第350話 覚悟

「よし、今度は交代してやるか?」


「うん! 絶対、阻止してやるんだから!」


 金色夜叉を渡して位置を交換してピッチャーオレ。バッター勇者ちゃんで再開した。ただし、さりげなく投げる方向を王都に変えて、な。


 まずはストレートで様子見だと、七割の力で投球する。


 速度的には……わかんねー。力以外は一般人のオレに発射された弾丸を見ろと言われても見える訳ねーだろうが。


 まあ、それでも投球感覚は前世から引き継いでいるようで、球のいく先──まあ、コントロール出来るってこただ。


「えいっ!」


 まるで魔物を一刀両断するかのように、真横からくる鉄球を上段から振り下ろした。


 勇者ちゃんの一閃もオレには見えねーが、金色夜叉に纏ってある結界からかすった感覚は伝わってきた。


 ……野球センスはねーが、剣のセンスはあるようだ……。


「あーん! 惜しい~!」


「お、手加減したとは言え、オレの球を打つなんてやるじゃねーか」


「ムキー! 次は当てるもん!」


「アハハ! ガンバレ幼女。いくぞ!」


 力を八割にして投球する。


 力が一割増加しただけだが、球速は変わり、打つ者のタイミングも狂う──はずなんだが、勇者の身体能力はオレの想像を超えるようで、金色夜叉の芯をやや外れて打ち返した。


 だが、ピッチャーフライ。その場を動かずにキャッチした。


「やるじゃねーか。まさかアレを打たれるとはな」


 まあ、ただのストレート。打たれたところで悔しさはねー。まだ様子見だ。


「ふんだ! 村人さんの投げは見切ったもんね~!」


「ほう。それはスゲーな。なら、これはどうだい?」


 構えて鉄球を放つ。


 今度のはカーブ。しかも結界によるコントロール。打てるかな?


「えいっ!」


 掛け声とともに金色夜叉がカーブ球を捉えた──が、回転まで読んでないようで背後に打ち上げてしまった。


 勇者ちゃんの力で威力を殺された鉄球は直ぐに降下をし始めるが、地面に触れた瞬間、大地を消滅させた。


 十八ある殺戮技の一つ、消滅ボール。ゴミを捨てるのが面倒で、消滅できねーかなとやったらあら出来た。これ、武器に出来んじゃね? とやったら溜め池に丁度イイ穴が出来ました。


 それをちょっと改良し、ある一定の力が結界に掛かってから五秒後に結界を解除するように創ってあるのだ。


 あと、甲羅に穴を開けてしまった山亀(まさしく山のような巨大亀。A級の災害魔獣として認定されてます)さんにはゴメンちゃい☆


「……消えちゃったね……」


 茫然と呟く勇者ちゃん。


「ああ、消えたな。じゃあ、続けるぞ!」


 次もカーブを投球。ただし、七割の力だったので金色夜叉の芯に捉えた。


「おーホームランとはスゲーな! じゃあ、これはどうだ」


 構えると、勇者ちゃんが慌て始めた。


「い、いや、それ、危ないよ!?」


「大丈夫大丈夫。勇者ちゃんが打てばイイだけさ」


「外したら街が消えちゃうよ!?」


「それも大丈夫。勇者ちゃんがやったってことで許されるからね」


 構わず八割の力でフォークを投球するが、ちゃんと芯に当てる勇者ちゃん。マジスゲーな。


「だから危ないよ!」


 なんて勇者ちゃんの叫びなんて無視。体力が続く限り投球するまでだ!


 と、意気込んで投げたら鉄球が空中で停止してしまった。


 ……クソったれが。ようやくきやがったか……。


 にしてもオレの結界を止めるか。人外でもねーのにやるな、この長髪イケメン。


 格好から言って魔術師か。なかなか豪華なもん着てんじゃねーの。国税から出てたら一揆起こすぞ、こら。


「なんだい、楽しく遊んでんのに邪魔しやがって?」


 オレの文句に長髪イケメンがため息をついた。


「これが遊びですか? わたしには破壊行動に見えますが?」


 多分、この長髪イケメンは強いし、才能の塊なんだろう。感じる魔力もケタ外れだ。その威圧する眼力で並の魔術師はビビるだろう。だが、人外を何人(?)も見て、接していれば微風みたいなもの。ふ~んだ。


「勇者の遊びだ、このくらい普通だろう。ほれ、勇者ちゃんの投げた場所見てみなよ。イイ具合に耕されてるぜ」


 まあ、なにを植えるかは知らんけどな。


「それはあなたが唆したからでは?」


「やると決めたのは勇者ちゃんだ。オレが強制したわけじゃねーぜ」


 なにより強制するのはオレの主義主張に反する。死んでもそんなことやらねーよ。


「オレは自分の主義主張は貫くが、それを他人に求めたりはしねーし、それぞれの主義主張は重んじる。だから、オレを強制したことにどうこう言うつもりはねー。強制を許したオレが弱かった、ただそれだけのことだ。だが、その結果、状況はこうだ。お前が、いや、お前らがこう言う状況をつくったんだ、責任転嫁してんじゃねーぞ、コラ!」


 もし、オレが罪に問われると言うのなら、王都の近くで隕石を落としまくる勇者ちゃんは罪にはならねーのか? 


 それは勇者だからと不問にするのならこの状況も勇者ちゃんが起こしたこと。不問だろうが。


「この状況を王都のヤツらが見たらどう思うかな? あぁ、また勇者がやったのか。しょうがないね。だろうな。違うか?」


 そう思うだけの下地を勇者ちゃんがつくり、テメーらが許した。因果応報、自業自得。テメーらの責任だ!


「……あなたに責任を押しつけることも出来ますが?」


 そんな安い脅しに鼻で笑ってやった。


「やるならやれよ。オレは止めねーよ。だが、それをやった結果、どうなるかはお前の責任だからな。ちゃんと受け入れろよ」


 ああ。勇者ちゃんと遊ぶと決めたときからオレは覚悟しているし、どうなろうとも受け入れると決めているぞ。


 犯罪者にするなら家族共々外国に逃げるし、暴力でくるならそれ以上の暴力で対抗するまで。生きると決めたときからいろいろ備えてんだ、どんな脅しも暴力も怖くはねーんだよ!


「──そうさね。よく考えてから行動してくれ。でないと、居候どのが暴れることになるんでな」


 と、ご隠居さんが忽然と現れた。


「まったく、王宮のバカどもには参るぜ」


「ええ。よりにもよってベーに手を出すとは」


「仕方がありませんよ。ベーの非常識をわかれと言う方が非常識です」


「アハハ! そりゃもっともだ」


 ご隠居さんに続き、人外ズまで忽然と現れた。


「まったく、ベーの周りはおもしろい人? ばかりだよね。この出会いを仕掛けた者に大感謝だね」


 さらにカイナまで現れた。左手に一升瓶。右手に茶碗を持って。


 人外ズに睨まれ、顔面蒼白な長髪イケメンさん。なんか、弱い者イジメの主犯格な立場になってるのは気のせいでしょうか?


「未熟な大魔術師ダリト。よく周りを見ろ。お前の前に立つ小さな賢者が道を示していることにな」


 ピンク髪の王族さんの言葉に長髪イケメンさんが忽然と消えた。


「やれやれ。ベーの肝の太さにはヒヤヒヤさせられるさね」


「まあ、それがベーさ」


「だな」


「おれらを前にビビりもしねーんだ、あんなガキんちょにビビるかよ」


「人外さんたちにそう言わせるベー、最高」


 なんて失礼なことを言う人外どもに、思わず笑みが溢れてしまった。


 ……まったく、オレは出会いに恵まれてんな……。

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