第68話 武器庫4

 三人のねーちゃんが手にした武器やら防具を嬉しそうに、まるでオモチャ遊んでいるかのようだった。


 まあ、冒険者やってるくらいだから街にいるような女とは感覚が違うんだろうが、嬉々としている女ってのはなんかシュールだな……。


「んで、アリテラはどうする?」


 あ、そー言やぁ、アリテラってなに系なんだ? 武器らしい武器は持ってなかったし、フードしか記憶にねー。下になになんか隠してんのか?


「そーね。わたしは精霊魔術師であり弓士だから弓か杖なんでしょうけど、杖も弓も愛用のがあるし、サプルちゃんと同じで矢は必要としないし、これと言ったものは思い浮かばないのよね」


「そうね。実力的にはAに近いBだものね、アリテラ」


「そのフードも並みじゃないしね」


「弓も凶悪だし」


 アリテラさん、オレが想像するより強いみたいッスね……。


「なら、道具か?」


「道具? って、収納鞄?」


 首を傾げるアリテラ。


「まあ、収納鞄もだが、そうだな。先に鞄の方をやっとくか」


 その他置場から収納鞄を四つ、持ってきた。


「前にも言ったが、この収納鞄は無限じゃねーし、鞄の口以上のもんは入らねー。入る容量はだいたい荷馬車一台分だ。だが、鞄が閉まっている間は時間は凍結されるから生物なまもん運ぶには適してる。まあ、特別仕様に空間庫ってのがあんだが、これはあんまり薦められんな」


「どうして?」


「ザンバリーのおっちゃんに飛竜を入れるものを作ってくれと言われて作ったんだが、飛竜大の扉がどうにも作れねーんだよ」


 飛竜ってもう怪獣の域。オレの結界使用範囲を超えているので扉から入りきれないのだ。しかも、オレの想像力が低いのかそれとも使用能力の限界なのかは知らんが、半径三十メートル(上下もな)以上はどうしても広げられんのだよ。


 継ぎ足す方法やら吸収する方法などいろいろ試してみたのだが、どうにも成功してくれねーんだよ。半径三十メートル以内なら超便利な結界術なのによ。


「まあ、作ったのは作ったんだが、デカ過ぎて場所をとんだよ」


 扉はシャッター方式にしたんだが、高さ二十五メートル。幅二十メートル。これ、どこで開くんだ? 人に見られたらなんて説明すんだ? オレの貧相な想像力でも厄介事しか見えねーよ。


 真実をぼかしながら説明した。


「ねーちゃんら、欲しいか?」


 その問いに四人で視線を絡めさせ、「いらないわ」とハモらせた。だろうな。


「んじゃ、ボツってことで、本題の道具だ」


 またその他置場に行き、腕輪を四つ持ってきた。


「ねーちゃんらは女同士だからイイだろうが、男女混合のパーティーの悩みってなんだと思う?」


 四人がまた視線を絡めさせ、首を傾げさせた。


「用足しだよ」


 オレの言葉が理解できないのか、四人とも反応がない。


「まあなんだ。あれだ。人間でもエルフでも食ったら出すだろう。移動中にすんだろう。そんとき、女は仲間の前でもできんだろう」


 便所の文化が低いとは言え、さすがに人前でするほど羞恥心は低くはねー。男だろうと女だろうと見えないところでするもんだ。


 村や街、便所があるところがあるならイイが、冒険者の移動中にんなもんがある訳ねーし、したくなったらどこでもってわけにもいかねー。安全な場所で仲間たちに見えないところでなくちゃならん。


「で、知り合いの女冒険者がどこでも安全に、誰にも見られないように用足したいって言うんでそれを作ったわけだ」


「……た、確かに、わからないではないわ……」


「そう、ね。わたしら女同士とは言え、目の前ではできないものね……」


「混合依頼のときは、それで一悶着あるしね」


「あのときの男って本当に最低よね」


 ねーちゃんたちも苦い思い出があるようだな。


「それを解決したのがこの腕輪だ」


 そう言って腕輪を四人に渡した。


 不思議そうな顔をしながらも腕輪を装着する。


「んじゃ誰か、腕輪を掲げて『迷彩発動』って言ってみな」


 目線だけで会話ができるのか、斥候系ねーちゃんに決まった。以心伝心か?


「迷彩発動──」


 と、腕輪から膜が膨らみ、斥候系ねーちゃんを包み込んだ。


「え?」


「は?」


「あらまあ……」


 消えてしまった斥候系ねーちゃんに、三人がそれぜれの驚きを見せた。


「これこの通り外からは見えねーし、中から音も臭いも漏れることはない。外の声は聞こえるようにしてある。あと、中には便器が作られるからそこに座って用足しできるからな。出したもんは乾燥させてポイだ。それも見せんのが嫌なら土を便器の中に入れればわかんなくなるよ。で、迷彩解除で消えるから」


 注文した女冒険者が納得するまで作り込んだから不備なねーはずだぞ。


 迷彩が解除され、斥候系ねーちゃんが茫然とした顔して現れた。


「いるかい?」


 聞くまでもないが、ここは聞いてこそのシメである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る