第160話 謝罪の仕方
「ん?」
商人通りへ向かって歩いていると、左右を誰かが追い越した。
まあ、天下の往来だ、追い越されるくらい不思議じゃねーが、その追い越したヤツが振り返り、オレの行く手を塞いだのだ。
どちらも十代後半くらいの、なにやら柄の悪そうな野郎どもであった。
「なんだい?」
そう聞くが、野郎二人はニヤニヤ笑うだけだった。
しょうがねーなと横にズレると、野郎二人がまたオレの行く手を塞いだ。
ヤレヤレ。自ら火に飛んでくるとは物好きな野郎どもだ……。
「へへ。スゴい買いっぷりだね、坊や」
「そんなに金持ってんならおれらに分けてくんねぇかな?」
なにやら威圧しているようだが、オークやらオーガらを狩っている者にしたらクセー豚が近づいてきたようなもの。邪魔クセーだけだ。
「一昨日きやがれ」
吐き捨て、回れ右したら背後にも豚野郎が行く手を塞いでいた。
「どいてくんねーかな?」
無駄なのはわかっちゃいるが、万が一ってことがあるからな。
「悪いねーボク。おにいちゃんたち悪いおにいちゃんらなんだよね~」
「そうそう。諦めてね~」
……メンドクセーな、まったくよ……。
「ワリーことは言わねー。大人しく帰りな」
なんて親切心など届く訳もなく、小突かれながら路地裏へと連れていかれた。
路地裏には野郎四人だけではなく、十五、六の少年らが三人いた。
「さぁ~て。持ってるもんだしてくれるかな?」
「叫んでも無駄だぜ。ここいら辺はおれたちの縄張り。誰もこねぇからよ」
イヤらしく笑う野郎ども。そう言やぁ、去年もこんなことあったっけ。どうでもイイから忘れてたよ。
「あんたら、この街にきて一年も経ってねーだろう?」
「あぁ? それがなんだって言うんだよ」
「いやな。去年もここに連れ込まれてな、金出せとか言われたんだよな」
「ギャハハ! そりゃ運がワリィーな。バカかオメーは!」
野郎どもが笑う中、一番年下の少年だけは笑わなかった。それどころか真っ青になっていた。
「あんたはこの街のモンらしいな。なら、全裸で街ん中を走ったバカどもの話は聞いてるよな?」
真っ青な少年が真っ白になり、地面にヘタリ込んでしまった。
「お、おい、どうした!?」
「なにやってんだ、コリー!」
仲間の少年はこの街の出身じゃねーようで、コリーと呼ばれた少年を揺さぶっていた。
「テメー! なにしやがったッ!」
十代後半組が腰の鞘から短剣を抜いた。はい、有罪決定です。
まだ素手でのカツアゲならボコボコで許してやったのだが、刃物を抜いたからには容赦はしねー。殺しにきたとみなす。
「捕縛」
で、全員の動きを封じた。
「なに──」
「──しゃべんな」
テメーらの声など聞きたくねーわ。
「お前らには三つの選択を与えてやる。一つ。死ぬ。二つ。全裸で街中疾走。三つ。謝罪二百回。好きなものを選べ」
たぶん、こいつらのリーダーらしき野郎の結界を緩めてやった。
「──テメー! 放し──ぶへっ」
「オレは三つの中から選べって言ってんだよ。無駄口叩くな、アホが」
野郎の頬を軽く叩いて黙らした。
「早くしろ。選べねーのならこっちが選ぶぞ」
「わ、わかった、選ぶ、選ぶから止めてくれっ!」
ったく。手間取らせやがって。
「──しゃ、謝罪だ! それを選ぶ。それにするから止めてくれ!」
「それでイイんだな?」
「あ、ああ! それにするよ!」
「よし。なら謝罪の言葉を言うからしっかり覚えろよ。イイな?」
野郎の目を見てニッコリ笑う。
「『ぼくは悪い子です。二度と悪いことはしません。許してニャン』だ」
「……は?」
「は? じゃねーよ。それを二百回だ。言い切ったら解放してやるよ。言い切らなかったら解放されんがな。まあ、そこはオメーらのがんばり次第だ」
ポンポンと野郎の肩を叩いた。
「よし。なら謝罪といきますか」
野郎どもの結界を操り、街の憩いの場の中央へと移動させる。もちろん、オレは結界使用能力ギリギリのところにいるぞ。関係者だと思われたらイヤだしな。
憩いの場の中央に並んだら野郎どもに、そこにいた人らがなにごとかと注目する。
「なんだ?」
「見世物でもやんのか?」
「あ、あいつらこの辺の悪ガキどもだぞ」
イイ感じに人が集まってきたのに、野郎どもは謝罪を始めない。ったく。どこまでも手間かけさせやがって!
結界を操り、野郎どもの首を軽く絞めてやる。
やらなきゃもっと絞めんぞゴラぁ! と、こちらを見る野郎どもに目で脅してやる。
「ぼ、ぼくは悪い子です! 二度と悪いことはしません! 許してニャン!」
一瞬、場が静かになるが、すぐに大爆笑の渦となった。
まあ、これを期待してたんだが、なんか違う──いや、足りんな。なにが足りん?
なんだと考えてたら、視界に猫の獣人が入った。いや、正確にはその耳にだ。
──あ、そーか。ポーズだ。ポーズが足りなかったんだよ!
いけねーいけねー。それがあってこそのニャンだろう。忘れてんじゃねーよ、オレ!
「ぼくは悪い子です! 二度と悪いことはしません! 許してニャン!」
許してのところで両拳を耳元まであげ、招き猫のようなポーズん取らせ、ニャンでウインクさせた。
──ぶふっ!
我ながら会心のできに吹き出してしまった。
ヤベー! 我ながらヤベーよ。最高すぎて腹イテー! 笑い死にそーだ。
もうダメだ。これ以上見てたら死ぬと、這いずるように憩いの場から立ち去った。
「ふぅ~。マジヤバかったぜ……」
なんか火竜と戦ったときより疲れたよ。
息と心を落ち着かせ、次の買い物へと向かった。
次の日、この謝罪が街の話題となったようだが、オレの耳に入ったのはずっと後で、すぐに忘れてしまった、どうでもイイ話だった。
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