第557話 有能なバーザ
会長さんの店は今日も大繁盛だった。
以前は店からお邪魔させてもらったが、仕事中に店から入るのはワリーと思い裏に回り、住宅の方からお邪魔します。
「これはベー様、よくお越しくださいました。どうぞ」
偶然にも家令さんが出て来てくれ、中へと通してくれた。
「申し訳ありません。ただ今主は外出しておりまして、明日にならないと帰ってこないのです」
応接室的なところに案内され、お茶を出しながら家令さんがそんなことを言った。
「そうかい。それは残念だ」
まあ、天下の大商人様。オレの出会い運がイイとは言え、そんな日もあるだろうよ。それに、いたらラッキーな気持ちで来たまで。本来の目的は別にあるからな。
「ところで、ここにバーザと言うおっちゃんは来てるかい? 親父さ――ブラーニーからここにいると聞いたんだが?」
アブリクト島を出る前に聞いたらそんなことを言われたのだ。
「来てはいませんが、バーザ様の住所はお伺いしております。向かわれますか?」
「ああ。いくよ」
転職するとも聞いてある。なら、さっそくお持ち帰りさせてもらうさ。
住所が書かれた羊皮紙を受け取るが、王都の土地勘なんてまるでゼロ。クラウニー通り四番地区十七と書かれていてもわかんねーよ。
「ワリー。誰か案内をつけてくれるかい?」
知らねーもんは知らねーんだ、誰かに案内してもらうしかねーじゃんかよ。
「畏まりました」
と言って部屋を出た家令さんが、なぜか会長さんの……娘さんを連れて来た。
「ザニーノよ」
「あ、うんうん。ザニーノのね。知ってる知ってる。オレはベーだよ」
やっぱりな。オレもそんな名だと思ってたんだ。いや、ちょっとド忘れしただけ。ザさえ出たらすぐに思い出したさ。
「ふふ。わたしもベーだと知ってるわよ」
そ、それはなにより。覚えてもらってて光栄デス!
「つーか、ザニーノが案内してくれんのか?」
なにも会長の娘自らそんなことせんでもイイだろうに。案内なら下男かでっちで充分だろうが。
「ええ。バジバドル商会の大切なお客様。蔑ろにはできないわ」
別に、蔑ろにされたからってどうこう言うつもりはねーが、それを説明すんのもメンドクセー。好きにしろ、だ。
「んじゃ、頼むわ」
と言うことでザニーノの案内でバーザさんのところに向かう。
「ところで、その子は?」
しばらくしてザニーノがオレと手を繋ぐリアムのことを聞いてきた。
「こいつはリアム。さっきオレの妹になったやつだ」
「わたし妹。ベーと兄弟」
多分、ザニーノを見て言ったところをみると、自己紹介をしたんだろう。いや、これは自慢、かな?
「そう。わたしはバーボンド・バジバドルの娘でザニーノ。よろしくね」
なにやらすんなり受け入れたザニーノさん。まあ、どうせオレだからとか思ってんだろうよ。
「もう一つ、ところで、なんだけど、ベーから香ってくる匂いはなんなのかしら? 凄くいい香りなんだけど」
やっぱ気になるか、この香りは。ほんの少量を使っただけなのによ。
「これは花人族からもらったフラワーエキスだよ」
「ふらわーえきす?」
あ、前世の言葉で言っちまったわ。失敗失敗。
「まあ、香水だな。って、香水はわかるか?」
オレは香水があるとは聞いたことはねーが、匂い袋の元は花の油だったり香木だったりする。なら、香水もあんだろう。
「ええ。知ってるわ。帝国の貴族が愛用してると聞いたことがあるわ」
「帝国に、ね~。それはまた発展してんな」
まあ、大国でありこの世界で一番……かどうかは知らんが、この大陸では随一の文化を持つ国である。香水があっても不思議じゃねーか。
「香水を持っているベーのほうが発展しているわよ。香水の製造法は秘匿されているのだからね」
「別にオレが考えたわけでもなけりゃオレが作ったわけでもねー。花人にお願いしてもらったまでさ」
謎の生命体の不思議能力。突っ込むのもメンドクセーわ。
「……ベーの顔の広さはどこまで広いのよ……」
さーな。オレにも知らんよ。
「んじゃ、会長さんの顔の広さはどのくらいよ? 帝国――帝都にも広まってるかい?」
浮遊石があることからして帝国に伝はあるんだろうが、どう言う伝かまではわからねー。もし、あるなら貸してくれや。
「取引はしてるから名はある程度知られてはいるでしょうけど、親しい人はいなかったと思うわ」
そうなんか。それは残念。違う伝を探すか。
「帝国にいくの?」
「ああ。ちょっと用事があってな。夏にいこうかと計画してるよ」
まだいけたらイイな~、ぐらいの思いつき程度だが、まあ、いけるとは確信している。あとは、タイミングだな。
「もし、父が許してくれたのなら、わたしも連れてってくれないかしら? 帝都の文化を知っておきたいの。ダメ、かしら?」
「ん? 別に構わんよ。いくときは飛空船だし、一人二人増えたところで問題ねーしな」
一応、輸送船を二隻は連れていく。乗るところはいっぱいある。
「言っておいてなんだけど、大丈夫なの?」
「問題はねー。帝国の公爵さまが後ろに控えているし、ザニーノが一緒に来てくれるならいろいろ安心だ。商売のことは商売人に頼るのが一番だしな」
オレはなんちゃって商人。帝国の海千山千の商人に太刀打ちできるわけもねー。ついて来てくれんなら万々歳だ。
とまあ、そうこうしてたらバーザさんちに到着。したのだが、なにやら人がいっぱい。なんなの、これ?
バーザさんちの前で戸惑っていたら、中からバーザさんが出て来た。
「ヴィベルファクフィニーさん、いらっしゃい」
「おう、バーザさん。来客中かい?」
立て込んでるなら出直すが。
「はい。ですが、皆さん、ヴィベルファクフィニーさんのところで働きたいと言う方々です。勝手ながらわたしが独断で雇い入れました」
「そうかい。それは助かる。なら、全員を雇うよ」
そう返したらバーザさんがびっくり。ふふ。オレを驚かせようとしただろうが、そんなことで我は揺るがん。
って言うのはウソです。びっくりしました。バーザさん、マジ有能すぎだわ!
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