第110話 小賢者

「さっそくだが、領主に陳情書を書いてくれねーか」


「は? なんだ突然?」


 まあ、確かに突然だったな。


「ワリー。はしょり過ぎたな。親玉のことはオレの方でなんとかするが、あくまでも村は関係ねーことにしてー。だから領主に最近魔物の出現が多いから調べて欲しいと陳情してくれ」


「いや、さっぱりわからん! それとこれがどう繋がるんだ!」


「陳情書は、将来このことがバレたとき、なぜ報告しなかったの責めを回避するためのものだ。ここでなんの報告もしなかったら親玉と村の関係を決め付けられ、見せしめに殺されるかもしれねーし、うちのアホ領主に責任を押し付けられるかもしれねー。そうならねーための布石だ」


 報告はちゃんとしておくのが責任回避の基本だ。


「だが、あの領主のことだ、そんなもの知らんと惚けるんじゃないか?」


「ああ、そうだな。なんで、冒険者ギルドにも村を護衛する依頼を出してくれ。C以上の冒険者を募集。一日大銅貨五枚。護衛期間は要相談。村の専属になってくれるなら住む場所は村で提供。負傷した場合は村の薬師が診てくれますってな」


「来るわけなかろうがっ!」


「だろうな」


 C級以上の冒険者なら一日銀貨四枚は必至だし、護衛期間要相談なんてあいまいどころか怪しい過ぎて見なかったことにするだろう。ましてや村の専属なんて損でしかねー。いくら住む場所や薬師の援助はあっても普通に依頼を受けていれば充分に稼げるだろう。


「なら、なぜ?!」


「領主が惚けようが握り潰そうが、冒険者ギルドの情報までは手は出せねーし、出したら冒険者ギルドを敵に回す。ちゃんと陳情書を送ったことを証明するもんだ。だから依頼を受けてもらわなくても構わんし、仮に受けてくれるヤツがいるならガンバって村を守ってもらうまでだ」


 もしクズ野郎がきたのならエリナに美味しくいただいてもらえばイイし、物好きなバカがきたら丁重にもてなせばイイだけだ。


「低すぎず高すぎもしない。村で出せる精一杯の報酬。切羽詰まってる感じだろう?」


「……ま、まあ、そりゃそうだが、そんなに上手く行くものなのか?」


「それだけじゃあ、ダメだろうな。だから、他の街でも依頼を出すし、小細工はする。あくまでもこれは、領主のアホが村に手を出させねーためのもんだ。領主の方は別の手を打つさ」


 困ったときの友達頼み。力とコネは最大限に利用しましょうだ。


「他の街へ依頼はオレがいくよ。そろそろルククが遊びにくるからな」


 ここから王都まで十日くらいの距離(一日二十五キロから三十キロ歩いての場合)もルククにかかれば三時間くらい。竜、ハンパねーぜ。


「なんでしばらくしたら伐り場を解禁してくれ」


「わかった。五日くらいでイイか?」


「ああ、それでイイよ」


 山部落と薪置き場の残量からして十日は持つ。まだ初夏前だから充分取り返しはつくだろう。さすが村長。よく見てるぜ。


「行くのはいつになるかはわかんねーが、そんときは薪の納めは後にしてもらうぞ。泊まりではねーが、朝早く、数回に分けて行くからよ」


 いろいろ回りてーところもあるしな。


「お前から充分すぎるくらいの薪は納めてもらってるし、薬代の払いが溜まっておる。気にせんでもよいわ」


「ありがとよ」


 別に礼を言う必要もねーんだが、まあ、よりよい立場を構築するための手段。小さいことの積み重ねが大事なのだ。


「んじゃ、なんかあったらまたくるよ」


「なるべくこまめに下りてきてくれよ。小賢者どの」


 ったく。恥ずかしいからやめてけれ。

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