第552話 予言
まず、いろいろ明言を避けなければならない羽根を使って
久しぶり、でもねーが、やっぱ人が住むと家が生きてるって感じになるな……。
「あら、ベーじゃない。来てたの」
村を出てそんなに日は経ってねーのに、すっかり街の娘になってしまったサリバリが現れた。
「おう。今着いた。買い物か?」
オシャレな篭を持ち、買い物してきただろう野菜やパンが見えた。近所に商店街なんてあったんだ。
「ええ。トアラが外食を許してくれないのよ」
まあ、サリバリと違ってトアラは
「あたしは、お隣で食べたいのに」
「トアラの料理、旨いじゃねーか。つーか、隣、そんなに旨かったか?」
不味くはねーが、サプルの味を知ってる者なら通いたいとは思わねーだろう。あの味ならトアラの方が勝ってるぞ。
「あたしは、オシャレなところで食べたいの!」
まったく、オシャレ優先とか、相変わらずブレねーヤツだ。
「そうかい。まあ、そうしたいのならそうすればイイさ。別に強制されてここに来てんじゃねーんだからよ」
もう働いている身だ、自分の金で好きなことをしろだ。
「そうしたいけど、一人じゃ入り辛いもん……」
しょせん、寂しん坊で田舎娘。まだまだ王都はハードルが高いか。
「なら、今日の夕食はオレが奢ってやるよ。コーリンたちに頼みたいこともあるしな。コーリンたちは中か?」
「うん。新作を作ってるわ」
「んじゃ、一段落したら隣にこいって伝えてくれ。オレは先にいってるからよ」
「わかった! 急いで連れて来るわ!」
と、
肩を竦め、グレン婆の心地よい一時へと入った。
「いらっしゃいませ~。って、ベーじゃない。よく来たわね。どうぞ」
この人外さん、なにやってんだろうと頭を過ったが、人外それぞれ。他人の人生に口出すな、だ。
夕方間近なのに、客足は上々のようで、空いているカウンター席に通された。
「繁盛してんだな」
オシャレだとは思うが、ここはなにを売りにしてんだ?
「ふふ。ここは、郷愁を売りにしてるからね」
郷愁? なんかよーわからんが、グレン婆の店に不思議なし。いや、不思議ばかりか? まあ、突っ込みはノーサンキューってことだ。
「グレン婆は?」
「珍しく外出してるわ。まあ、どこにいってるかわからないけどね」
「……そうかい。それは残念だ……」
まあ、そんな日もあるか。あれは、風来坊なところがあったからな。
「なら、居候さんにやるよ」
収納鞄から焼き芋を取り出し、居候さんに渡した。
「芋? あ、でも甘い香りがする」
「ちょっとした伝で手に入れた甘い芋さ。たぶん、好き――」
「――美味しいっ!」
あ、うん。まあ、それはなにより。ところで、コーヒーいただけません? あ、今は無理ですか。ハイ、セルフですね。あーコーヒーうめーです。
ちなみに、プリッつあんもセルフで紅茶を飲んでます。猫型ドレミはオレの膝の上で丸くなってます。
オレ、なんの店に来たんだと、自問自答しながらコーヒーを飲んでいると、コーリンたちがやって来た。
「ベー様、お待たせしました」
なにやら覇気はあるが、顔色はよくなかった。大丈夫なん?
「ワリーな、忙しいのに呼び出してよ」
「いいえ。休憩しようと思ってましたのでお気になさらず」
まあ、サリバリが急かしたんだろうが、こーゆータイプは強制休憩させないとしないタイプだからな、サリバリよくやっただ。
「居候さん。なんか適当に頼むわ」
「はい。少々お待ちください」
両手に焼き芋を持って厨房へと下がり、すぐに料理を運んで来た。はえーな!?
「グレンが出かける前に作っていったからね」
……画期的なのか、やる気がねーのかわからんな、この店……。
「なんでもイイよ。夕食にしようぜ」
素朴なパンとオシャレに盛りつけられたなんかのステーキになんかのドレッシングがかかったサラダ。これがオシャレなんか?
ま、美意識なんて人それぞれ。オシャレと思うヤツにはオシャレに見えんだろう。どーでもイイわ。
軽いおしゃべりをしながらの夕食が終わり、場所を
「ドレミ。お茶頼むわ」
「畏まりました」
猫型からメイド型に変身し、厨房へと消えていった。
そんなドレミから居間全体へと目を向けた。
なんつーか、なんとも華やかになってんな。まあ、これだけオシャレガールが揃ってんだから不思議じゃねーが、調える時間なんてよくあったな。仕事、忙しいんじゃねーの?
「さすがに人手が足りないので通いの針子を雇いました」
そんな質問したらそんな答えが返ってきた。
「針子って、そう簡単に雇えるものなのか?」
よく知らんが、どっかに属してるもんじゃねーのか?
「いいえ、仕立て屋ごとの兼ね合いがありますから直ぐにとはいきませんし、誰でもともいきません。今回は裏技で針子見習いの子を集めました」
「裏技とか、よく知ってたな」
それがどんな裏技かは知らんが、伯爵令嬢が知ってるとか、それってどーなのよ。
「小さい頃から針子部屋に忍び込んでましたから」
まさに筋金入りってか。スゲー執念だよ。
「それで、今日はどうかしましたか?」
「あ、ああ、そうだったな。オレもゆっくりしてられねぇんだったわ。単刀直入に言うと、社交界に出れる服を何着か作ってくれや。あと、サプルのも」
「はぁ? 社交界? なんなのよそれ?」
真っ先にサリバリが食いついてきた。
「今度、帝国に行くんでな、その下準備さ。あ、サイズはトアラが知ってるからよ。トアラ、頼むな」
「……わかった」
なぜか頭を押さえながら頷くトアラさん。どったの?
「夏頃に予定してるからそれまで頼むわ」
「わかりました。夏まで仕上げておきます。意匠のご注文はありますか?」
「特にはねーが、帝国のヤツらに見せびらかすんでよ」
その言葉にコーリンの目に炎が宿った。
「わかりました。わたくしの全霊をかけて挑ましてもらいます!」
「ちょ、コーリンさま!?」
「コーリンさま、さすがに死んじゃいますよ!」
慌てるサリバリとトアラ。あれ? 想像以上に修羅ってました?
「え、えーと。お邪魔しました!」
逃げること風の如しでアデューでーす!
そそくさと
「……ベーの命も夏までね……」
そんな予言、ノーサンキュー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます