第558話 獅子の子は獅子
なんて驚きも三秒で鎮火。これまでの経験と比べたらカワイイ方だ。
「にしても大人数だな。どっから連れて来たんだ?」
ざっと見、三十人はいるぞ。しかも、顔つきからして誰もがベテランの域だ。並みの商会なら重役クラスじゃね?
「ここにいるのは、三十七人です」
「ここにはってことは、他にもいんのかい?」
その口振りからするとよ。
「はい。いろいろ声をかけて五十四人が転職を希望しております」
「そりゃ集めに集めたもんだ。こんなに抜けて王都は大丈夫なんかい?」
王都にどれだけの商人がいるか知らんが、これだけの人が抜けたら経済恐慌になんじゃねーの? つーか、商会が成り立たねーだろう。なんか王都であったのか?
「派閥争いにしては規模が大き過ぎるし、不況になったって話も聞かねー。なんなんだい?」
「ふふ。さすがですね。とても子どもの口から出る言葉でもなければ推察でもありませんね。これは、王都の商人が頭打ちになり、人余りになっているのです。まあ、ここにいる者たちは、長年商人を勤めてきましたが、中堅にもなっておりません。上にいくには並大抵ではない才と努力が必要です。なら、まだ自分が元気なうちに勝負をと思う者に声をかけたんです」
なるほどね。確かに人外がうらで仕切っている国。平和で優しいところではあるが栄枯衰退が緩やかだ。そこで成り上がるには想像を絶する幸運とタイミング、バーザさんが言ったような才と努力がいる。
そう考えると会長さんは、想像以上にスゲー人なんだな。なんかいろいろ失礼を言ってすみませんです。
「自分の道を切り開く意思とときを見る目に優れてた者ら、か。こりゃ、オレが一人占めしたらあんちゃんに恨まれそうだな」
早い者勝ちと言いたいところだが、これだけの人材を独占したらジオフロント計画が立ち遅れる。均等にバラけさせた方が上手く回るだろうよ。
「わかった。全員を雇い受ける。が、まずは確認だな。バーザさんよ。全員を集められるかい? 今すぐに」
「はい。ヴィベルファクフィニーさんがいつ来てもいいようにはしております。ただ、お昼までお待ちくださいますか。さすがにこれだけの人数を我が家に詰め込むのは無理なので、近くの集会所を借りるのに多少の時間が必要なもので」
集会所なんてあんのかい。回覧板と言い、誰が……あ、グレン婆か。さすが人外の長老。自重しねーな……。
「いや、ここに集めてくれ。場所はオレが用意するからよ」
「わかりました。では、すぐに呼んでまいります」
なぜどうしてを言わず、すぐに行動するバーザさん。この人を捨てるとか……いや、そんなアホに感謝だな。こんなできる人をオレにくれるんだからな。
「さて。ザニーノ。案内ありがとな。もうイイぜ」
ザニーノに振り返り、感謝と拒絶を送った。
「……わたしは除け者?」
拗ねたように、甘えるように、なんとも悲しそうに言うザニーノ。さすが会長さんの娘だぜ。
まあ、普通の男だったその手に引っかかって騙されているところだろうが、生憎、純情で無垢な十一歳児には通じない。ヘイ! ここは突っ込むところだぜっ。
「ああ、除け者だ。これから先は超国家機密。知ったら会長さんの娘だろうが、消えてもらう」
記憶的なものですが、脅しなので真意は口にしません。
だが、さすが会長さんの娘は脅しなど屁のカッパ。その表情に揺るぎはなかった。
「なら、ベーの仲間になればいいのね?」
「それは、会長さんと親子の縁を切ってもか?」
さすがに表情が揺らがせるザニーノ。
軽く捉えているようだが、これは命懸けの、この国を裏切る行為だ。誰構わず誘えるもんじゃねーし、誘ってもイイもんじゃねー。覚悟を示してもらわなけりゃ、例え会長さんの娘だろうが受け入れることはできねーんだよ。
「……なら、親子の縁を切るわ。この目の前にある機会から逃れたら一生後悔する。わたしは、商人だもの!」
その覚悟と決意、そして揺るがない宣言に思わず笑ってしまった。
蛙の子は蛙と言うより、獅子の子は獅子って感じだな。きっと会長さんの若い頃はこんな感じだったんだろうよ。
「なら、歓迎するぜ。未来の大商人どの」
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