第351話 じゃーな
「まったく、お前さんは肝の太さまで非常識さね」
「いくらわたしたちを知っているからと言ってこの国の大魔術師に啖呵を切るなんて呆れ果てますね」
「お前に恐怖ってもんはないのか?」
そんな人外ズの呆れに肩を竦めて見せた。
「そりゃあるさ。女のあれやこれ、何度股間がキュッとしたことか。思い出すだけで死ねるな」
あれは軽く人を殺せる力がある。アレの前では絶望すらカワイイものだわ。
……あ、なんか思い出したら股間がキュッとしてきた……。
「ダッハハハハ!」
「ブハハハ!」
「た、確かに、あれは怖いですね」
「まったくさね」
「ご、ごめんよ、サリーヌ! もう浮気はしないよ!」
若干一名、トラウマを開かせてしまったが、ここはそっとしておいてやるのが同じ男としての優しさ。強く生きてくれと心から願うよ。
「まあ、これがベーか」
「だな。これがベーだ」
ナイスミドルのナッシュと吸血鬼のマイノが納得顔。なにがだよ? 意味わからん納得すな!
「ほんと、ベーはおもしろいよね」
茶碗に酒を注ぐカイナが、本当におもしろそうな顔をしていた。
「どうだい、人外さんたち。この出会い乾杯しない? やっぱ飲むなら相手が欲しいしさ、ベーの話で盛り上がろうよ。ベーにはまだやることあるみたいだしね……」
その視線の先には地面にしゃがみ込む勇者ちゃんがいた。
「ヒッ!」
カイナの視線に気がついた勇者ちゃんが恐怖の悲鳴を上げた。
「おっ、おれの魔力がわかるんだ。さすが勇者ちゃん。だがまあ、まだまだ人外の域に入るのは弱いね。せめてベーのように平然と笑顔を見せれるくらいにならないとね」
「おいおい、そりゃおれたちでもビビるわ。つーか、なんでおれは平気で突っ込んでんだ?」
「あー確かに。今でもその魔力は感じるのに嫌な感じがないですね」
「慣れたんでしょうかね?」
「この魔力を前に慣れるとか……慣れたのか?」
なに言ってんだ、人外ズは?
「それはベーが間にいるからさ。もし、ベーと会う前に皆と会ってたら軽くどころかもう最終戦争になって、この大陸全土が荒野となってただろうね」
まったく、これだから人外ズは参るぜ。
「いや、他人事に肩を竦めているけど、ベーもこちら側に入ってるから。と言うか、ベーの技が一番荒野にするからね。なんなの耕され具合は? なに植えるのさ?」
「イモ?」
「知らないよ!」
ナイス突っ込みカイナさん。マジしびれる。
「アハハ! 確かにベーがいてこそだな!」
「まったく。魔神のような相手に突っ込ませるとか、ベーしかいませんね」
「ほんと、ベーは非常識だわ」
非常識に賛同する人外ども。テメーらの存在が非常識だろうがよ!
「さて。一杯、付き合ってくれる?」
茶碗を掲げ、男前に笑って見せるカイナに、人外どもも男前な笑みを浮かべた。
「もちろんさね」
「じゃあ、港の……あれ? あの店、名前なんて言ったかな?」
「大丈夫じゃよ。あそこは馴染みの店さね」
と、カイナがなんとも慈愛に満ちた目を見せると、オレの頭に手を置いた。
「じゃあ、明日ね」
と言うと消えてしまった。
「今度はもっと穏便に、は無理か。ベーだしな。またな」
と、獅子の獣人、アーガルがオレの頭に手を乗せ消えてしまった。
「いつでも遊びにきてくださいね」
と、ナイスミドル、ナッシュもオレの頭に手を乗せて消えた。
「悪いな、うちのものが悪さして。よく言っとくよ」
ピンク髪の王族、ガーもそれに続く。
「また釣りしようぜ」
「今度、我が家にも遊びに来てください」
吸血鬼のマイノが左肩を。竜人族のバックスは右の肩を叩いて消えたしまった。
……まったく、人外なのに人間臭い連中だよ……。
王都の方向に向けて肩を竦めて見せた。
「さてと」
その声に勇者ちゃんの肩がびくんと跳ねた。
すっかり怯えられっちまったが、オレの選択して出た結果。しゃーねーさ。
勇者ちゃんへと近付き、その前にしゃがんだ。
「どうだい、勇者ちゃん。自分より強い相手を前にして? 怖かっただろう? 泣きたくなったろう? だが、勇者ちゃんには逃げることは許されない。泣くことも許されない。あんな理不尽の前に立たなくちゃならないんだ。その力を振るわなくちゃならないんだ。誰よりも勇気を示さなくちゃならないんだ」
勇者は強いから勇者なんじゃない。ここぞと言うときに勇気を示せる者が勇者なんだ。
「誰よりも剣が強くても誰よりも魔術に優れていても勇者ちゃんは人だ。弱い心を持った、ちっぽけな人だ。だが、それが悪いとは言わねー。それが人としての証。人でいるための戒め。強くなるために必要なものだからな。なあ、勇者ちゃん。勇者ちゃんは生きてて楽しいか? 生きてて嬉しいか? 生きてて辛いか? 生きてて悲しいか? 笑ったり泣いたりしてるか? 怒ったり怒られたり、その感情を見せる相手がいるか? ありがとうと言えるか? ありがとうと言ってもらえたか? ごめんなさいと言えるか? その手に温もりを感じたか? 大好きと言えるか? 大好きって言ってもらえるか? 押さえ切れないほどの生を感じたことがあるか? なあ、勇者ちゃん。勇者ちゃんは、自分が好きか?」
まっすぐ、勇者ちゃんに問う。
「オレは全てのことに答えられるぞ。イイ人生だと胸を張って言える!」
もう自分にも他人にもウソをつきたくねー。生きることに無関心になりたくねー。もう、あんなクソみたいな生き方など二度としたくねーわ。
「立派に生きろとは言わねー。ああしろ、こうしろとも言わねー。勇者ちゃんの人生は勇者ちゃんのものだ。誰かに決められてもいけねーし、決めさせるのもいけねー。テメーの人生はテメーで決めろ。だがもし、人生つまんねーとか、生きるのがイヤとか言って見ろ。人外百人連れて遊びに押しかけてやる。一生忘れられない思い出を刻んでやる。オレは友達と遊ぶのに容赦はしねー主義なんでな」
金色夜叉を勇者ちゃんに渡した。
「オレの宝物だ。やるよ。あと、これはマリーさんに」
収納鞄からイチゴジャムを出してドラム瓶にした。
俯く勇者ちゃんの頭をわしゃわしゃしてやる。
「じゃーな」
昔(前世)も今も友達にはさようならは使わない。また会えるとことを願い、この繋がりを切らないためにな……。
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