第162話 ドラッグストアー

「へ~。スゲーじゃん」


 ジャックのおっちゃんの新しい店を見て思わず感嘆の声が漏れた。


 一般的な店持ち商人の店は、だいたい十二畳くらいの間取りで、ジャックのおっちゃんの店は、その倍、いや、三倍に近い。


 しかも店持ち商人のステイタスと言われるひさしつきだ。


「繁盛してんな~」


 去年までは街の薬屋さんだったのに、ドラッグストアーくらいになっていた。


 客層も街の人や冒険者だけじゃなく、行商人と言った客まで来ていた。


 中に入ると、まさしくドラッグストアーだった。


 店の半分は薬剤で残り半分は加工食品や健康食品(?)が陳列されていて、この時代では明るく入りやすい造りとなっていた。


 ……あーそう言やぁ、ドラッグストアーのこと話したことあったけな……。


 物珍しい、と言うよりは懐かしい感じで店内を散策する。


 薬関係は物珍しいもんはないが、商品棚にダミーの薬剤が並べられ、効能や値段が記載されていた。


 加工食品棚を見れば、ペラのハチミツ漬けや近隣で採れる果物、はたは遠い異国の果物を漬けたものがあり、薬茶や果樹酒が並んでいる。


「よー集めたもんだ」


 大きな街とは言え、これだけのものを集めるとなるとどれだけの商人から買ってるのか想像もつかんな。イイ仕入れルート持ってんじゃんか。


「べー!」


 王都で見た干し豆を見てたらジャックのおっちゃんの声が店内に轟いた。


「おう、兄弟子。元気か?」


 オババの二番弟子は、現在六十……うん才。二十半くらいで免許皆伝的なものをもらってから冒険者となり、各地を回り、冒険者の腕と薬師の腕をあげ、三十……うん才からこの街に住み着き、薬師として生きてきた。


 去年までは普通のおっちゃんだったのに、なにやら大商人の風格が……つーか、下っ腹出てきたな。そんなに旨いもん食ってんのか?


「今年もよーきたな。ちゃんとここがわかったか?」


「ああ。大丈夫だったよ。まあ、店が変わってたことには驚いたがな」


「ワリーな。半年前に急にここが空いてな、いろいろあって手紙を出す暇がなくてよ」


「構わんよ。手紙代もバカにならんしな」


「そう言ってもらえると助かるよ。師匠や村はどうだ?」


「オババは元気だよ。あれならあと十年は心配いらんだろうさ。村も変わらずだな。まあ、いつもきてた行商人のあんちゃんが嫁さんと一緒に村に住んだり、ドワーフの家族が住むようになったりと、小さなことはあるがな」


 大きなことは内緒なのでないことにさせていただきます。


「いや、大事だろうが」


「そうか?」


 別に村のモンから反対の声は上がってねーし、行商人時代から頼りにされてるぞ。


 ドワーフの家族の方はまだなんとも言えんが、そんな悪いおっちゃんではなかった。まあ、オレがフォローすれば大丈夫さ。


「まあ、どうせお前が関わってんだろうから問題はねーか」


「まあ、ねーな」


 そう言うと呆れ果てた顔された。


「まあ、平和でなによりってことだ。今、茶出すから上がれや」


「あ、いや、ワリーけどゆっくりもしてらんねーんだよな。この後に修道院に行って冒険者ギルドに寄んなくちゃなんねーからよ」


「随分と慌ただしいんだな?」


 いつもならジャックのおっちゃんのところで世間話と言う名の情報収集してるんだよ。


「ああ。いろいろ頼まれててよ、忙しいんだわ」


「そうか。そりゃ残念だ。ラーダも楽しみにしてたんだがな」


 ラーダってのはジャックのおっちゃんの娘で、薬学に興味があるようで、くる度に薬の調合や配合を聞いてくるのだ。


「なに、落ち着いたらまたくるよ。薬草が欲しいしな。ほれ、今年のだ」


 収納鞄からジャックのおっちゃんに卸す薬草(ラーシュの国で採れたものや砂糖、果物とかもな)が詰まった収納鞄を取り出して渡した。


「いつもワリーな。ちょっと待ってろ」


 奥へと下がり、しばらくして収納鞄を持ってきた。


「今年はサラギの葉が不調で半分も集められんかったが、他はいつもの通りだ」


 ジャックのおっちゃんから渡された収納鞄の中身はこの辺で採れる薬草や各地から渡ってきた薬草が詰まっているのだ。


「サラギなら去年のがまだあるから大丈夫さ」


 収納鞄を収納鞄に仕舞う。


「んじゃ、また来るよ」


「おう。楽しみに待ってるよ」


 軽く挨拶して次の目的地へと向かった。

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