第71話 そんな男になりてーよ
「ベー。薬代は幾らになる?」
山小屋に置いてあるハーブティーで一服した後、ザバルのおっちゃんが聞いてきた。
オレは薬師ではあるが村専属の薬師ではなく、副業としての薬師だ。
専属と副業、なにが違うかと言うと、専属は村から金をもらい村人をタダで診る(本当は調合する、または煎じると言うのだが、オレは診ると言っている)。多くても少なくても村から出る金は一定だ(税金を引いた分な)。
副業は個人相手。怪我したヤツから薬代をもらっている。まあ、個人が払えないときは村からで、怪我したヤツは分割で村に払うことになっているがな。
厳しいと思うが、こればっかりはしょうがねーよ。薬師としての立場と糧を守るためにもタダにはできねぇし、健康保険なんてねーご時世では自分の命は自分で守るしかねーからな。
それに、うちは恵まれている方だ。薬師が三人(見習いは入らない)もいる村なんてなかなかなねーんだからな。
「銀貨三枚と銅貨十枚だな」
高い! なんて言うなよ。さっきの治療を街でやったら銀貨二十枚は取られるからな。それも良心的な薬師だったら、って前提でだぞ。
材料費だけでも銀貨十三枚はする。それらを調合する技術料で銀貨七枚なんてありえねーからな。
村で薬師をやれるくらいの知識を身に付けるのに最低でも五年。調合技術をマスターするのに最速で十年。師匠のサポートの元、五年は経験しなくちゃなんねー。具合(症状)を見抜けるなんて一生勉強(オレの場合は前世の知識があるし、調合は天秤を使用し、計算してメモを取れるから早く薬師になれたのだ)だ。一人立ちするまでに費やした時間を考えたら決して安くねー代金だぞ。
「そうか……」
ザバルのおっちゃんもそれがわかっているから文句は言わない。普通なら死んで当たり前。奇跡的に助かっても寝たきり状態。看病と言う名の放置で一年もしないで死ぬことだろうよ(経験談)。
もちろん、オババのところで診てもらえば助かるし、タダ(まあ、薪代から引かれてはいるがな)だ。
だが、オババは高齢で伐り場までこれる体力も気力もねー。無理してきたら道半分で死ぬぞ、絶対。
だからと言ってこちらからいくなんて無謀以外なにもんでもねー。伐り場へと続く道は悪路だ。そこを運んでいったらやはり道半分で死ぬわ。
村長つう手もなくはないが、それをするには状況と容態を的確に教えなければ薬の調合はできねー。オレのように結界術があるわけじゃねーから作り置きなんてできねーし、していたとしても量が違えば治癒力が暴走して心臓麻痺を起こしかねない。
ファンタジー薬とは言え、量を超えたら毒でしかねーし、どっかからエネルギーを持ってきてくれる訳でもねー。あくまでも治癒力を促進させるまでだ(まあ、そーゆーのもあるが、そんなもん王様か大貴族しか持ってねーよ)。そのための栄養丸と薬水だ。
その点、オレならすぐに駆けつけられ、適切な薬を投与(結界術で)できる。しかも、後遺症を残さねー(切傷の場合ね)。更に安いときてる。
これで文句言われたらオレは薬師辞めるよ。割りに合わねーもん。
「いつもすまねーな」
ザバルのおっちゃんの感謝のこもった謝罪に笑みが溢れる。
それだけで報われるってもんだが、素直に礼を言うのも違うような気がするので、ザバルのおっちゃんの肩を叩いた。
「なに、こっちも経験を積ましてもらってんだ、気にすんなって」
だいたいにして十歳のガキに命預けるとかありえねーよ。いくら神童(笑)でも経験のねーヤツに命預けるなんてバカだろう。そんなバカに敬意を払って当然だ。
「……まったく、ベーには敵わんよ……」
なにが敵わんかは知らんが、オレから見たらザバルのおっちゃんの方がスゲーよ。
「それはオレのセリフだぜ」
前世を通して今のオレではザバルのおっちゃんの足下にも及ばねーよ。
「四人の子供を育て二十五人もの家族養うばかりか、こうして樵衆を纏めあげる。男として、父親として、スゲーよ。イイ男すぎて直視できねーわ」
比べても意味はねーとわかっちゃいるが、どうしても比べてしまう。
前世のどうしようもねーオレと、結婚して家族を養う男との差にな。バカだぜ、ほんと。
「オレはそんな男になりてーよ」
まあ、こんなオレが結婚できるとは思わねーが、
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