第385話 一日にしてならず

 さて。自由に生きているマイブラザーは、自由にさせておくとして、オレは仕事の続きをしますかね。


 中断していた荷車作りを再開する。


 エリナのところと港を繋ぐ回廊を造るとか、港改造とかあるんだが、しばらく村人稼業(突っ込みはノーサンキューね)を休んでいたので、まずは村人稼業を優先させてるのだ。


 まあ、木を伐るのや集落に運ぶのがメインで二日で終わったが、村の連中に働いている姿を見せるのも村で生きるために必要なこと。妬み嫉みはなるべく回避するのがド田舎での暮らしを安らかにするのだよ。


 なんて理由もあるが、そろそろバリアルの街に人材を回収しにいかんとならない。


 最初は、カラエルたちに依頼して連れてきてもらう考えをしていたんだが、タケルの教育があまり芳しくないとのカーチェの声に、なら、地上訓練──少し旅をさせて精神を鍛えることにしたのだ。


 となると旅慣れたカーチェは除外しなくちゃなんねー。いる、と言うだけで安心感を与えっちまう。苦労させ、疲弊させるためにやらせるんだからな。


 だからってタケル一人でいかせるなんて無謀どころか愚行もイイとこ。野たれ死に決定だ。そうなると、やはり引率者は必要だ。


 旅ができて、ある程度素人を引率できる者。もはや考えるまでもなくフェリエしかいねー。


 冒険者として生きてるフェリエだから、依頼したら喜んで引き受けてくれることだろう。そう思って聞いたら二つ返事で承諾してくれた。


 とは言えだ。やはりフェリエとタケルの二人では不安が残る。


 いや、フェリエの実力やタケルの装備に不安はねーよ。サプルやトータのように超天才ではねーが、それなりには天才だし、戦闘の経験はある。山賊の五人や十人余裕だろう。オーガ一匹だったら問題なく勝てるしな。


 タケルの装備はもう反則の域。無人偵察機を飛ばし、奇襲される前に返り討ちにできる武装を身に纏っている。潜水艦の援護もあるので軍隊相手だって超余裕で勝利するからな。


 問題は、お互いをよく知らねーってことだ。


 旅を通じてお互いを理解していく、なんて青春ドラマみたいなこと、弱肉強食な世界では悲劇でしかねーよ。絶対にバッドエンドだわ。


 パーティーは一日にしてならず。


 バンやシバダたちのように、小さい頃から一緒に過ごし、お互いを理解し合い、連携を築き上げてきた者が冒険者として大成し、生き残れるのだ。


 まあ、旅を通じてお互いを理解していく者たちがいねーことはねーよ。ザンバリーのおっちゃんらがそれだからな。だが、それはザンバリーのおっちゃんのリーダーシップがあったから。その力と行動で仲間たちから信頼を勝ち取ったのだ。ただ、集まっただけのパーティーには逆立ちしたって無理だわ。


 フェリエにもタケルにも光るものはある。このまま経験を積んでいけば、優れたリーダーになることだろう。だが、それは遥か未来。今ではねー。どちらもまだ青臭いガキでしかねー。


 なら、どうする? ってことをカーチェと話し合い、結果、オレが同行することになった。


 なんでやねん! とか突っ込まれそうだが、お互いの共通点がオレであり、緩衝材としてオレが一番適任なんだよ。


 今、村人稼業がどうこう言ってたやん! とかも突っ込まれそうだが、バリアルの街によく行ってることは村の連中は知ってるし、今回は馬での移動であり、それほど日程はかからないからだ。


 徒歩だったら七日はかかるだろうが、エリナが生んだ馬なら一日六十キロは余裕だし、山賊や魔物が出てもフェリエとタケルの二人なら瞬殺だろう。


 それでタケルの訓練になるのか? って首を傾げるヤツもいるだろうが、訓練も一日にしてならず、だ。


 今回は、旅がどんなものかを教え、苦労と苦節を経験させるのが主な目的なのだ。


 と、言ったものの、いくのはまだ先。人材を連れてくる荷車を造り出したのが今日であり、タケルが乗馬できるまでは出発はできねー。


「うひゃー!」


 今日何度目かの悲鳴があがり、ドサッと言う鈍い音がオレの耳に届いた。


 手を止めて放牧地に目を向ければ、変な格好で倒れているタケルが見えた。


「やれやれ。一向に上手くならんな」


 今日何度目かの落馬にため肩を竦める。


 三つの願いを潜水艦関係に注ぎ込んだから、タケルの身体能力は前世のまま。なので、ファンタジーな体になることは望まないが、せめて乗馬しても大丈夫な体になって欲しいもんだ。


 違う方向に目を向ければ、フェリエの方も乗馬に苦戦している。まあ、運動神経はタケルより上なので、そこそこ乗れるようになったが、まだ馬に乗せてもらってるレベル。まだまだ旅をできる腕ではねーな。


 フェリエには御者も任せるので、旅に出るのは早くても半月後、くらいかな?


 けどまあ、そんな急ぐ人生でもねーしな。無理しない程度にガンバレだ。


 オレの時間は村人時間。緩やかに流れる時間を感じるのもまた楽しい、だ。

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