第310話 オレがルール

 楽しい広場にやってきました。


「お、結構、きてんな」


 さらに二つの隊商が広場にきていた。


 一隊は去年もきた見覚えのある隊商で、もう一つは今回初めてきた隊商のようだ。


 昨日の夕方に着いたんだろう、天幕もちゃんと張ってあり、竈もできて明らかに数日は居座る気まんまんなのがよくわかった。


 そんなお得意さまを横目に見ながら自分の店へと向かう──前に女衆に挨拶しねーとな。


「ご苦労さん」


 そろそろ本隊がくる頃なので村の女衆も用意に大忙し、ではねーけど、活気に満ちた笑顔で用意をしていた。


 集落の女衆は、各家で内職したもの。海の女衆は海産物。山の女衆は山の幸。サプルを筆頭にした食店。理髪店をやるサリバリやおしゃれ店のトアラと言った一芸に秀でた技術店。ド田舎とは思えないほど商売に飛んでいるよな。


 ある程度女衆に挨拶を済ませて店へと向かった。


「おう。期待通り遅くなったわ」


「ほんと、べーは変わらないわね」


「生き様を貫く男、べーです」


 とか言ってみるが、鼻で笑われた。


 まあ、ちょっとしたコミュニケーション。ちっとも気にしないもん。


「どこまで進んだ?」


「べーの苦手なオシャレ棚はやっておいたわ」


 サリバリよりオシャレで賢いフェリエさん。あなたに感謝です。


 品出しをフェリエに任せ、オレは収納鞄から品を出していく。


 店自体は小さいが、結界を利用してカートリッジ方式にしているので収納力は高い。なんで品出しも時間がかかるのだ。


 黙々と品出ししていると、また外が騒がしくなってきた。


「どうしたんだろうね?」


 これはフェリエ。プリッつあんは……あれ、いねーな。どこ行った?


 まあ、エリナのように引きこもられるよりはマシ。好きなようにしろ、だ。


「なんだろうな?」


 問題があんならくんだろうと品出しを続けてたら、山部落のおばちゃんが入ってきた。


「べー、ちょっときておくれよ!」


 メンドクセーが、これでもここの責任者。そして、隊商と村との仲介人。やることやらねーとデカい顔できねーしなと、自分を奮い立たせた。


「あいよ。今行く。フェリエ、あと頼むわ」


「はいはい。好きなだけいってらっしゃい。勝手にやっておくからさ」


 もうこの店、フェリエに任せた方がイイんじゃね? とかなんとか考えながら外に出ると、なにやら薄汚れたおっちゃんらが倒れていた。


「えーと、また?」


 おばちゃんらに聞くと、苦笑いが返ってきた。


「あ、でも今回は頑張ったほうじゃないかね」


「そうだね。頑張ったと思うよ」


 なんの慰めだかわかんねーが、倒した時点でアウトだよ。とか心の中で突っ込み、深くて長いため息をついた。


「まあ、それはイイ。で、なんなわけ?」


 相手が悪かろうとオレはサプルの味方。黒でも白にするあんちゃんです。くるんなら掛かってこいや! だ。


「早くきたのになんで離れた場所にいかなくちゃならないんだと、文句を言ってきたんだよ」


 改めて倒れているおっちゃんらを見る。やはり、見覚えのねー隊商のようだ。


 本来、広場は早くきた者勝ちだ。ただの広場なのだからそりゃ当然さ。だが、ここはオレが管理をし、設備を設け、他とは比べものにならないくらい安全にしてある。


 もはやここは実質的にオレのもの。オレのルールで動いている。それは、村長も村人も納得してるし、大手の隊商からも承諾と支持を受けている。


 まあ、そんなルールおれには関係ねーってヤツや知らない者も当然いる。ああ、国が定めたルールじゃなく、オレが勝手に決めたルール。守りたくねーのなら守らなくてもイイし、広場のあちこちには広場の利用法を書いた看板を立てている。そんなの知るかって言うならご自由に、だ。


 だが、そんなヤツらにオレの加護はねーし、商売もしたくねー。傲慢? 身勝手? ああ、そうだよ。だからなに? だ。


 やってることはマフィアだが、こんな時代の領主が放棄した広場を纏めるにはどうしたって脅しが必要になってくる。優しさや思い遣りで統治できんのは空想の中だけだわ。


 倒れているおっちゃんの側にいる、身なりからして隊商の頭だろう、二十代半ばのあんちゃんを見る。


 ……ボンボンだな……。


 その甘ったれた顔でそう決めつけた。


「あんちゃんら、看板読まなかったのか?」


「そんなの知るか! ここは公共の場だぞ! それに早くきたのになぜ離れた場所に行かなければならんのだ!」


「その公共の場には管理する者がいて、決まりがあんだよ。嫌ならここの領主に訴えるなり力で通すなり勝手にしな。ただし、あんたらにここは利用させねーし、力でくんなら力で対応すっからな。よく考えてから行動しな。あ、ちなみにオレがこの広場の管理人だ。ガキだとナメてもイイし、侮っても構わねー。あんたらの自由を侵害する気はねーからよ」


 さて、どうすると眼差しで語ると、ボンボンが後退り、顔色を青くさせた。


 まあ、オレの後ろにはたくさんのおばちゃんらがいる。しかも、睨みを見せている。これを前に平然と立っていられたらもはや神だよ。オレは崇め奉るよ。その足元にひれ伏すよ。


 だが、そんなもんがいる訳もなく、チビりそうな顔してボンボンが逃げていってしまった。


「ったく、手間かけさせやがって。その辺のは適当に端に寄せといてくれや」


 あとはおばちゃんらにお任せ。イイように片付けてくれんだろうさ。


「そうだな。ちょっと見回りしてくっか」


 今の時刻は三時半。前の村を早く出た隊商は、そろそろ到着する時刻だ。ボンボンのようなバカがいんとも限らんから確認と忠告をして回るか。


 はぁ~。来年はあんちゃんか誰かに任せよう。忙しくて自分の時間が取れねーよ。

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