第556話 兄と妹
なんて明鏡止水(現実逃避)しててもしょうがねー。これをなんとかせんとな。
「リアムは、留守番か?」
「掃除をしてる」
天才の思考などわからんが、考えるな、感じろピューターを発動したらなんとなくわかる。
デンコたちには相手できないので、ここの掃除を任せたのだろう。こいつが他のガキんちょどもと同じ仕事ができると思わねーしな。
「そうか。なら、今日からリアムはオレの助手だ」
「怒られる。食事ができない」
「問題ない。いくぞ」
何手先の思考をするくせに、同じ何手先の答えを出すオレの思考はわからないようで、ちょっと眉をしかめる犬耳ガール。
それに構わず犬耳ガールの腕をつかみ、デンコたちがいる修道院兼孤児院へと向かった。
孤児院側にある小屋――アブリクト貿易連合の下部組織……って、名前なかったっけ。なんて呼んでんだ、こいつら?
「あ、兄貴。どうした――そう言えば、リアムのこと忘れてだや!」
デンコの中ではリアムはそれぐらいの存在でしかなかったよーだ。まあ、犬耳ガールのことは……なんだっけ、あの元貴族の子の名前? いやまあ、そいつの担当なんだろうよ。
「リアムは、孤児なのか?」
「ああ、外のスラムで死にかけてたのをタジェラが拾ってきたんだが、まったく使い物にならんだや。なんで、倉庫の掃除をやらしてるだよ」
オレの考えるな、感じろピューターマジ高性能。
「なら、オレが連れていっても問題ねーな?」
「え、ああ、大丈夫だがや、どうするだ? そいつ、まともに話せねーだが」
デンコも天才だが、必ずしも天才が天才を理解できるとは限らねー。ましてや方向性の違う二人だ、わかり合えるなんてことらできねーだろうよ。
「問題ねーとは言えねーが、まあ、なんとかなるよ。働かねーと食えねーことを理解してる。なら、働かせるだけだ」
まあ、天才にもできるできないはあるが、これだけ頭の回転が速いのなら薬師としてやってけるだろうし、いろいろやらせて、できることをやってもらう。
天才は扱いが難しいが、鉄は熱いうちに叩けの要領で、まだ心が柔らかいうちにしつければ、なんとかなる……はず。まあ、なるようになるだ。
「…………」
なにやらデンコが眉をしかめてる。なんだい、いったい?
「オラ、兄貴の弟分だ。違うかや?」
「え、あ、ああ。そうだが……」
袂を分かち自分の道を進んだとは言え、デンコはオレの弟分だ、が、それがなんなんだ?
「じゃあ、リアムはオラの妹分だや!」
「あ、うん、そーなる、な」
ん? なんのか? どーなんだ?
ま、まあ、よーわからんが、これと言った否定もないんで、それでイイとしよう。
「それならいいだや!」
なにやら大満足なご様子。なんなの、いったい?
「ま、まあ、そう言うわけだから、他のヤツらにも伝えててくれや」
「わかっただ!」
んじゃなと修道院をあとにした。
「どこへ?」
「会長さんのところだ」
「会長さん? 誰?」
「バーボンド・バジバドルだ」
「…………」
なにかイラっとした気配を感じるが、それを言葉にできないようで、ただオレを睨むだけだった。
「リアム。お前の中では筋道が通ってるんだろうし、当たり前なんだろうが、誰も彼も他人を理解できると思うなよ。現に、お前はオレを理解してねー。それはなんでだ? なぜオレを理解できねー? 答えは簡単だ。言葉が足りねーからだ」
なんて言ったところで理解はできまい。理解しようとしねーんだからよ。
「お前の頭の中では大量の言葉で溢れているんだろうが、それを口にするとき、爪先ほどにも出してねー。それでは他人は理解できんし、お前だってオレの爪先ほどの言葉だけでオレの頭の中にある大量の言葉を理解することはできねーだろう」
それがわかったたらエスパーだわ。
「そこで、わからないと放棄――考えるのを止めたらお前は一生独りぼっちだ。いないのと同じだ」
つかむリアムの腕が固くなる。多分、それは孤独を知っている故に恐怖となって表れたんだろう。なら、大丈夫。即ちそれは、人の心を持っているってことだ。
「一人は、嫌か?」
「……嫌……」
「なら、オレがお前の家族になってやる」
「家族?」
言葉は知っていても家族がなんなのかは理解できないんだろう。純粋にわからないようで、キョトンとしていた。
「まあ、そのうちわかってけばイイさ。まずは、家族になる第一歩。オレを兄さんと呼べ」
「兄さん?」
「そうだ。オレが兄。リアムが妹。つまり、兄弟だ」
「……あなた兄さん。わたし妹。兄弟。わかった……」
リアムの中でどんな思考が駆け巡ったかはわからんが、その笑顔だけで充分。今このときからオレたちは兄弟だ。
「兄さん」
「なんだ妹よ?」
「わたし妹。あなた兄さん。嬉しい」
「そうか。オレも嬉しいよ」
兄として認識してくれたことにな。
「……なにか、ゲスい波動を感じる……」
ハイ、ゲロ子ちゃん。変な電波を受信しないで静かに死んでようね~。
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