第231話 迷信

 さて、赤毛のねーちゃんのとこに行くかと気持ちを切り替えたて進み出したら柄のワリーあんちゃんらに道を塞がれた。


 結界を纏った様子はねーし、港内にいることからして別のマフィアのアホ太郎どもか?


 ニヤニヤ下卑た笑いが気持ちワリーな。こんなのしかいねーのか、ここにはよ……。


「ガキ、怪我したくなきゃ大人しく着いてこい」


「うるせーバーカ。消えろ」


 人の誘い方も知らねーボンクラの言うことなんか聞いてられっか。乳幼児からやり直せ。


 問答無用で捕縛し、強制正座をさせてやる。


「三日くらいそこで反省してろ、バーカ」


 よそさまに迷惑を掛けない親切設定。垂れ流しても周りには漏れないし、臭いもうちに籠るだけ。しかも下半身はモザイクをかけてあるので見た目も安心。まったく、オレって甘い男だぜ……。


 それ以降は立ち塞がるアホ太郎くんは現れず、平穏無事に親父さんの船に到着できた。


「進んでっかい?」


 貸してやったリヤカーに荷物を積む将来の副船長くんに尋ねた。


「あ、はい。そんなにないんで」


「別にそう畏まらなくてもイイよ。オレはあんたらの親分ってわけじゃねーんだからよ。」


「と、とんでもないです! 船長からベーさんに従えと言われてますんで」


 畏れ多いとばかりに畏まる将来の副船長くん。まあ、上下関係が厳しい時代だからな、しょうがねーって言えばしょうがねーか。


「んで、まだかかりそうか?」


「もう少しで終わります」


 と言う側から船から赤毛のねーちゃんらが出てきた。


「終わったのかい?」


「ああ、待たせたな」


 答えたのはオッサンで、赤毛のねーちゃんはなんか抱えながら沈んでた。どーしたん?


「まあ、船はおれたちの家であり誇りだからな、しょうがないとわかっていても割り切れねぇんだよ」


 船乗りの気持ちはわからんが、そこまで大事にされたら船も満足だろうよ。


「なら船を休ませてやんねーとな」


「休める?」


「あれ? ここではやんねーのか? 船の火葬? もう走ることができねー船は休ませるために海に還すとかなんとか」


 海賊王になると叫んでヤツはやってたぞ。


「それでなんで焼くんだよ」


「魂を休めるためと、大事にしてくれた船乗りを心配してさ迷わないようにするためさ」


 まあ、オレの希望的推察ですがね。


「……初めて聞いたよ……」


「さ迷わないようにか……」


「ダングルリー号……」


 なにやらウソですとは言いだせねーくらいマジな空気になってしまった。どーすっぺ……。


「ま、まあ、地域によって船の見送り方はそれぞれさ。乗ってたヤツらの流儀でやりゃイイさ」


 余計なこと言いました。ごめんなさいと、心の中で謝った。


「なあ、あんた──いや、ベー」


 と、赤毛のねーちゃんが声を掛けてきた。初のコミュニケーションだな。


「なんだい?」


「その見送り方、させて欲しい」


 真っ直ぐオレを見る赤毛のねーちゃん。ほんと、父親似だな。マジな顔がそっくりだぜ。


「ねーちゃんがそれでイイのならオレは構わんよ。だが、それは船を創ってから。親父さんや他の仲間たちにも言ってからだ。その船を愛してきたのは親父さんらの方が長いんだからよ」


 除け者にして見送ったら親父さんらに合わせる顔がねーよ。


「……わかった……」


 素直に頷く。なるほど、オッサンズに好かれるはすだ。イイ子じゃねーの。


「んで、荷物はそれでイイのか?」


「ああ、ほとんどは下ろしてあるし、航海に必要なものは持ってきてある。今日きたのは船の要石を取りにさ」


「要石? なんだいそりゃ?」


「これだよ」


 オッサンが腰の下げ袋から爪くらいの黄色い石を取り出した。


「このヒロヒ石は海に好かれる石でな、二十七個船につけると災い除けになるんだよ。まあ、迷信と言やぁ迷信なんだが、船乗りはそう言うもんを大切にすんだよ」


 まあ、ところ変われば品変わる。いろんな迷信はあるさ。突っ込んでもしょうがねーさ。


「世の中、実力だけで決められんなら楽だが、よくわからんものに左右されっからな、気休めでもやったらイイさ」


 オレは否定しねーよ。


「ありがとよ」


 どう言う感謝かわからんが、まあ、オッサンが納得してんならそれもイイさだ。


「ほんじゃ、いくとすっか」


 途中、また柄のワリーあんちゃんらに立ち塞がられたが、問答無用で正座させた。


 ったく。なんなんだよ。


 じゃあ、立ち止まって聞けよ、って突っ込みはノーサンキュー。この港のアホとは関わり合いたくねーんだよ。バーカ。

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