第362話 商売のことは商人に任せる

 さて、やってきました会長さんち。今日も今日とて繁盛してまんな。


「おはようございやす!」


 オレに気が付いたおっちゃんが、仕事の手を止めて挨拶してきた。


 それに気がついた周りの者も仕事の手を止めて挨拶する。もう、勝手にしてくださいだ。


 昨日と同じく、誰かが会長さんを呼びに走ったのか、すぐに会長さんが現れた。


「ベー! お前、いったいなにをやらかしたんだ!」


 開口一番の問いに、オレは首を傾げた。どれのことだ?


「あー、ワリー。あり過ぎてどれのことを言ってんだかわからんのだが?」


 タオラの国に内緒で輸出してる浮遊石は、まだバレてねーはずだし、禁制されてるザロの実の栽培もバレてねーはずだ。あ、家畜にしようとした短足竜(まあ、ワニだな)がバレたか?


「……お前は、どれだけ好き勝手に生きてんだよ……」


「後悔しない程度には、かな?」


 お陰様で、後悔のない毎日を送っております。


「やかましいわ!」


 気に入らなかったようで、怒鳴られた。


「ワリー。会長さんの突っ込みに応えられなくて……」


 やっぱ、オレにはボケの才能がないんだな、ちょっとショックだわ。


「違うわ! ボケたことに突っ込んでんじゃねーよ!」


 お、ボケだったことには気が付いてんだ、会長さんやる~。


「……ったく、お前はビクともしねーよな……」


 あん? なんのことだ?


「ベー。父はこれでも叩き上げの商人。並の冒険者より死線を潜り抜けてきた強者つわものよ。その怒声には大の男でも肝を冷やすわ」


 と、どこからか現れたザニーノが説明してくれた。


「あー、そー言うことね。なにかと思ったわ。あ、うんうん、怖い怖い?」


「なんで疑問になってんだよ。ったく、怒ってるこっちが、バカみてーだよ……」


「えーと、ドンマイ?」


「だからなんで疑問になってんだよ! あと、ドンマイがなんなのか知らねーが、ムカつくから止めろ!」


 やれやれ。困ったじーさまだ。


「……くっ、落ち着け、わし! これがベーだろうが、わかっていたではないか……」


 なにやら己との戦いを始めた会長さん。ガンバレ。


「で、なんなんだい?」


 ザニーノさん、説明ぷりーず。


「わたしもよくわからないの。でも、昨日、城に呼ばれてからこうなのよ」


「ふ~ん。大変だな、国と関係を持つ商人ってのも」


 オレには一生どころか、三回くらい転生してもやりたくねーな、そんな人生なんてよ。


「お前も充分、国に関わってるからな。一国の大魔導師に知られる村人ってなんだよ。いったいなにしたんだ?」


「なにって、たんに文句を言ったまでだが?」


 と言ったら項垂れてしまう会長さん。どうしただぁ?


「……大魔導師様に、文句とか、頭痛てーよ……」


「オレは言いてーことは誰であろうと言う主義だ」


 まあ、言いたくねーなら言わない主義でもあるがな。


「それより、食糧のほうはどうなった?」


 もちろん、ザニーノさんに聞いてます。


「揃ってはいるわ。今日も持っていくの?」


「ああ。今日が約束の日なんでな」


 さすが会長さん。仕事が早くて助かるわ。マジ、感謝。


「それと、会長さんよ。時間が取れるなら、オレと一緒にきてくんねーかな? 可能であれば、二泊できるくらいよ」


 そんなオレの問いに、商人としての会長さんが復活。マジな顔を見せた。


「わかった。一緒にいくよ」


 大商人ともなれば毎日忙しいだろうに、それを即決すると言うことは薄々わかっていて、用意をしてたのだろう。ほんと、商人はコエーわ。


「同行者がいても大丈夫か?」


「構わんよ。商売のことは商人に任せる。必要と思う人数を連れてけばイイさ。歓迎するよ」


 マルッとサクッとお渡しするんだ、そのくらいせんとバチが当たるわ。


「ザニーノ。呼んで来てくれ」


 と、会長さんの指示でザニーノが消え、しばらくして厳ついおっさんと、前にうちにきたあんちゃん(ごめんなさい。名前忘れました)、そして、荷物を抱えたザニーノが戻ってきた。


「どうせ、お前に自己紹介しても忘れるから、顔だけ覚えてろ」


 了解であります。


「ほんじゃ、いくか。あ、倉庫にいったあとによるとこあるんだが、歩きでも大丈夫か?」


「構わんよ。そんな軟弱にできてないからな」


 他のヤツにも目で問うと、大丈夫とばかりに頷いた。 


「んじゃ、いきますか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る