第101話、ヒヨコ、人化魔法に挑戦する
俺と魔導師団長による魔法講義が終わると、レルムが好奇心剥き出しではーいっ!と片翼を上げて質問してきた。
「ねーねーにぃに、人型になれる魔法ってないの?」
……珍しい。とても珍しい。
あのレルムが戦闘と直接関係ない魔法に興味を惹かれるなんて。
「珍しいね。レルム兄さんが戦闘系の魔法以外に興味を持つなんて」
言外に「この脳筋にそんな思考があったのか」と言って驚愕するレイン。実の兄に容赦ない。
「だって、人型になったら武器で戦えるでしょ?魔法特化だと魔法を封じられたりしたらおしまいじゃん。それに人型になれればいざってとき動きやすそうだし」
あまりの感動に両翼で口元を押さえた。
あのレルムが……脳筋だ戦闘狂だとばかり思っていたこの子が……そこまで考えられるようになるなんて……っ
最終的には結局戦うことに思考が傾いてるけど、人型になったときの利点も考えてるから良しとしよう。
俺達の会話を拾った魔導師が思い出したとばかりに声を上げた。
「あ、騎士の皆さんも言ってましたよ。もし賢者様が人間になれたら遠慮なく手合わせできるのにって」
「てか、賢者様が剣術にも秀でていたなんて知らなかった」
ふむ。確かに騎士達も言っていたな。俺が人型になれたらビシバシ指導してもらいたいって。このヒヨコ体型で手合わせは無理があるからな。
「うーん……一応、大まかな術式は目処が立ってるが……」
「まぁ!騎士から話を聞いたのはつい先日でしたのに、もう術式を完成させたのですか!?」
アイリーンさんが興奮気味に詰め寄ってきた。その圧力に若干気圧されつつ曖昧に頷くと、レルムをはじめ皆の目が輝き出す。
是非ともその魔法を見てみたい!とその顔が物語っていた。
「……仮の術式だが、試してみるか」
可愛い弟達と可愛い従魔にキラキラ輝くつぶらな瞳で見つめられて否とは言えず、新たな魔法をお披露目することに。
魔導師達も見物する気満々で、講義に使っていた机と椅子を移動させて見やすい場所まで近付いてきた。
念のためアイリーンさんに離れてもらい、全員一定の距離が開けたところでゆっくり術式を構築し始める。
見た目だけを変える幻覚などではなく、見た目も中身も……即ち根本的な肉体構造を改変させる魔法なんて初の試みだから、慎重にやらないと。
サクッと魔法を使ういつもと違って慎重に魔法を行使してるからか、周囲は緊張感に包まれる。
皆が固唾を飲んで見守る中、ついに術式が完成した。
術式から淡い光が放たれ、その光が俺を優しく包み込む。
みるみるうちに目線が高くなり、肉体が前世のそれに近いものに変わっていく。
やがて俺を包み込んでいた光がゆるやかに収束した。
肉体に異常はなし。目線の高さからして5、6歳くらいか?人間の実年齢と同等の背丈になるならこれが妥当か。
前世の死ぬ前の成人した姿になりたかったのが本音だが、あまりに実年齢から掛け離れた姿にしようとすると肉体に大きな負担がかかる可能性がある。生物に直接干渉する魔法だからリスクはなるべく減らしたい。
そうやって冷静に自己分析していた俺は、今の自分の見た目がどんな姿なのかという問題が頭からすっぽ抜けていた。
「ギャーーヒヨコ魔人ーーーー!!!」
レルムの叫び声にハッと我に返る。
魔人だと!?魔族の中でトップクラスに強いやつじゃないか!この世界では最後に魔族が発見されたのは随分昔のことで、今は誰もその姿を確認できていないらしいのに、いきなり最上位魔族が襲来してきたってのか!?
慌てて魔力探知を発動し、周囲を警戒するも何の反応もない。
それでも警戒を解かず弟達を守ろうと一歩踏み出すと、身内だけでなくその場にいた全員が三歩ほど下がった。ドン引きした顔で俺を凝視しながら。
あれ?何かおかしい……と首を傾げていたら、後ろから肩をポンッと軽く叩かれた。
振り返ってみると、何故だか同情を多分に含んだ妙に優しい表情で俺を見下ろすルファウスがいた。
そして主の意図を察し、すかさず俺の前に鏡を持ってくるレスト。今にも爆笑しそうなのをぷるぷる震えながら必死に堪えている様子のレストに更に首を傾げたが、鏡に映る自分を見て硬直した。
「な……なな……っ!なんだこの化け物はーーーー!!?」
思わず今世最大の叫びを上げてしまう。
頭はヒヨコのままで、頭から首にかけて細くなり逆三角形みたいなフォルムになり、鳥類の立派な胸毛が生え、首から下は人間。しかし体毛が黄色い。
そして忘れてはならない、鳥類獣人に衣服を着る概念が存在しないことを。
そこには、一糸纏わぬヒヨコ頭の変態怪物小僧が仁王立ちしていた。
いやこれ無理。叫びたくもなるわ。
レルムが叫んだのも全員がドン引きしたのも納得の酷い有り様。誰だよこんな化け物生成したの。俺だわ。
遅れ馳せながら可愛い弟に叫ばれたショックが俺を襲う。
そうか……ヒヨコ魔人って俺のことだったのか……確かにこんな容姿をした怪物、魔族と間違えても不思議ではないな。
……この魔法は要改善せねば。
鏡に映る自分からさっと目を逸らして早々に魔法を解く。
ヒヨコの怪物からただのちんまりヒヨコに戻った俺にほっと安堵の息を溢す面々。
「ごめんねにぃに、あまりにも気持ち悪くてつい……」
「ぐはっ」
「兄さん。どうやったらあんな醜悪な魔物が爆誕するの?」
「ごふぅっ」
弟達の純粋な言葉の刃が俺の心に致命傷を与えた。
すがるようにブルーを見つめるも、先程の姿が頭から離れず俺に近寄ってきてくれない。
人化魔法はしばらく封印しようと固く誓った。
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