第190話 冒険商人
「しかし、本当にもらっていいのかい?」
「迷惑だったかい?」
「いや、迷惑なんてことはねぇさ。酒を愛する者としちゃこんな逸品を飲ませてもらえることは幸福でしかねぇ。だが、こんな上物、ただではもらえねーよ」
「言ったろ。旨いもんを食わしてもらった礼だって。それに、オレは酒が飲めねーからな、飲んでくれるヤツに渡った方が酒も幸せだろうさ」
オレは作ったことで満足。あとは飲めるヤツに任せるよ。
「……ガキのクセにイッパシなこと言いやがって。わかったよ。ありがたく受け取っておくよ」
ニヤリと笑うじーちゃんに、オレもニヤリと笑って応えた。
「しっかし、この酒、蒸留酒、だったか? 世の中にはこんな酒もあるんだな。この年になるまでお目にかかったことがねぇよ」
「オレも驚きだよ。結構酒の種類はあんのに蒸留酒がねーなんてな。帝国辺りで作ってっと思ったんだがな」
帝国はこの世で一番発展したところだと聞いてたから蒸留酒を手掛けたのによ。
「……おれは、お前のその知識の量に驚きだわ」
「ベーはどこの出なんだ?」
「オレはボブラ村の生まれで今も在住の村人だよ。王都にきたのは買い物と冒険者ギルドに依頼と、まあ、いろいろだな」
「はぁ?」
と、じーちゃんがすっとんきょうな声をあげた。
なんだい、いったい? と船長さんを見ると、なぜかさもありん的な表情を見せていた。
「じーさん。あんたは悪くねぇよ。こいつが村人に見えたらそれこそ見る目がねーどころか目が死んでるわ」
「……わしはてっきり大魔道師が化けてんのかと思ったよ……」
「オレは正真正銘十歳の村人だよ」
「説得力ねーわ」
「ねーな」
「まあ、どう見えようとオレはオレ。勝手に見てくれだ」
どう見られようとオレはオレのままで、オレを貫くまでだ。
「そんなことよりよ、港のことを教えてくれや」
このまま男同士のおしゃべりを続けるのも魅力的だが、そうそうゆっくりもしてられん。今日は日帰りできてんだからな。
「村人の聞くことじゃねぇよな、それ」
そんなチャチャは軽くスルーします。
「単刀直入に聞くが、港ってオレでも使えんのか?」
「……単刀直入過ぎてわけわからんが、まあ、使えるか使えないかで言えば使えるな」
その言い方に眉を寄せる。
「なんか問題でも?」
「港は国の管理にはなってるが、仕切ってんのは四つのマフィアだ。外からきたり商人ギルドに所属している船なら上納金やら口添え金を払えば口は出してこないが、どこの誰ともわからんヤツには口どころか刃物まで出してくる」
「つまり、オレみてーなガキが港を使いてーって言ったら不審がられて目をつけられるってことかい?」
「だな。マフィアはガキだろうと侮らない。ガキを隠れ蓑にして動くなんて裏の世界じゃ珍しくもねぇからな」
マフィアごとき怖くはねーが、邪魔されんのはいただけねーな。
「船を港に着けるつもりだったのか?」
「ああ。つっても小型の運搬船だがな」
土魔法で船を創り、結界を纏わせれば難しくもなくできあがる。それをオレが操って港に着ける計画を考えてたんだよ。
「ん~どーすっかな~?」
今から船乗りを集めるなんてこともできねーし、仮にできたとしてもオレが操らんと動かせんし、最初から躓きやがったぜ……。
「……なにがしたいかわからんが、船があればいいのか?」
「人と荷物、まあ、中型船で外洋まで出れる能力があれば文句はねーな」
「まあ、人と荷物は交渉次第だが、中型船で腕のいい船乗りが必要なら冒険商人を雇うのもいいかもしれんぞ。まあ、腕がいいぶん、金はかかるがな」
「冒険商人?」
なんだいそれ? 初めて聞いたぞ。
「簡単に言やぁ冒険者の海版ってとこだな。まあ、海なだけに船は使うし、人数も多いがな」
つまり、海の何でも屋ってことであり、金次第ってことか。
「この港にいんのかい?」
「ああ。今なら十二隻はいるぞ」
「結構いんだな」
空から見た感じ、三十隻くらいしか停泊してなかったのに、三分の一以上が冒険商人かよ。
「まあ、船は金食い虫だからな、所持するより冒険商人に依頼した方が安いし、安全だ。なんたって場数を踏んでるからな」
なるほどね~。外に出んとわからんことがあるもんだ。
「そうだな。マフィアに目をつけられて時間を食うよりは何倍もマシか。ならその冒険商人を紹介してくれや。礼ははずむからよ」
「礼はいいさ。旨い酒を飲ましてもらったからな」
ニヤリと笑う船長さんに苦笑する。
そう言われたら素直に受け入れるしかねーじゃんかよ。
「んじゃまあ、頼むわ」
「おう。頼まれた」
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