第613話 メイドのミタさん
ハイ、館の前に到着っと。
「ん?」
我が家へと入ろうとしたら、ダークエルフのメイドさんの一人が庭掃除をしているのが視界に入った。
庭と言っても庭園があったり、花壇があったりする訳じゃねー。ただ開けた場所で、オトンの墓やマ〇ダムタイムするときのベンチやバーベキュー用のコンロがあったりするくらいだ。
館に比べて寂しいもんだが、これと言って庭に興味がないのでそのままにしている。
とは言え、雑草やら生えたり山の落ち葉が集まったりするので、たまには掃除をするが、最近は謎のキノコがやっていた。なので、お任せとばかりと意識から外していた、のだが……。
「キノコがいねーな?」
そこらかしこにいたんだが、なぜかどこにもいねー。枯れたか?
まあ、いなきゃいないでオレはどうでもイイが、マイシスターの下僕。なんかあったらサプルが悲しむ。そんなこと兄としては見過ごすことはできねー。
なんで、メイドさん。キノコはどーしたい?
「え、はい。地下団地の建設で人手が足りないとかで、応援に行ってます」
そんな雑な質問に、ちゃんとオレの知りたいことを答えてくれた。
改めてメイドさんを見る。
エルフ族と同じ長命種なので見た目からはわからんが、感じからして若い方だろう。体は……ノーコメントとして、人で言えば十代後半か。他のメイドズの中では最年少かもな。
名前はミタレッティーか。つまり、メイドのミタさんね。
――ぶっほ。
その地味な感じと名前に思わず吹き出してしまった。
「あ、あの、なんでしょうか?」
突然、吹き出したオレに戸惑いの顔を見せるミタさん。へ~。そんな表情できんだ~。
誰の教育か知らんが、他のメイドズはいつもすまし顔。ミタさんのように表情を崩すなんてことはなかった。
「ミタさんは、なんの仕事してんの?」
いや、メイドだよ、って突っ込みは入らない。頭の上の住人さんも、表情を崩したことに興味を持っていた。
「あ、あたし、じゃなくて、わたしは、補助としていろいろやってます」
どうやら上品な言葉使いは苦手なようだ。だがまあ、他人行儀なしゃべり方よりは断然好ましいな。
「へ~。補助、ね」
その言葉に、オレの考えるな、感じろセンサーに触れるものがあった。
「そうかい。仕事の邪魔して悪かったな」
そう言い残して、サプルのもとへ向かった。
食堂に行くも、サプルはおらず、部屋にいってもいなかった。マイシスター、どこですか~?
「サプル様でしたらご自分の工房におります」
いろいろ探していたら、メイドのミタさんが教えてくれた。サンキュー。
サプルの工房へと来ると、なにやらたくさんのメイドさんがいた。なにしてんの?
「あ、あんちゃん。人魚の国にいくから邪魔な陶器を運び出してるの」
それ、処分とか廃棄とか言わねー?
とか思ったが、サプルの作った陶器は人魚の間では結構人気がある。
ナルバールのおっちゃんの話では、ドロティアちゃんシリーズが売れ筋とか。
ドロティアちゃんをカワイイと思うんだから人魚の感覚、人とそれほど違いはねーと思うんだが、なぜかウルさんの趣味が個性的。ほんと、ウルさんだけであって欲しいぜ……。
「まだあったのか? 全部あんちゃんにやったかと思ったよ」
何十箱って持っていったんだが、サプルの集中はオレの予想を遥かに超えてるよーだ。
「あたしもそう思ったんだけど、棚を整理してたらやり始めたときのが出てきたんだ。ほら、初期のドロティアちゃん」
と、野暮ったいドロティアちゃんを見せた。
そー言や、その頃は不思議な国のアリスが好きだったっけ。まあ、なぜドロティアになったかは知らんけど。
「初期のなんて売れるんか?」
「どうだろう? でも、ドロティアちゃん人気だし、安くすれば売れるんじゃないかな?」
「そうだな。五個で一ビルとか一組で五ビルとかで売れんじゃねーか? まあ、売れなきゃお土産にすればイイさ。どうせ儲けるために作ったんじゃねーんだからよ」
「そうだね。あんちゃんの言う通りにしてダメならお土産にするよ」
人魚の子供とかに配ればゼルフィング商会の宣伝にもなる。損はねーさ。
「ところで、メイドのミタさんなんだが、知ってるか?」
「ミタさん? もしかして、ミタレッティーさんのこと?」
さすがマイシスター。ちゃんとメイドズを把握してるよ。
「……いや、ミタさんで理解できるところに驚きなさいよ……」
最近、メルヘンの呟きが多いが、風の囁きとかに変換すれば気にもなりまセーン。
「そうそう、そのミタさんだ。ミタさんって、誰の下についてんだ?」
「一応、執事のレッセルさんのところ、かな? ミタレッティーさん、結構器用でいろいろできるし、気配りが上手だから自由にさせてるんだ」
ほ~ん。サプルがそう言うなら、相当優秀なんだな。本人はそんなこと思ってもいねーようだがよ。
「なら、オレが使ったらダメか?」
「イイんじゃない。本人は自分のことダメと思い込んでるし、あんちゃんに使ってもらった方が自信が持てると思うしね」
サプルを前にして自分を優秀と思えるヤツは頭がイカれてるか、目が腐ってるかのどちらかだわ。
「じゃあ、オレが使わしてもらうな」
「うん。ミタレッティーさんをよろしくね」
おう、任せておけ。オレが上手く使ってやるよ。クックックッ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます