第173話 神(?)の許し

 なにやら港に活気があった。


 趣味とハルヤール将軍のために創ったところなので、人がいないのが当たり前。静かな港しか見てないので、人(二足歩行してれば人とみなす。あ、人魚や魚人もねっ)がいることがなんか不思議だった。


 でも、嫌な感じはねーぞ。やっぱ人がいてこその港。そして、活気があってこそ本物の港だ。


 ……まあ、光景がファンタジーなのはご愛嬌だがな……。


「にしてもファンタジーにSFがあっても違和感ねーな」


 でもまあ、港も今の時代から先をいってんだから未来的な潜水艦があっても不思議じゃねーか。


 利用してたら慣れんだろうと軽く流し、モコモコ族と話すあんちゃんのところに向かった。


「どうだい、準備は進んでっかい?」


「おう、ベー。だいたいは終わったよ。あとは積み込むだけだ」


 積んである荷物をバンバン叩いた。つーか貝だよな、これ?


「貝なんてどーすんだ?」


「はぁ? なに言ってんだ。荷物入れだろうが、人魚の世界の。知らなかったのかよ」


「ああ、知らんかった。さすが海。地上の常識通じねーな」


 あ、いや、見てるな、これ。食料なんだと思って気にもしなかったわ。


「でも、こんな不安定なもんを積むの大変じゃね?」


 一メートルくらいのハロウィンのカボチャみたいだが、重ねるとか無理だろう、これ。


「まあ、人の船に積むようなもんじゃねーが、普通の木箱よりは頑丈だぞ。それに、人魚の船は吸盤で固定するらしいからな」


 ああ、確かに。なんせ烏賊を使用した生体船だからな。じゃあ、脚の吸盤に固定すんのか。だったらこんな貝がイイわな。


「ん? でも積んでくのタケルの船だぞ。転がるんじゃねーの?」


 それとも未来的な機能があんのか?


「網で固定するって言ってたぞ。まあ、おれもよく知らんがな」


 まあ、持ち主がそう言うんなら大丈夫なんだろう。


「で、そのタケルはどーした?」


 見える範囲にはいねーけど。


「中で出発準備してるよ。にしても変わった船だよな。金属の船とかベーが関わってなけりゃ腰抜かしてるとこだぜ」


「いや、なんでオレが関わってっと平気なんだよ。意味わからんわ」


「いや、それはこっちのセリフだわ。あんだけあり得ないもの作っておいて他人事って、それこそ意味わかんねーよ。おれはお前で非常識に耐性ついたんだからな」


 あ、うん、それはヨカッタデスネー。


 逃げるようにその場を離れ、未来的な潜水艦の艦尾──開放された格納庫へと近づいた。


「……中も未来的なんだな……」


 ハリボテとは違うリアル感が出ている。まさか、ファンタジーな世界でSFな世界を見ようとは。人生なにが起こるかわからんな、ほんと。


「おーい、タケルー! ちょっと出てこいやー!」


 中に向かって叫んだ。


 こーゆー未来的なものには防衛機能や侵入者撃退装置があるからな、下手に入るのは止めておこう。


「──あ、はい。今、いきまーす」


 さすが未来的乗り物。ちゃんと外部の音まで拾えるようになってんだ。スゲーな。


 しばらくして中からタケルが出てきた。


「ワリーな、忙しいのに。勝手に入っちゃマズイと思ってな」


「あ、大丈夫ですよ。その辺は嵐山らんざん──人工知能が判断しますから」


「へー。随分と優秀な人工知能なんだな」


 さすが未来の、じゃなくてアニメ世界の潜水艦。能力が非常識だぜ。


『─ありがとうございます、ベー様』


 うぉっ!? な、なんだいったい? 誰の声だ?!


「あ、今の嵐山らんざんですよ。嵐山。自己紹介を」


『はい、マスター。私は蒼天級万能型潜水艦イ六〇〇改。名を嵐山らんざんと申します。どうかお見知り置きを』


「ス、スゲーな、マジで。人がしゃべってるみてーだ」


 いやまあ、スピーカ越しの声だが、知らねーヤツが聞いたら人としか思えねー流暢さだぞ。


「まあ、アニメでは二百年後の世界で、異星人の技術を組み込んでる設定でしたからね」


 ……そんなものを創り出すのもスゲーが、この世界の技術バランス関係を無視してんのもスゲーな。こっちの神(?)は補給なしの介入だけで良かったのか……?


「その辺は突っ込んでもしゃーねーな。叶えられたんだからイイってことだろう。なら気にすんなだ」


 なにを考えてるか知らんが、神(?)の許しが出たと解釈してありがたく使わせてもらおうじゃないのさ。


「それより荷物、あんなんでイイのか? あんちゃんは網で固定するとか言ってたが」


「あ、はい。荷物の上からネットを張って固定させるから大丈夫ですよ。あと、格納庫は重力制御されてますから反転しても荷は崩れません」


 あ、うん、なんでもありってことね。オッケー。


「なら、もう積んでも構わねーか?」


「はい。大丈夫です。出発は午後で変わらずですか? 嵐山らんざんはいつでも出発可能です」


「そっか。なら積んだら出発すっか。どうせ昼はここで食おうとしてたし、それなら潜水艦の中でも構わんだろうよ」


 潜水艦の中の食堂も知ってた方がイイし、そうするか。


「じゃあ、積んだら出発な」


「了解です」


 ピシっと敬礼するタケルに苦笑し、モコモコ族に積み込む指示を出した。

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