに味付けできるか?」


 どうせなら美味しくいただけるようにしてやろう。


「世界樹の種か。ん~~うん。なるよ。任せて!」


 ならお願いしますと世界樹の種をあるだけ出した。


 間に合うと思うが、念のためにリュケルトに催促の手紙を書くか。エルフの村もそろそろ外貨稼ぎを覚える頃だしな。


「世界樹の種をすりつぶして粉にするのもイイかもな」


 まあ、そこら辺はサプルちゃんにお願いしますだ。

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