第349話 ばっちこい!
「この人たち、盗賊と一緒に隊商を襲って人を奴隷商に売ってたんだよ! 許せない!」
幼女勇者の憤怒を簡素に纏めたらそんな感じになる。
まあ、二十分にもよる憤怒まみれの説明をされたが、九割九部は意味不明。なんとか理解できたのはオレも隊商から王都付近で盗賊に襲われ、全員行方不明になっていると前々から聞いていたからだ。
人外が住む王都とは言え、犯罪は普通にあり、行方不明なんて珍しくもねー出来事だ(とある情報屋談)。
「そうか。そりゃ許せねーな」
「そうだよね! 許せないよねっ!」
勇者ちゃんの憤怒は、まあ、わからないではねー。オレも人並みな正義感はあるし、目の前でやられたら
だから、勇者ちゃんの憤怒にどうこう言うつもりはねーし、怒りたいのなら怒ればイイ。それは勇者ちゃんの自由だ。
だが、自由には責任が伴う。やったことには結果がついてくるのだ。
オレも自由に生きてるが、その結果はちゃんと受け止めているし、ちゃんと認めている。だから自由を履き違えているヤツを見ると無性に腹が立つのだ。
動けない冒険者たちの頭を金色夜叉でコンコンと叩く。
「お前たちに選ばしてやる。警羅隊に自首してこれまでの悪事を全て吐くか、ここで百回死ぬか、好きな方を選べ。まあ、オレのお勧めは百回死ぬほうだな。運が良ければ神さまに出会えるぞ」
金色夜叉を振りかぶり、近くにいる冒険者を殴った。
最強の矛と最強の盾。どちらが強い? 答え、どちらも強いだ。
どちらの結界も砕け散り、金色夜叉単体での威力が冒険者を襲った。
「おっと。首の骨がイッちゃったね。でも大丈夫。オレ、薬師。直ぐ治るから」
収納鞄からファンタジー薬を出して冒険者に無理矢理飲ました。ハイ、復活ぅ~。
「これこの通り、百回死んでも大丈夫!」
冒険者たちにニッコリ笑って見せた。
「──しゃべる! しゃべるから助けてくれ!」
「おれもしゃべる! 警羅隊になんでもしゃべるから止めてくれ!」
「助けてくれ!」
あら残念。まだ試したい新薬があったのに。
「んじゃ、警羅に走れ」
言って冒険者たちを自由にしてやると、脱兎のごとく王都に逃げていった。
「連れていかないの? 逃げられちゃうよ」
へ~。勇者ちゃん、そこまで考えられる子だったんだ。
「大丈夫。警羅隊にいかないときはあいつらの体重が日に日に重くなって行くからな。それより走って疲れただろう? これでも飲みな」
収納鞄からブララ炭酸を出して勇者ちゃんに渡した。
「なにこれ!? うまっ! 口ん中がビリビリする! でもうまっ!」
出されたものをなんの躊躇いもなく口にする勇者ちゃん。まったく、許せねーな。
「ほれ、クッキーもあるぞ。しかも、美味しいジャムつきだ」
「うまっ! なにこれ、うまっ!」
喜ぶ勇者ちゃんから周りに目を向けるが、マリーさんどころか誰もいなかった。
ならと勇者ちゃんが満足するまで飲み食いさせた。
「お腹いっぱい!」
と、大の字に倒れて膨らんだ腹をさすっていた。
オレも横に座り込み、コーヒーで一服。勇者ちゃんの腹が落ち着くまで待った。
普通の幼女なら直ぐに眠ってしまうところだが、勇者としての体力はずば抜けているようで、十五分くらいで復活した。
「ありがとね、村人さん。いっぱい魔力使ったからお腹空いてたんだ!」
「そうかい。それはなにより。まだ食べたいのなら出すぞ?」
「ううん、大丈夫! 元気いっぱい、今なら超極大呪文を二十回は放てるよ!」
なかなか物騒な元気だな。
「ならちょっと腹ごなしにちょっと遊ぶか?」
「──うん、遊ぶ!!」
と、予想以上に食いついてきた。
「ボク、誰かと遊ぶの初めてなんだ! なにして遊ぶの?!」
まるで弾丸のように突っ込んできた勇者ちゃんを真剣白羽取りをし、土竜の突進にも負けぬ勢いを押し止めた。
「今教えるから落ち着けってーの」
力もあるだろうとは思ってたが、軽くオーガを殴り殺せるだけの力はあると見た。
なんとか宥めすかして落ち着かせ、ポケットからただの鉄球を取り出し、勇者ちゃんに渡した。
「勇者ちゃん。ちょっとこれをあの倒れてる木に向かって投げてみ。もちろん、当てるようにだぞ」
「投げるの? うん、わかった」
投げ方は滅茶苦茶だが、力とセンスはピカ一らしく、倒木が粉砕。大地を爆発させた。
「お、なかなか上手いじゃねーか。だが、まだまだだな」
また鉄球を出し、今度はオレが投球。違う倒木に命中させ、大地を爆発させた。
「負けないもん!」
更に出した鉄球を奪うようにつかみ、また違う倒木に向けて投球した。が、ハズレ。大地を爆発させただけだった。
「アハハ! ダセー!」
「ムキー! たまたまだもん! 次ちょうだい!」
と言うので鉄球を何十個と出した。
しばらく投げっこ勝負してたら倒木がなくなり、大地が月面みたくなってしまった。
「……当てるのなくなっちゃったね……」
「なら、次は勇者ちゃんがオレに向かって投げてみな。ただし、この的に向けてだ」
結界で縦横三十センチくらいの的を結界で生み出した。
「あそこの位置から勇者ちゃんがこれに向かって投げる。オレはこの位置に立ってこの棒で球を防ぐ。当てたら勇者ちゃんの勝ち。当てさせなければオレの勝ちだ。まずは試しにやって見ようぜ」
土魔法でマウンドを創り、的を置く。印としてホームベースも創る。ちょっとは雰囲気が出るだろうよ。
「よし、ばっちこい!」
「いくよ! ふん!」
滅茶苦茶なフォームながらちょっとした砲弾。当てるなんてはなから無理だとわかってる。なんで結界の板を何十枚と創り、鉄球の速度を殺した。
ガギーン!
元四番打者にてピッチャーなオレの鋭い振りが吠えた。
「へい、ホームラン! どうした勇者ちゃん、球がヌルいぜ!」
金色夜叉を振り回し、勇者ちゃんを挑発する。
「ムキー! 次は本気だもん!」
のようで三十一枚もの結界が破壊的され、時速にしたら百五十キロの球が向かってきた。
「ナメんな!」
小学校の頃は名門クラブからお誘いを受けるほどの野球センスを持っていたオレに死角なし。またもホームランを打ちました。
「ヘイヘイ、カモーンカモーン」
更に挑発して野球(?)を楽しんだ。
さて。オレの体力が持つか、それともオレをハメたヤツの根気が参るか、勝負と行きますか!
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