第347話 どうなってんのん?

「それで、次はどこにいくんだ?」


 なにやら憔悴しきったチャンターが尋ねてきた。


「あ、すぐそこの武器屋だよ。いや、だったかな?」


 サリネのことだからもう片付けに入って、店は閉めてることだろうよ。仕事より木工のヤツだったか


 同じ武器屋通りなのですぐに到着。やはり店は閉まっていた。


「また人外さんのお店なの?」


「いや、名工の店だったところだ」


「そうなんだ……」


 あれ? なんかしんみりな空気が流れちゃってるけど、そんなんじゃないよ。たんなるうちの村に移転するかそう言う表現方法になっただけなんだよ……。


 なんかスッゴく入り辛いんだけど、引っ越し状況を聞かなくちゃならんので、しんみりした空気を払い除けて閉じられた扉を叩いた。


 が、反応がない。出かけてんのかな?


「……いないか……」


 まあ、あれから数日しか経ってない。いろいろ忙しいんだろうよ。


「誰か住んでるの?」


「う、うん。まーな」


 幾ら義兄弟でも他人のプライベートを語るのはご法度。しゃべるのなら本人の許可を得てからだ。


「しゃーねー。帰るか」


「いいの? せっかく来たのに」


 こればかりはしょうがねーよ。約束してたわけでもなけりゃ連絡の取り合いもしてねーんだからよ。


 肩を竦めるだけにして、村に帰ることにした。


 なにやら道中、しんみりした感じがハンパないのだが、君たちの中でどんなストーリーが流れてんの? 


 スゲー気になるが、空気の読める子は我慢する。なんか、空気を変えたら危険な感じるんでな。


「ちょっと時間もあるし、茶でも飲んでいくか」


「さっきの店?」


「いや、酒場だな。ちなみにカイナって酒飲めんのか?」


「うん。普通に好きだし、毎晩飲んでるよ」


 意外と大人なカイナさん。オレ、十一歳。身も心もお子様です。


「チャーターさんと剣客さんは?」


 まあ、一応な。


「あ、ああ。好きだし、飲めるが」


「某も人並み以上に好きでごさる」


「そうか。そりゃ重畳。……えーと、ちなみにプリッつあんは?」


 なんかお目々をキラキラさせながらオレの目の前に陣取る自称乙女に尋ねた。


「まあ、嗜む程度にはね」


 どこの女子だよ。ったく、とんでも妖精が!


 まあ、突っ込みすんのもメンドクセーんで、無言のままじいさんの酒場へと向かった。


「じいさん、やってるかい?」


 鍵などない酒場なので勝手に中に入り、カウンターで酒を飲んでいたじいさんに声を掛けた。


「おう、お前か。やってるよ。入りな」


 と言うので遠慮なくお邪魔させてもらった。


「今日は大人数だな。しかもお前さんらしい顔ぶれだ。まあ、適当に座りな。食事か? それとも酒か?」


「酒だが、持ち込みなんだわ。イイかい?」


「構わんさ。また蒸留酒か?」


 どうやら気に入ったようで目を輝かせていた。


「いや、違う酒さ。すまねーが、じいさんの故郷の料理を何品か作ってくれるか? ツマミみたいなもんでイイからよ。あと、出来たら一緒に付き合ってくれや」


「……ああ。わかったよ」


 なんか、じいさんまで神妙な顔になったが、オレ、変なこと言ってるか?


 まあ、なんでもイイかと適当な席に着いた。


 ちなみにテーブル席はオレとチャンターさん。カウンター席にはカイナと剣客さんだ。


 プリッつあん? ああ、テーブルの上にいるよ。まあ、正しく言うのならカイナに出してもらった超高級そうな革のソファーの上、だがな。


「カイナ。ワリーが日本酒を出してくれるか? なんでもイイからよ」


 ゲコなオレに日本酒の違いなんてわからんからお任せするわ。


「なら、樹王と桜場と木城八景がお薦めだね」


 知らんがな。とは言えねーのでありがたく感謝しておいた。


 そして、沈黙が訪れた。


 前世も今生もおしゃべりな性格ではないので沈黙は嫌いじゃねーんだが、空気の重い沈黙はノーサンキュー。ほんと、なんなの!?


「……ベー殿。よろしいか?」


 沈黙に堪えきれず、ってわけじゃなく、さっきから刀とにらめっこしていた剣客さんが話しかけてきた。


「うん、なんだい?」


「この剣に銘はごさろうか?」


 名前? 剣に名前なんてあんのかい? と、カイナに目で尋ねた。


「え、えーと、あるんじゃないかな。おれは知らないけど……」


「名前を知らなくても出せんのか?」


「う、うんまあ、そこら辺はイージーモード?」


 なぜか首を傾げるカイナさん。あなたの生き方がイージーモードだよ。


「剣客さんのものになったんだから剣客さんが名づけたらイイじゃねーか。好きに付きろよ」


 金色夜叉みてーなカッコイイ名をよ。


「では、ベー殿が名づけてくだされ。ベー殿よりの恩寵ゆえ」


 別に剣客さんを部下にした訳でもねーんだから恩寵はないだろう。つーか、出したのカイナじゃん。カイナに言えよ、そんなこと。


「まあ、名づけてやりなよ。カッコイイのをさ」


「じゃあ、竜滅刀りゅうめつとう、村正。たぶん、それでなら竜でも滅することが出来るからな。あと、村正はなんとなくだ」


 村人だから村正むらまさにしましたってのは内緒。あと、カイナさん。そんなうわーってな目で見ないでください。あなたが名づけろって言ったんじゃないですか。


「……村正。竜を滅する刀でごさるか……」


 なんか気に入ったようだし、それに決定な。


 また沈黙が訪れたが、剣客さんの反応を見てたらじいさんがツマミを運んできた。


 収納鞄から人数分の茶碗を出して、各自に日本酒を注いだ。たまには形だけでも付き合うかと、自分のにも注いだ。


 茶碗を持ち掲げると、皆が応えてくれた。


「この出会いに感謝を。乾杯」


 茶碗をぶつけ合い、形だけ口につけた。


 しかしなんだろう、この通夜のような空気は? いったいなにがどうなってんのん?

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