第223話 散れ!

「んじゃ、今日も元気に働くぞ!」


 そうガキどもに号令を出して寺院へと向かった──のだが、なにやら寺院の前が人でごった返していた。


「なんだいったい? 安売りか?」


「なんだや? 魔物でも出たかや?」


「なんでしょうね。お祭りですかね?」


「……いや、君たちの疑問がなんなんだよ! あれはどう見ても貧民の集まりでしょうが……」


 なんか知らんがカーチェから突っ込みを受けた。


「貧民がなんで寺院にくんだよ。大精霊からの神託でも降りてきたのか?」


 まあ、精霊は神じゃねーが、信じる者には関係ねーこと。救ってくれんなら悪魔にだってかしずくさ。


「大精霊は神託なんてしませんよ。多分、ですが、ベーに嫌がらせでもしたんでしょう」


「オレに? なんで? オレは他人から恨みを買うような生き方なんてしてねーぞ」


「いや、あなた、充分すぎるほど恨みを売ってますから」


 打てば響くような突っ込みがきた。


「え? オレ、そんな酷いことしてた?」


 まったくもって身に覚えがないんだけど。


「……まあ、身に覚えがないのなら気にしなくても良いでしょう。話を戻しますが、多分、マフィアの、バンビルの差し金だろうね」


 あの腰抜けが? 意味がわからん。あ、あれか。出前を勝手に頼んで送り付ける的なものか?


「どこかでベーが浮浪児に施しをしている聞いて、貧民にここにきたら食べ物をもらえるとか流したんでしょう。下手に突っぱねれば暴動ものですからね」


 カーチェの推理になるほどと頷く。なかなか洒落たことするじゃねーの、あの腰抜けくんが。


「どうします?」


「食いてーって言うなら食わしてやるさ」


 ニヤリと笑って見せる。


「ベーがそう言うなら可能なんでしょうが、少なくても二百人はいますよ?」


「なんも問題ねーさ。日頃から大量買いしてるし、飢饉掛かってこいや! の精神で生きてっからな。二百人なんてものの数じゃねーよ」


 飢饉かかってこいや! 中には村のモンも入ってる。一気に二百人食を食わせる手などとっくの昔に用意してるわ。


「気にしねーでいくぞ」


 ビビるガキどもを促して寺院へと進む。


「おい! あのガキが食い物くれるガキだってよ!」


 と、群衆の中から声が上がり、貧民どもが一斉にこちらを振り向いた。


 なかなか手間のかかったことをする。


「食い物をくれ!」


「早く食わせろ!」


「早くしろ!」


 愚民どもが吠えること吠えること。まるでゴミのようだ、ヌハハハ!


「ウルセー! 黙りやがれ!」


 ドン! と地面を叩き、大地を揺らした。


「誰が言ったか知らねーが、食い物を食わすのは昼からだ! これだけの人数を朝から用意できるわけねーだろうが! そんなこともわかんねーほどテメーらは頭が腐ってんのか? 騒ぐなら食わせねーぞ!」


 怯んだところに大声で怒鳴ってやる。


 民衆心理を利用したようだが、民衆心理なら前世のテレビで何度も観ている。対処法など直ぐに思いつくわ。


 虚を突かれて地面に崩れる愚民どもを結界で押し退けながら寺院へと入る。


 念のために寺院には結界を張っておいたので中には寺院関係者しかいないが、この騒ぎに怯えた院長さんらが中で集まって震えていた。


「ワリーな、院長さん。オレの考えが足りなかったわ。大丈夫かい?」


 安心させるように優しい口調で話しかけた。


「……は、はい。大丈夫です。すみません。わたしの力が足りないばかりに……」


「力が足りなきゃオレが幾らでも貸すから院長さんは浮浪児を助けるのを最優先にしてくれ。なに、外のことはオレに任せな。考えがあっからよ」


 人を集めたいと考えてたが、イイ案が浮かばなかったから次回にと諦めていた。それがこうして集まってくれたのだ、腰抜けくんに大感謝さ。まあ、負けてはやらんがな。


「カラエ。料理班を作るから十人選んでおけ。デンコとリムは食器を創れ。タジェラは買い物できるヤツを四人くらい選べ。いなかったらお前の仲間でも構わねーからよ。ダムは外にいる連中に食事は子供優先……つってもわかんねーか。食うのは子どもが先。大人は後だと触れ回ってこい。お前には魔法をかけてあるから心配すんな。たとえドラゴンでもお前を傷つけることはできねーからよ」


 ざっぱな指示だが、そのくらいはできると踏んで選んだ五人である。もしできねーのならオレに見る目がなかっただけ。失敗もまた勉強だ。


「わかんねーことがあったらオレかカーチェに聞け。イイな?」


 オレの言葉に五人が力強く頷いた。


「じゃあ、散れ!」 

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