第610話 商売デス

 ゼルフィング商会の本店に入ると、なにやら店ができていた。


「完全にスーパーだな」


 あんちゃんの店と被らねーようにしてるのか、扱っているのは生鮮食品や加工食品。乳製品とかもある。この時代、と言うか、村でやるには充実し過ぎてねぇ?


 本店の一階をそのまま使っているようだが、誰が買いに来んだよ。駅前スーパーくらいの量はあるぞ。


「いらっしゃいませ~」


 と、エプロンをした……なんだっけ、上半身が人で下半身が蛇なのって? まあ、魔族二十四種族の一つ、蛇人族なんだろうが、初めて見たわ。


「あ、ベー様でしたか。失礼しました」


 オレは初対面だが、蛇人族のねーちゃん(見た目は二十代半ばだが、考えるな、感じろは違うと言ってる。まあ、そんなこと口にも態度にも表したりはしませんがね)は、オレを知っているよーだ。


「ご苦労さん。繁盛してるかい?」


「はい。地下に団地ができましたから大繁盛です」


 あ、ああ。そんなことやってたっけな。


「地下から買いに来んのかい? 不便じゃねーの?」


 転移バッチで行ったから、どんだけの深さかは知らんが、多分、港から館の方に掘り進んでだろう。そうなると三十メートルくらいの差がある。


 階段にしろエレベーターがあるにしろ行き来が大変だろう。だったら団地内に造る方が便利だろうに。


「いえ、気晴らしになるとかで、結構好評ですよ。それに、住人が増えたら団地内にも造るとフィアラ様が申しておりました」


 ほ~ん。できる婦人はさすがだね~。


「そうかい。仕事、ガンバってくれや」


「はい。しっかり働かせていただきます!」


 他の蛇人族や鬼族のおば……じゃなくて、おねーさま方も元気よく応えた。


「思うんだけど、ここ、もうゼルフィングの町になってない?」


 例えなっていてもオレの中では敷地内。なのでここは村の一角。決して町ではありまセーン!


 メルヘンの疑問など軽く流して二階へとゴー!


「婦人、いるかい?」


 開かれた統括会頭室へと声をかけながら入る。


「いらっしゃい、ベー。今日はどうしたの?」


 書類仕事の手を止め、笑顔で顔を上げた。


「明日から両親を新婚旅行に連れていこうと思ってな。できれば婦人にも同行して欲しくてな」


 ソファーに座ると、秘書さんがお茶を出してくれた。


「新婚旅行に同行?」


 執務机から向かいのソファーに移り、秘書が出してくれたお茶を手に取り、首を傾げた。


 その疑問に直ぐには答えず、秘書さんが出してくれたお茶を飲む。教えられた通りに。


 ゼルフィング商会の実務は婦人に、マルっとサクっと任せてはいるが、責任者はオレであり、重要な判断を下すときもある。


 そんなときは大概、相手が貴族だったりする。そんなときのために、婦人から対応を学んでいるのだ。


 まあ、細かいことをオレにしろと言う方が悪いので、優雅に、品よく、ゆとりを持つようにと、心がけているのだ。なるべく、だけどな。


「貴族は新婚旅行とかするのか?」


 口調はまだご勘弁を。


「高位の貴族はしますね。ただ、別荘にいくくらいのものですが」


 あなたとの認識は天と地ほどにも違いますけどね、と副音声が聞こえそうに笑う婦人。皮肉も優雅で品があるこって……。


「まあ、うちはうち。よそはよそだよ」


「はい。そうですね」


 そこで、そんなのするのお前んちだけだわ! とか突っ込みが欲しいが、そう返されるのも悪くはねーな。


「新婚旅行が第一の目的だが、第二の目的は商品の仕入れだな。あと、婦人に紹介しておきたいもんもいるしな」


 あんちゃんにはワリーが、オレにはオレの付き合いがあり、大事にするべき者がいる。これはゼルフィング商会として独自に当たらしてもらうぜ。


「ふふ。アバールさまに恨まれそうですね」


 しっかりとオレの思考を見抜く婦人。怖い人だぜ。


「あんちゃんには、違うルート……商売相手がいる。そいつとガンバってくれ、だ」


 オレには商人を相手に駆け引きとか無理だ。つーか、勝てる気が、しねー。オレは恩を売って利を稼ぐタイプ。商人は商人同士商売してくれ、だ。


「それで、どこにいくので?」


「バルデラル王国。まあ、人魚の国さ」


 オレのルートはハルヤール将軍であり、商売相手は国だ。それが、オレの得意分野だぜ。


「思うんだけど、それ、外交って言わない?」


 オレの中では言いません。誰がなんと言おうが商売デス。

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