第218話 寝床
「そう言や、お前らって家はあんのか?」
ふっと疑問が浮かんできたのでガキどもに聞いて見た。
「……ありません……」
カラエが答え、犬耳のタジェラ以外が同意の頷きをした。
まさにストリートチルドレンか。クソだな、まったく……。
「タジェラは、どこに住んでんだ?」
「……街の外……」
「ああ、あそこか」
街の中にあるスラム街より更に最悪な環境下にある外町。そこは、あばら小屋が御殿に見えるくらい最悪なところで、ある意味うばすて山的な場所だ。
「そこには、お前のような獣人が多くいるのか?」
ここは、人の国だが、獣人の村は幾つかあり、国の民として受け入れている。人だけでは国が成り立たず、獣人の国とも国交があるので、人の多い場所には獣人が結構いたりする。
……まあ、世の常で獣人にも人にも相手を差別する意識はあるがな……。
「村が魔物に襲われて、ここに逃げて来た……」
酷い様だが今生では珍しくもねー出来事。同情心も湧かねーよ。
「家族、いや、仲間は多いのか?」
「いっぱいいる」
「そうか……」
獣人、か。まあ、いろいろ開拓しなくちゃならんのだし、最初は力がある種族の方がイイかもな。
「タジェラ。お前らの長に新しい住み家が欲しいなら明日寺院にきなって伝えてくれ。あと、お前は今日は帰ってイイ。また明日の朝寺院にこい。これは土産だ」
冒険者ギルドでやってる食堂で買った料理(鍋)を渡してやった。水で薄めたら二十人分は行くだろうし、こーゆーのが保存庫の肥やしになって十年後に出てきそうだからしょ……あ、うん、お土産にどうぞ。
「……え、あの……」
「別にもうくるなって言ってるわけじゃねーよ。ほら、今日の給金だ。明日も元気に働きにこいよ」
銅貨を二枚、手に握らせてやる。
「……あ、ありがとう! また明日働くから!」
くるんとした尻尾をブンブン揺らして去って行った。ほんと、獣人って謎のイキモンだよな……。
「さて。家のねーお前たちって、どこで寝てんだ?」
さすがに家のねー生活なんて想像できねーよ。
「空き家や路地裏、なるべく人のこないところを探して寝ています」
なんだろうな。魔物に襲われて村がなくなるより家がねー方に泣けてきやがるぜ……。
「よし。お前らに安心して眠れる場所を用意してやるよ!」
忠犬ハチ公を読んだ以来の胸を締め付けられる悲しみに、使命感にも似た感情に支配された。
買い物は中止して寺院へと向かった。
寺院では、院長さんが集まった浮浪児たちの汚れを落としてやろうと、水桶を担いで水場を往復していた。
「ここには井戸がねーのかい?」
「はい。少し行ったところにある水場から運んでおります」
ほんと、村人に生まれてマジ幸運だよ。
「わかった。それもオレがなんとかするよ」
幸いにして王都には山から水路を引いているので水はタダ(住民税みたいなもんは取られるがな)だ。なら、運ぶ手段さえ考えればイイだけだ。
「それより、この寺院って、何人くらいまで寝泊まりできる?」
「え? あ、えーと、十人が精一杯です」
まあ、寝泊まりだっけは、ってことで、人並みに暮らそうとしたら四人が限度だろうな、この寺院の大きさではよ。
「んーーーーうん。倉庫をもう一つ借りるか」
家を借りるにしても手間が掛かりそうだし、ガキどもだけの生活は不安でしかねー。まあ、それは倉庫でも同じだが、倉庫は寝泊まりする場所。食事は寺院でとした方が安全で、管理がしやすいだろう。
「院長さん。こいつらの寝泊まりする場所を創るから一回こいつらを連れてくな。夜の食事はそこでして、また明日の朝くるわ」
「え、あ、はい。わ、わかりました……」
「あ、できればガキどもに食事を作ってやる者を雇ってくれねーか? できれば近所のおばちゃんで、三人くらい。毎日は大変だろうから交代三組、まあ、最低で九人。多くても十五人。賃金は一日銅貨七枚。一回は銅貨二枚。それも記録してくれ。今後、孤児院を造るときの資料にしたいからよ」
まあ、正しく運営されてるかチェックするためのものだが、それは内緒。経営者は従業員(?)を監視するのもお仕事なんです。
「そ、そうでしたか。わかりました。大丈夫です。仕事がないと嘆くばかりの人が多い場所なので直ぐに集まります。記録もしっかりと書いておきます!」
「おう。任せたよ」
言って演台に上がり、ガキどもをこちらに向けさせる。
「今日からお前たちの寝床となる場所に連れて行く。デンコ、カラエたちは、皆がはぐれないようにガキどもを面倒見ろよ」
「わかっただ!」
「わかりました」
「おし。いくぞ」
と、ぞろぞろ引き連れて倉庫へと向かうと、船長さんと見知らぬオヤジが待っていた。
「おう、船長さん。一日振り」
なんか何日も空いた気もしねーではないが、まあ、一昨日に会ってんのは事実なんだから気のせいだろう。
「悪い、ベー。少し時間をもらえるか?」
なにやら申し訳なさそうに言う船長さん。まあ、なんの話か想像はつくし、生きてりゃしがらみは出てくるもの。メンドクセーが船長さんの顔を立てるのも友達としての義務だな。
「ちょっとなら付き合うが、こっちにも都合があんだ、長くなるなら行かねーぞ」
ちゃんと言質は取っておかねーとな。
「ああ、それで構わない。少しの時間ならって承諾させたからな」
「大変だな、船長も」
「それをわかるベーには苦笑しかでねぇな、まったく」
「人が生きてりゃ出てくるもの。村も街も関係ねーよ」
それが社会。嫌なら魔境にでもいきやがれだ。もっとも、魔境の社会は別なルールで白髪になりそうだがな。
「ふふ。まったくだな」
「ちょっと待ってくれよ。ガキどもに指示出しておくからよ」
「ほんと、お前は人の想像の斜めを全力疾走するよな。今度はなにしたんだ?」
「従業員を雇っただけだよ。デンコ。ちっと出掛けてくっから皆の面倒を見てろな。あと、腹が減ったらなんか食ってろ。場所はわかるな?」
「はいですだ。任せてくんろ」
「まあ、女のことはカラエに任せろよ。無闇に突っ込むと嫌われっからよ」
一応、忠告はしておいてやる。知らずに嫌われるのも可哀想だからな。
「ワリーな、船長さん。ならいこうか」
アホどもの巣によ。
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