第222話 イイ夜だ
ガキどもらの寝床を創ってやり、メルヘンどもを黙らせ、なんやかんやがあってやっと静かな夜がやってきた。
「ふぅ~。疲れた……」
ガキどもらとメルヘンどもは隣りの倉庫に寝かしたので、こちらの倉庫にはオレとタケルとデンコとカーチェしかいないからとても静かである。
あ~~~。やっぱ夜はこーじゃねーとな。
眠る前の一時。スローなライフには欠かせねーぜ。
マ〇ダムと行きたいところだが、こちらのコーヒーはカフェインかなんかが多いのかわからんが、飲むと眠れなくなっちまうんだよな。なんで夜は羊乳にハチミツ入りを堪能しています。
んぅう~ん。デリシャスぅ~。
二口飲み、ラーシュの手紙でも読もうかなと思ってポケットに手を突っ込んだら、ロフトの階段を上がる軋みが聞こえた。
ん? なんだと階段を見ると、沈んだ顔をしたタケルが上がってきた。
「……まあ、座れや」
どうした? と聞くのも野暮だし、なぜきたかわからねーほど鈍感じゃねー。温かく迎えてやるのが優しさってものだ。
反対側のソファーに座るタケルに温めたコーヒー羊乳ハチミツ入りを出してやった。あと、気分を落ち着かせるものも入れて、な。
まあ、飲めとコーヒー羊乳ハチミツ入りを勧め、話を切り出してくるのを静かに待ってやる。
こちらから切り出したらタケルの心は晴れねーし、自ら乗り越えなくちゃその気持ちはしこりとなって一生タケルを苦しめる。そんな一生嫌だと言うなら自分の心をさらし出せだ。
「……すみませんでした……」
やっと口を開いたと思ったら謝罪だった。
「なにに対してのすみませんでしただ?」
「……ベーさんに相談なくあの子たちを買ってしまった上に迷惑かけてしまって、本当にすみませ──あだっ!」
アホなことを言うアホを孫の手でチョップしてやった。
「何度も言わせんな。お前の決めたことにオレは口出ししねーし、やりたければ勝手にやれ。それがうちの家訓だって言っただろうが」
「で、でもおれ、ベーさんに迷惑しか掛けてないし、食ってばっかりだし──あだっ!」
再度、孫の手チョップを食らわしてやった。
「お前を受け入れたときからお前はうちの家族だ。ならうちの家訓に従え、アホ。お前がなにしようがうちのモンはびくともしねーし、お前の胃袋ぐらいで干上がるほどうちの食糧状況はヤワじゃねーよ。それに、お前の勝手などオレたち兄弟から見たら可愛いもんだわ。どうしてもオレを嘆かせたいのなら一国を敵に回すくらいの無茶をやってから言いやがれ。オレのスローライフは揺るぎもしねーわ」
羽根妖精を二十人(匹は差別なんでご注意を)くらい買ったくらいでメソメソしてんな。どうせ買うなら奴隷の五百人でも買ってきやがれ。そしたらお見逸れしやしたとひれ伏してやるわ。
「……ず、ずみばぜん……」
感極まって泣き出したタケルに孫の手チョップ。ただし弱めに。
「だから謝んな。別に同情だけでお前を家族にした訳じゃねー。お前の潜水艦は使えると言う打算もあった。つーか、それ八割強だな。残りはお前をおもしろいと思ったからだ。同情なんて爪の先くらいしかなかったわ」
同じ転生者だからと言って同情する理屈にはならねー。前世の記憶を持ち、潜水艦超便利と思う方が先。それが汚い大人(精神年齢ね)の正しい在り方ってもんだろう。
「オレはオレのために生きている。オレのためにお前を必要とした。だから家族にした。それ以上でもなけりゃそれ以下でもねー。だから、感謝も謝罪もいらねーよ。好きように、思うがままに、自分の人生を楽しみやがれ。そのためには人を利用する強かさを持て。家族も他人も自分のためにいると思え、だ」
ただし、やるなら自分の趣味趣向にあったやり方をしろよ。じゃねーと、おもしろくねーからな。
「まあ、すぐにそんな生き方しろとは言わねーさ。お前の人生は始まったばかり。ゆっくりまったりやってけばイイさ。それが人生を楽しむコツさ」
「……はい……」
泣き笑いなチョロい子さんに苦笑してしまうが、まあ、それがタケルのイイところでありおもしろいところだ。精々オレの人生を豊かにしやがれだ。
「もう寝ろ。明日もやることいっぱいなんだからよ」
「はい。明日も頑張ります。お休みなさい!」
言葉にはせず、カップを掲げて応えた。
タケルが寝台に入り、寝息が聞こえた頃、次の訪問者が現れたので蒲萄酒とポテトフライを出してやった。
「……イイ子だろう?」
蒲萄酒を一口啜り、口を離したところで言葉を紡いだ。
「……ええ。無知で哀れな甘い子です」
「フフ。正しい評価をありがとうよ。なら辞退するかい?」
悪戯っぽく言ってみた。
「とんでもない。あんな波乱を呼び寄せてくれる子なんて……ベーがいましたっけね。まあ、ベーの次くらいにはおもしろいことを運んできてくれるんです、逃がしはしませんよ」
「ヤレヤレ。この変人冒険野郎にも困ったものだ」
「イヤイヤ。変人村人には負けますよ」
「おいおい。オレは善良で無害な村人だぜ。変人冒険野郎さんよ」
「おやおや。さすが善良で無害な村人の言葉は違いますね。マフィアにケンカを売ったり、浮浪児を集めることが日常茶飯事なんですから」
「………」
「………」
二人で見つめ合い、どちらともなく笑い出した。
こんなバカを言ったりやったりできる相手がいて、笑い合えることがどうしようもないくらい幸せでしかたがない。
「まあ、頼むわ」
羊乳ハチミツ入りのカップを突き出す。
「お任せあれ」
蒲萄酒の入ったカップが突き出される。
「「この出会いに乾杯」」
本当にイイ夜だ。
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