第449話 ウサギとカメ

 湖からちょっといった先に、開けた場所がある。


 ここは以前、湖畔に小屋を造ったときに木を伐った場所で、近くには綺麗な小川が流れている。


 秘境に近い山の中だが、開けた場所で水があるところはここぐらい。まあ、開拓すれば他にもあるだろうが、すぐに住むならここしかない。


 それに、ジオフロント計画を進めて行くと、ちょうどこの辺りがダルマっちゃん――ノーム族が住む場所がこの辺りになるのだ。


「まずは、ここをダルマっちゃんらの拠点とする」


 ルンタの頭の上で、そうノーム族の先遣隊に告げた。


「……きょ、拠点とは、どう言うことでしょうか……?」


 ダルマっちゃんの脚の陰から顔を出したリテンちゃん。いるのは知ってたけど、ここに来るまでチラリとも見てねーんだが、リテンちゃんは、ダルマっちゃんの脚の裏の住人なのか?


「以前に言ったジオフロント計画、あれを完成させるには何十年何百年とかかるだろう。提案したオレですら完成図は見えてねー。そんな年月がかかるものは必ず計画はズレるし、変わりもする。ノーム族の寿命なんて知らねーが、二世代三世代とかかわってくるはずだ。そうなれば、ノーム族の人口も増え、集落から村へ町へ、そして都市へと変わっていくだろう。そうなることが見えてるなら最初から計画に組み込み、そうなってもイイ場所に拠点をつくるんだよ」


 それに、だ。他種族が仲良くなんて暮らせるとは思ってねー。必ずいさかいは起こるだろう。


 まあ、それはそこに住む者のが解決すること。オレの領分じゃねー。が、提案者としてそれでは無責任。いきなり他種族同士を一緒くたにするんじゃなく、各種族の区をつくることにした。


 それはそれで問題もあるんだが、『みんな仲良く』なんて幻想でしかねー。もし、それが叶うなんてことが起こるとしたら、それは千年単位での未来のことだろう。


「ここは、ノーム区。あんたらが住むところだ。だが、無尽蔵に区を拡げることは認めねー。なぜなら土地は有限であり、ノーム族だけを優遇できねーからだ」


 人の法では、ここはアーベリアン王国内であり、拡大すればカムラ王国にも食い込む。


 うちの国はまだイイ。裏には人外ズがいて、仲良くしてれば認めてくれるだろうし、協力もしてくるだろう。だが、カムラ王国の方はなんとも言えねー。


 うちの国と同じく国境線近くは秘境であり、人はあまり住んでねー。数年の間なら問題はねーだろう。


「はっきり言ってこれは侵略だ。この国や隣の国から土地を奪い、主権を得るためにやっている」


 別に隠す気もねーし、飾ろうとも思わねー。地下に創っているとは言え、これは間違いなく侵略行為だ。誰が断言しなくてもオレが断言する。


「これは侵略だ。バレたら戦争になってもおかしくねーことを、オレたちはしている」


 オレの言葉に、ノーム族らが顔を強張らせていた。


「が、バレなきゃ侵略じゃねー。ってことで、力をつけるまでは大人しく、自重して生きろってことを胸に置いて生きてください」


 まあ、今の段階で気が付かれようが、それほど問題はねーが、敵は少ない方がイイ。出る杭は打たれるじゃねーが、要注意国の帝国と宗教国家たる聖王国にはなるべくバレたくねー。あそこは人類至上主義。相手するとなるとスゲーメンドクセーことになるからな。


「そんじゃ、あんたらの拠点を造るぞー!」


 ルンタの頭の上から飛び下り……はできないのてスル~と体を滑って大地に下りました。


「ダルマっちゃんらって、土魔法はどんくらい使えんだ? ちなみに、オレはこのくらいなら余裕だ」


 大地を足で叩き、ドワーフのおっちゃんちくらいの家を創り出した。


「…………」


 なにやらノームさんたちが額に汗を浮かび上がらせて沈黙してる。どったの?


「不思議な技と言い、土魔法と言い、ベーの非常識――いや、理不尽には頭がいたいさね……」


 なにやらキャラ復活したご隠居さんが呆れていた。


「理不尽って、オレの土魔法は努力の結晶だ。オレの努力を否定すんじゃねー」


 確かに土魔法の才能を願った。他よりもズルをしている。だが、才能は鍛えてこそ花開く。才能に溺れたヤツはそれまで。努力し、その先にあるものをつかんだからこその今の力だ。


「種よ、生きてる限りその先にいけ。停滞は種の滅び。そんな種に未来なんかねー、だ」


 まあ、生きるも死ぬもそれぞれの勝手。強制はしねーよ。


「オレはゆっくりまったり生きてるが、歩みを止めたときはねー。未来を得るために今日を生きてるぜ」


 オレはアリとキリギリスで言えばアリだ。だが、ウサギとカメならカメだ。自分のスピードで未来ゴールを目指すさ。


「それがオレのスローライフ道だ」

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