第320話 夢と希望の職場

 午後からはマームルじいさんらに塩の販売だ。


 カムラにも海はあり、塩は作って居るが、うちの国より海岸線が少なく半分は輸入に頼って居る。


 帝国から六割、うちの国から二割、自国で二割だそーだ。


「塩は商会連合が握っとるからな、いい顔はしないさ」


 人足らに倉庫から塩(藁袋)の運び出しを指示し、待って居る間になんで商会連合がちょっかい出して来たのかをマームルじいさんに尋ねたら、そんな答えが返って来た。


「なるほどね~。そんな兼ね合いがあったわけか」


 どこよりも安く、近い場所から大量に塩が流れて来るとなればそりゃ焦るわな。


「よくそれでオレから塩を買おうと思ったよな、マームルじいさんは」


 完全に商会連合にケンカ売って居るよな、それ。


「まあ、どこの国にも派閥はある。たまたまわしは国王派なだけさ」


「やだやだ。そーゆードロドロしたものには近づきたくないもんだ」


 そう言うのは自分たちの国でどうかしろよ。ド田舎に持って来んな。


「そう言いながらベーは塩を売ってくれるよな。それはなんでだ?」


 鋭い眼差しに、オレは肩を竦めてみせた。


「別に深い意味はないさ。調子こいて塩作りして居たら倉庫がいっぱい。他のものが入らないから塩が欲しいと言ったマームルじいさんに売っただけさ。まあ、広場に呼び込むために、ってな理由もあるがな」


 人や物が行き来すれば街道は賑わい、人の目が集まる。そうなれば村はなくてはならない重要拠点となり、魔物の駆除や野盗の類いは近づいて来なくなる。


 まあ、イイことばかりじゃなくワリーことも集まって来るが、そこはそれ。有力者のコネと技でなんとかしてくださいである。


「そう言うところが上手いよな、お前さんは。どんな未来図を描いて居るか一度見てみたいもんだよ、まったく」


「おもしろおかしく陽気な未来さ」


 破滅を願っていなけりゃだいたいの者はそんな未来を望むはず。少なくともオレはそんな未来がきてくれることを願い、日々努力しているぜ。


「……それをバカにできんから参るよ……」


 別にバカにしたってイイさ。人を妬み嫉み、全てを他人のせいにして、陰気でつまらない暗い未来がイイってヤツもいる。勝手に望めばイイさ。ただし、オレの遠くでやって呉れ。近くでやるなら強制退場させるからよ。


 塩の運び出しを眺めて居ると、アニバリとその娘がやって来た。


 えーと、このねーちゃん、アニじゃなくてアリでもなくて……なんだっけ? 


「レリーナだ、このアホたれが。なんでお前は人の名前を覚えられんのだ!」


「覚えられねーんじゃねー。忘れるだけだ」


「一緒だわ、このアホがっ!!」


 なんてマームルじいさんの突っ込みはスルーして、アニバリらに意識を向けた。


「ワリーな。マームルじいさん、ちょっと突っ込みたい年頃だから優しく見守って呉れや」


 視界の隅でいかにもじいさんと現役じいさんに抑え付けられて居るマームルじいさんが映って居たが、勇猛果敢に絶頂スルー(意味不明)。そんなの知らねーと意識からも排除した。


「そんで、オレになんか用なのかい?」


 なにやら身綺麗になり、なにやら雰囲気がフローラル──じゃなくてロイヤル。この姿なら王弟だと言われても納得だな。


 ねーちゃん──レリーナも上等な旅装束になり、ロイヤルな感じを放って居た。


「……あ、あぁ。今、よいか?」


「構わんよ。世間話して居ただけだからな」


 立ち話もなんだからと、テーブルと椅子を土魔法で創り出した。あ、午前中に出したやつ、消すの忘れてたわ。あとで消して措かねーと通行の邪魔になるな。


 ってなことを考えながら白茶を配った。ついでにマームルじいさんたちにもな。


「……世の中にはこんなに旨いものがあるのだな……」


 どうやらアニバリの舌には白茶が合うようで、味のわかる顔(ん~マン〇ムな顔だな)をして居た。


「そうかい。なら帰りに土産として呉れて遣るから持ってきな」


 マームルじいさんに売るとは言ったが、量はまだ言ってねー。二箱 くらいくれて遣るよ。


「良いのか? 高級なものなんだろう?」


「構わんよ。東の大陸の商人と知り合えたから頼めば幾らでも運んできて呉れるしな」


 そのうちこちらからもお邪魔させて貰うし、別に今保存する必要もねーさ。


「……な、なら、ありがたくいただいて措こう……」


「おう。もらっとけ」


 報酬として毛長牛を頂けるのだ、白茶の一箱や二箱、まったく惜しくねーわ。


「それでだ。ただ待つのもなんなので、我らに仕事をもらえないだろうか。恥ずかしながらこの旅の旅費を捻出するのがやっとで、ここの滞在費と帰りの金がないのだ」


 そりゃまた思い切ったことする王弟さまだな。つーか、王弟としてそれってイイのか? いくら小国の王族とは言え、不味いんじゃね?


「駄目、だろうか?」


「あ、いや、仕事をくれって言うんなら幾らでもやるが、王弟さまが働くとかイイのか? 部下とかに示しがつかねーだろう?」


 いや、よー知らんけどさ。


「国を救うためなら泥払いでもなんでもする。下らぬ矜持など、今はいらぬ!」


 なにやらスッゴい覚悟を見せてきた。


「ま、まあ、アニバリがそれでイイのなら構わんが、何人希望だ?」


「できることなら全員。十七名だ」


「わかった。十七名、雇うよ。人足として五人。水飲み場の清掃やや馬糞の処理と言った広場の維持管理に十人。アニバリには売上の計算と振り分けを頼む。レリーナのねーちゃんは店の店員を頼む。やり方はフェリエっつー熟練者がいるからそいつから学んでもらう。人足と維持管理の者には一日銅貨十五枚と食札一枚。アニバリには銀貨一枚と食札一枚。レリーナのねーちゃんには銅貨二十枚と食札一枚。真面目に働き抜いたら褒美として銅貨五枚足すぜ」


「並の労働者賃金の倍とか、ほんと、あり得ないわ」


「それがあり得るのがボブラ広場。夢と希望の職場だぜ。で、やるかい?」


「喜んでやらせて貰おう」


 おう。しっかり働いて下さいな。

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