第624話 謎状況

 キラン!


 と、モコモコガールの口の中が輝き、なんか世界を七日間で滅ぼしそうな光の帯が発射された。


 ……あ、これマズいやつだ……。


 と、結界サングラスを皆の目にかけさせる。


 ちゅどーん!


 五百メートル先にいる、なんか凶悪そうなタコ系の怪獣の頭が融解するように爆発した。


「……えげつな……」


 頭をなくしたタコ系怪獣の有り様もそうだが、それを発射したモコモコガールが一番えげつないわ。


 ところで、この状況はなに? と問いたい皆さまにお答えしよう。それは今を去ること三十分前。サプルの部屋から出てのことだ。


 部屋の外にミタさんがいて、心配そうに尋ねてきた。


「ずっとそこにいたのかい?」


「はい。あたしは、ベー様付きのメイドですから」


 なんだろう。至極もっともなことを言っているのだが、オレの勘が不自然さを感じ取っていた。


「そうか。ありがとな。オレは大丈夫。もう休んでイイぜ」


 オレ付きとは言え、これと言った拘束時間はねーし、これと言った仕事もねー。まあ、朝起きてから夜寝るまでオレが用があるときに働けはイイんじゃね? ぐらいにしか考えてなかった。


 なんで、今日は終わり。好きにしたらイイさ。なんかあればドレミがいるしよ。


「いえ。ベー様が起きている限り、お側にいます」


 短い付き合いだが、オレが理解しているミタさんなら『はい。ではお休みなさいませ』と、仕事とプライベートはわけるタイプと見てたんだがな。的外れだったか?


「別に無理しなくてもイイんだぜ。用があるときにミタさんを頼るからよ」


「いえ、それだと他の方々に示しがつきません。可能な限り、お側にお仕えします」


 ま、まあ、そこまで言うのなら構わねーが、自棄に食い下がってくんな?


「なら、コーレンを操縦してくれるか? ってか、操縦できたっけ?」


 ミタさんならなんでもありそうだから、ついお願いしてしまったわ。


「はい。昼は暇でしたのでサプル様とコーレンを操って遊んでおりましたので」


 あーうん。それも仕事……か? まあ、オレ付きのメイドなら構わんか。フリーダムメイドだし。


 で、格納庫に来ると、コーレンが四台、小人サイズで棚に収まっていた。あ、ちなみにオレらも小人サイズでモコモコガールの背に乗ってます。


「このままでしたら小さくなってきますが?」


 ここは、オレ専用の倉庫だが、直ぐ下は竜機の格納庫があり、そこにガ――じゃなくて、伸縮トンネルがある。


 小人界と普通人界の行き来用の伸縮トンネルだが、小人サイズのままこちらに来れる通路もあるのだ。


「いや、コーレンをデカくするよ」


 それだと時間がかかるし、黒髪の乙女さんに気がつかれる。そうなったら事が大きくなって全員に迷惑がかかる。なにより、サプルにバレる。それだけは回避せんとな。


「わかりました。どれに乗っていきますか?」


「後ろに荷物が積めるタイプのコーレンを頼むよ」


「これですか?」


「おう、それ。そこの床にバツ印しがあるところに置いてくれ。なるべく中央に」


 指示通り、バツ印し――サイズ確認用置き場にコーレンを置いてくれた。サンキュー。


 ミタさんと床に刻まれたメモリを見ながらコーレンをデカくする。うん、こんなものか。


「ミタさん。操縦頼む。モコモコガール、そこに乗れ」


 モコモコガールに荷物台に乗るよう促す。


「ん? プリッつあん、モコモコガールをデカくしたか?」


 確か、元が牛くらいのサイズから猫くらいに小さくしたはずなのに、今は大型犬くらいになっている。ウン、気づけやオレ。


「あ、拘束してたっけ。ほいっと」


 ワリー。存在すら忘れてたわ。


「……わたしの扱い、最近雑じゃない……」


 いや、頭の上に住んだ頃から雑だよ。とは死んでもいえません。


「そうか? オレは誰に対してもこんなんだけどな」


 まあ、雑とフレンドリーの差がどれほどのものかは、それぞれの判断に任せますがね。


「そんなことより、なんでモコモコガールをデカくしたんだ?」


「サプルがこのくらいが抱きやすいっていうからよ。ったく。兄弟揃って抱き寝癖があるんだから」


 え、そうなの? 初めて知ったわ。


 まあ、だからと言って止める気はない。スライム型ドレミ、気持ちイイんだもん。


「とにかく、出るぞ。ミタさん、後部ハッチから出る。わかるか?」


「はい。昼間に教わりました」


 フミさんたちによる改造で、ハッチの前にくれば自動的に開くようになっており、オレの結界により音や気圧が漏れることもない。加えてここは独立しているため、船橋に知られることもない。


 ミタさんの巧みな操縦でスルリと発進。真下へと降下してもらう。


 上空三千メートルのところにいたのか、下まで降りるのに結構時間がかかってしまった。


 雲がかかってて月明かりはないが、なにやら魔法の光が幾十も浮かび、辺りを照らしていた。


「……なんでしょうか、あれは……」


 魔法の光に照らされ、タコ系の怪獣が人魚の群れ――いや、軍と戦いをしていた。


「海にはいろんな生き物がいるんだな」


 海神様と言い、ポセイドンと言い、神秘な世界だぜ。


「どうします?」


 わりと動じてないミタさんが尋ねてきた。まあ、慣れたオレも動じていませんがね。


「ついでだ。モコモコガールの熱い光を見ておくか」


 実際、どんなもんか見ておかないと話にならんしな。


「よし、モコモコガール。あの暴れてるヤツに向けて熱い光を放って」


「怒らない?」


「怒らんよ。最大を放て」


 わかったと返事をするモコモコガールが、タコ系の怪獣に向けて口を開いた。


 ってのが今の状況なわけですよ。わかった?


「……なに一つ状況がわからないわ……」


 大丈夫。オレもなに一つわかってないから。誰か、説明ぷりーず! 

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