第371話 波瀾万丈

「アハハ。魔王ジョークだよ」


「それこそ知らねーよ!」


 なにアメリカンジョークみてーに言ってんだ! 意味わからんわ!


 睨むオレに、悪戯小僧のような目を向けてくるカイナ。


「……まったく、なにがしたかったんだよ、お前は……?」


 ジロっと、カイナを睨む。


「あ、わかっちゃった?」


 しれっと悪びれもせず、愉快そうに笑みを浮かべた。


「オレのスルー力レベル四十五を突破させるとか、なんかあるとしか思えねーよ」


 ましてや魔族の近況とか聞かされたら、嫌でも関係あるとわかるわ!


「うん。さすがにあれでスルーされたらベーとの付き合い、止めようかと思ったよ。オレの突っ込みレベルでは相手できないもん。と言うか、レベル四十五って、どんだけなのさ! おれでさえレベル三十くらいなのに」


「意外と低いんだな。魔王な体持ってるクセに」


 オレより長くこの世界にいんのに、随分と平和に暮らしてたんだな。


「いや、どう言うわけか、おれってトラブルに嫌われてるんだよね。銃とか戦車とかひろめてるのに、これと言った厄介事に見舞われない。十五年ここにいて、やっと回ってきた厄介事がこれさ」


 と、鬼巌城を見た。


「そんな厄介事、オレんとこにくる前に解決しろよな……」


「おれとしては、ベーと会えたことが神のお導きって感じだよ」


 魔王が神のお導きって、それも魔王ジョークかよ?


「だったら魔界にいって天下統一してこいよ。お前の力があったら直ぐだろうが」


「おれ、内政とかキライだし。と言うか、おれの頭じゃ無理。おれ、そんな頭良くないし、纏める才能ないしね。あ、だからって丸投げはしないよ。あいつら、もうおれの家族だしね」


 ったく。そーゆー言われ方されたらほっとくわけにいかなくなったじゃねーかよ……。


「まったく、次から次と厄介事が増えて行くな、畜生が」


 エリナのとこさえ、まだちょっとしか手をつけてねーのによ。


「ベー、頼む」


 頭を下げるカイナの腹に一発、食らわしてやる。


「なんとかするとも任せろとも言えねーが、家族の問題ならとことん付き合ってやるよ」


 我ながら厄介な性格だが、これが今生のオレなんだからしょうがねーだ。


「まあ、その話はあとだ。まずは客を迎えてくれや。あ、そー言や、王弟さんらはどーしたん?」


 王弟さんらの馬車は、そこにあるようだが。


 つーか、鬼人族が馬小屋の世話をしてるとか、魔界の生活ってどーなってんだ? そこら辺知らねーと、それこそ異種族間戦争が起こるぞ。


「あの人たちなら温泉で汗を流してもらってるよ。あそこに露天風呂造ったからさ」


「温泉? 掘り当てたのか? ここら辺、温泉出ねーと思ってたんだがな」


「シュードゥ族がいるからね」


「シュードゥ族?」


 初めて聞く種族だな。


「まあ、ドワーフ種の派生と言うか、先祖別れしたと言うか、土魔法に長けた種族さ。まあ、見た目的にはドワーフだから、そんなに違和感はないよ」


「へ~。世界は広いな」


 もう進化論とか、どーでもイイわ。いっぱいいる。それで納得することにしたよ。


「お、おい、ベー!」


 と、会長さんが叫ぶようにオレを呼んだ。どーした?


「いや、当然のように受け入れてるが、お前と違ってわしらは普通に生きてんだ、納得できるように説明しやがれ!」


「いや、オレも普通に生きてんだがな」


 なに失礼なこと言っちゃってんの、この人は?


「オメーの普通をわしらの普通と一緒にしてんじゃねー! そこにはガエラ大山脈より高い隔たりがあるわ!」


 あいにくとガエラ大山脈を知らねーんで、いまいち会長さんの突っ込みに乗りきれなかった。ごめんよ。


「そこは自分の目で見て納得してくれ。オレもまだ自分を納得しきれてねーからよ」


 なんかレベルアップしたような気がするが、まだスルー力を働かせてないと、この目に映るもの全てに突っ込み入れそうで、真っ白に燃え尽きそうだわ。


「お前、無責任にもほどがあるぞ!」


 ったく。しゃーねーな。このあと、まだやることあんのによ。


「まあ、普通の人には受け入れ難いことだからね、もうちょっといてあげなよ。パーラ、頼むよ」


 と、左右にいならぶメイドさんズから、鬼人族のメイドさんが一歩前に出た。


「どうぞこちらに」


 なかなか教育がいき届いているよーで、立ち振舞いが様になっていた。


 鬼のねーちゃんの案内で鬼巌城へと入った。


 どんなもんかと思ったが、意外とフツーで、よくある……かどうかはわからんが、それほど奇抜な造りにはなってなかった。


 いやまあ、内装、和風ってなんだよとか突っ込みてーが、レベルアップしたオレにはなんとか堪えられるものだった。


「あ、そー言や、ここの代金ってどうなってんだ?」


 ふっと思い、横を歩くオーナー(?)に尋ねた。


「今回はタダで良いよ。今日は、ベーたちに知ってもらうためのプレゼンテーションだからね」


「……いつから考えてたんだ……?」


 鬼のねーちゃんや他のメイドさんズの動きからして、相当前からやってねーと出せる動きじゃねーぞ。


「皆の自立を考えてホテルをやるのは前から考えてたんだけど、どこでやるかまでは考えてなかったんだよね。アハハ」


 ったく。先が見えるんだか適当なんだかわからんヤツだな、お前はよ……。


「で、一泊幾らなんだ? あんまり高いと誰もこねーぞ」


 宿屋の宿泊料金は、だいたい銅貨五枚から七枚で、冒険者価格だ。羽振りのイイ商人や貴族ともなれば銀貨二枚くらいの高級宿屋になるが、この設備から言って、最低でも銀貨六枚はいくだろうよ。


「大丈夫だよ。一階二階は一般宿泊者用として安くしてあるし、四階五階はリゾートマンションとして人外さん買ってもらったからさ」


 ニッと、笑うカイナに、オレはため息で応えた。


「……魔王からホテル王にとか、お前の人生、波瀾万丈だな……」

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